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「ヒトラーの忘れもの」が描く2つの忘れもの

置き去りにされた少年兵たちの苦悩

冒頭、ドイツ兵が暗い顔で並んで歩いている。中年のデンマーク軍曹が、その列の中にデンマーク国旗を持つドイツ兵を見つけて殴り倒す。

「ヒトラーの忘れもの」はそんな憎しみが暴発するシーンから始まる。殴られた兵士は理不尽に思うだろう、だがなぐったデンマーク兵もまたドイツ軍によって理不尽な思いをしてきたのであろう。1939年に不可侵条約を結んだその翌年に、ナチスドイツに侵攻された。不本意ながら素早く降伏し、犠牲は少なかったが、その後デンマーク軍は不本意ながらドイツ軍に協力することになる。

冒頭は、祖国を我がもの顔で荒らされた理不尽を、理不尽の暴力で返すシーンだ。映画全体もこのような理不尽が別の理不尽を呼ぶような構成になっている。

本作は、ナチスがデンマークの海岸に埋めた地雷を、置き去りにされたドイツの少年兵たちが除去作業をさせられる様を描く。捕虜の扱いはジュネーブ条約によって決められている。地雷除去を捕虜にさせることなど、本来は条約違反にあたる。

しかし、デンマークはドイツの軍事保護国であり、交戦国ではなかった。要は敵国兵ではないので、ジュネーブ条約適用外であった。彼らは厳密には捕虜ではなく、「傷病兵の移送や収容所での世話を建前にデンマークに残された故国に捨てられた敵国人」という扱いであった。

戦争末期にもなると、ナチスは多くの少年兵も動員していた。そして戦争終結後、デンマークに残された少年兵たちが、ナチスドイツの「忘れもの」である海岸の地雷除去に駆り出された。

地雷を勝手に埋められた理不尽の尻拭いを、置き去りにされた少年兵に理不尽に命じる。本作はそんな連鎖に苦しめられた少年兵たちと、彼らを指揮することになったデンマーク軍曹との葛藤と心の触れ合いを描く。

憎いが憎みきれない軍曹の葛藤が胸に迫る

本作の物語の中心となるのは、冒頭でドイツ兵を殴りつけるスムスン軍曹と、彼が指揮することになったドイツの少年兵の地雷除去作業だ。人一倍ドイツ兵に対して憎しみを持つ軍曹は、ドイツ兵の命を無駄にすることに対してなんとも思っていない。しかし、それが少年兵であることにはさすがに動揺する。

ナチスドイツには多くの罪があるだろう。しかし、置き去りにされた、彼ら少年兵にはどの程度の罪があったのだろうか。軍曹は逡巡する。まことに人間らしい葛藤だ。憎しみはある、しかし悪人になりきれるわけでもない。素手での地雷除去など、緊迫感のあるシーンが数多い作品だが、この軍曹の人間らしさが映画のキモだ。

デンマーク映画は、こうした葛藤を作るシチュエーションを作るのが上手い作家が多い。2016年公開の「ある戦争」や、スザンネ・ビア監督の「ある愛の風景」など、戦争を背景にした、個人の逡巡を身につまされる説得力で描いた力作がたくさんあるのだが、本作でも葛藤によって揺れ動く軍曹の感情は非常大変に良く描けている。

邦題の「忘れもの」が意味する2つのこと

ところで、本作の邦題はあまり評判が良くないようだ。作品内容に対して、印象が軽すぎるというのが反対者たちの主な意見のようだ。

僕はこの邦題は良いと思った。「忘れもの」という言葉が指すのは、当然地雷のことだが、もうひとつ地雷除去をさせられる、置き去りにされた少年兵たちも「忘れもの」だ。おそらく邦題をつけた配給・宣伝チームの方々は二重の意味をかけたかったのではないか。

戦争が終わり、忘れもののように置き去りにされた少年たちが、命を軽々しく奪う別の忘れものを処理するために使われる。まさに彼らの命がモノとして軽く扱われる理不尽。

この2重の意味に気づくと、少年兵たちをモノとして扱わなければいけないことに葛藤する軍曹の苦しみがより切実に伝わってくる。邦題の付け方も字幕の作成も(そもそも外国語の翻訳自体が)、訳者がどう解釈したかがにじみ出るものだ。

外国作品はその意味で2重の楽しみ方があると思っている。オリジナルの作者の意図を読み解くことと、訳者の解釈を汲み取ることだ。邦題がどうしてこうなったか、否定する前に、一見変だと感じてもその意図を考えてみるのも、ひとつの楽しみ方だと思う。

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