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英EU離脱後のフランスの極秘誘致計画

 【パリ】フランスのフランソワ・オランド大統領は昨年10月末、大手米金融機関JPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモン最高経営責任者(CEO)と会い、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)後、どのようにすればフランスは金融業務の仕事をロンドンからパリに誘致できるかと尋ねた。

 ダイモン氏のメッセージは素っ気なかった。フランスが厳しい労働法を緩和しない限り、大手銀行がロンドンからフランスに大勢の従業員を移動させる公算は極めて小さいと述べたのだ。

 オランド大統領は、2017年のフランス大統領選で再選を目指さないとは当時まだ発表していなかったが、ダイモン氏に対し、状況は今後変わるだろうと述べた。だが同時に、それは自分の後継大統領の下でのことになるだろうとも付け加えたという。

 事情に詳しい関係者によれば、オランド大統領は「われわれは(ダイモン氏の指摘した点を)理解している」と語り、「問題は複雑だ」と述べたという。

 パリのエリゼ宮殿(大統領官邸)で行われた両者のやりとりは、英国が昨年6月の国民投票で決めたEU離脱に乗じようと他のEU主要国が動くなかで、欧州の政治的エスタブリッシュメント(既存支配層)が切り抜けねばならない「地雷」の存在を浮き彫りにしている。欧州大陸の主要都市は、欧州の金融センターであるロンドンから移転しようとする職場を誘致しようと競い合っている。しかし、フランス、ドイツ、オランダでは選挙が近づき、マリーヌ・ルペン氏の率いるフランス国民戦線(NF)などポピュリスト(大衆迎合)政党が世論調査で支持を集めている。そんななかで、各国政府は、米銀など世界の大手銀行に有利な扱いを約束して公然と誘致すれば国内世論の反発を受けかねないと恐れている。

 フランスなどの政府は、公然たる誘致作戦の代わりに、金融業界との静かな外交ラウンドに着手した。それは、今年の選挙結果がどうなろうと、自分たちの金融ビジネスをロンドンからシフトし始められるという保証を世界の大手銀行に提供することだ。

 例えばフランスでは、オランド政権は前フランス銀行(中央銀行)総裁のクリスチャン・ノワイエ氏を起用し、次期政権との橋渡し役として動いてもらうことにした。関係筋によれば、銀行誘致のための新奨励措置の交渉や履行の仲介役になるという。

 フランソワ・フィヨン氏は、5月の大統領選挙の中道右派政党・共和党候補者だが、関係筋によると、フィヨン氏も、自分たちの誘致案を話し合うため銀行業界関係者と会談した。選挙運動では、フィヨン氏はフランスの雇用保護措置を執拗に批判している。

 銀行業界はというと、その間手をこまねいているわけには行かない。英国とEUとのブレグジット交渉は今年初頭に始まる予定。銀行業界幹部らは詳細な誘致プランを作成し始めた。英国がEUの金融市場へのアクセスを確保できないのが確定的にみえる段階で、そのプランを迅速に実行できるようにするためだ。

 競争は激化しており、たとえ数千人分の雇用を拾い上げるだけでも、パリ、フランクフルト、あるいはダブリンといった都市に多大な効果をもたらすはずだ。これらの都市の金融センターはロンドンの規模のせいぜい何分の一かにすぎないからだ。これらの都市の影響力は、近く実施されるEU規則によって強化される。それは、大手の非EU銀行がEU域内に拠点を置きたいと望むならば、子会社を域内に設立し、追加資本を維持するよう義務付けられるという規則だ。この結果、英国が今後どのようなブレグジットの形態でEUと合意しようと、非EUの大手金融機関は顧客サービスのためEU域内に相当大きな事業拠点を配置せざるを得なくなるだろう。

 一方、英金融規制当局高官のアンドリュー・ベイリー氏は最近、英下院で証言し、英政府のブレグジット交渉の立場をめぐって不透明な部分があり、ロンドンにそのまま残るよう銀行を説得する英国の力を弱くしていると述べた。

 これまで銀行各行は英国以外の欧州で、既に若干の事業を行っている拠点の規模拡大におおむね注力してきた。例えばHSBCホールディングスは、既にリテール部門の拠点のあるパリに集中すると述べている。ゴールドマン・サックス・グループ当局者は、銀行免許を保有しているフランクフルトの状況を精査していると述べている。また関係者によれば、シティグループは、英国が単一欧州市場へのアクセスを失った場合、数百人の雇用をロンドンからダブリンに移すことを検討中だという。

 しかしフランスの政治状況は、銀行や政治的エスタブリッシュメントが直面する障害を如実に示す例になっている。ロンドンの銀行関係者らは、反移民で欧州懐疑派として知られるNFのルペン党首が大統領選で勝利するのではないかと心配している。

 オランド大統領は、金融を「自分の真の敵だ」と述べたことがある社会党員だが、労働法がフランスで物議を醸すことを知っている。英国のブレグジット投票以前に、同大統領は労働法制を改革しようと試みた。だが、大規模な街頭抗議デモに遭い、改革内容を希薄化せざるを得なかった。

 ブレグジット投票後には、オランド政権のサパン財務相が銀行業界のために労働法を緩和するとのうわさを一蹴した。同相は昨年10月27日の会合で、政府は「金融のための特別な地位」の確立を拒否すると述べた。

 しかし舞台裏では、フランス当局者は金融機関に便宜を図る方法を検討中だ。事情に詳しい関係者によれば、9月中旬以降、米国、アジア、そして湾岸アラブ諸国の銀行幹部がフランス当局者と非公式に会い、ブレグジット後の一部事業の移転について話し合ったという。

 これらの会合で、米銀幹部はフランスの硬直的な労働法に対する懸念を共有したという。例えば高給のバンカーやトレーダーの雇用・解雇を困難にしている条項だ。

 フランス当局者によると、一つの選択肢は、欧州銀行監督局(EBA)の特定の分類に入る従業員を銀行が容易に解雇できるようにすることだろうという。

 同当局者は「フランスを魅力あるものにしたいと思うなら、それは必要だ」と語った。

By NOEMIE BISSERBE

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