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【読書感想】蘇る変態

蘇える変態蘇える変態

内容紹介
人気爆発、10万部突破! 多数書店にてランキング1位続出!


星野源・待望の最新刊。
資生堂アネッサCMソング「夢の外へ」、
「知らない」と立て続けにヒット。
アルバムもオリコンチャートを賑わせ、
主演舞台に主演映画とうなぎのぼりの人気のさなか、
2012年末にくも膜下出血で入院。
手術後数ヶ月で復帰したものの、再発。
長期の休養を強いられた。
「面白いものが作りたい」と、
音楽・俳優・文筆とむさぼるように仕事をしてきた著者。
アルバム制作や撮影現場などの“ものづくり地獄"の舞台裏から、
エロ妄想で乗り越えようとした闘病生活、完全復活まで。


怒濤の3年間を綴った、
くだらなさと緊張感とエロと哲学、
ミックスにもほどがある垣根なしのエッセイ。
雑誌『GINZA』好評連載「銀座鉄道の夜」の書籍化+書き下ろし。


 この本のオビに「人気絶頂。」とあるのですが、「そうだよなあ」と納得してしまう人気っぷり。
 もう、どんな内容でも「星野源」って書いてあれば売れるんじゃないか、と思いつつ手に取りました。
 でも、読んでいくうちに、どんどん引き込まれていくというか、「こんな下ネタ、オタクっぽい話満載のエッセイを女性誌に連載していた星野さんって、すごいな……」と、ちょっとした仲間意識みたいなのが芽生えてきて。

「貧乳はステータスだ。希少価値だ」
 アダルトPCゲーム『SHUFFLE!』が発祥であり、アニメ『らき☆すた』の津城人物・泉こなたの台詞により広く知られることになったこの名言からもわかるように、欧米の高脂肪な食文化が浸透しきった昨今、胸の大きい女子は増加し、どちらかというと微乳は減少傾向にあるだろう。大きくないというだけで肩身の狭い思いもするはずだ。しかし、それを補ってあまりある需要があるということを女性の皆さんはあまり知らない。
「は? そうは言っても男は巨乳が好きでしょ?」
 若干キレ気味のそこの女子よ、断言しよう。俺の周りは小さい方が好きな男でいっぱいだ。むしろ小さくないとまったく興奮しないと言う男ばかりなので頭を抱える一方だ。


 念のために確認しておきますが、これ、本当に「星野源さんが書いたもの」として、本に収録されているので、僕に怒りの矛先を向けないでくださいね。
 しかもこれが、女性向けファッション雑誌の『GINZA』(というのがあるらしいです。僕は読んだことないです)に載ったんですよ!
 「あとがき」によると、かなり自由に書かせてもらったけれど、一部「さすがにそれは……」という内容のものもあって、それは単行本化する際に加筆したそうです。


 そもそも、『GINZA』の読者のなかに、『SHUFFLE!』を知っている人がいるのか? 
 僕も『SHUFFLE!』、知りませんでした。
 小学校高学年のときに『スレイヤーズ』を手にし、同級生が『週刊少年ジャンプ』の話題で盛り上がっているなか、『月刊ドラゴンマガジンン』『月刊コミックドラゴン』を愛読していた星野さん。
 もう、完全に「こちら側の人」じゃないか!
 モテっぷりとか才能は、雲泥の差だとしても。
 ただ、いま40代半ばの僕が思い込んでいるほど「ライトノベル好き」っていうのは、1981年生まれの星野さんの世代にとっては、「特別」じゃないのかもしれないけどさ。
 それでも、「クラスの主流派」じゃないよなあ。


 川勝正幸さんの思い出を語っている回とか、『ミュージックステーション』に初出演したときのこととか、星野さんが書いたものを読んでいると、星野さんは本質的には演者じゃなくて、観察者ではないか、という気がするんですよ。
 「と学会」の本のなかに、会員として「トンデモ本」を語る占い師を、「バードウォッチングの会に紛れ込んでしまった鳥みたいだ」と紹介するくだりがあるのですが、星野さんはその逆で「鳥になってしまったバードウォッチャー」みたいなところがあるのです。


 『ミュージックステーション』のリハーサルの話。

 歌リハ開始。生放送でたくさんのカメラを切り替えるので、目の前では十何台ものカメラとカメラマン、それを誘導するアシスタントたちがとんでもないスピードで動きまくる。クレーンカメラがニョキニョキと動き、その下をアシスタントがケーブルを持ちながらスライディングして車輪付きカメラを誘導。その横では手持ちカメラマンがジャンプしてケーブルの束をよけつつアップの表情を撮りだしたり、ものすごい状態。歌いながら、「ああ、この面白い景色をみんなに見せたい」と恍惚状態になった。スタジオの中にプロフェッショナルがうごめいていると思った。しかも、一人のアシスタントの男子がケーブルをさばきながら、カメラ横のモニターを見つつ、走りつつ、「夢の外へ」を一緒に歌ってくれていた。泣きそうになった。なんて素敵な現場なんだここは。


 ああ、これを読んで、僕も『ミュージックステーション』に出てみたくなりました(出られません!)。

 20年ほど前に松尾スズキさんが「頑張らない」という言葉を流行らせ、それに同調した人たちが「頑張れ」という言葉を批判しはじめた。以後、「無闇に頑張れと言うのは恥ずかしい」という論調が世間にも浸透した。故に「頑張れ」という言葉は悪い印象が強かったけど、最近はどんどん「頑張れ」と励ますことの大事さが復活して来ている気がする。
 少しズルいと思うのは、当の本人である松尾さんは、側で見ている限り、実は頑張るタイプの人間だということだ。頑張ることの大事さを知っていながら「頑張らない」と主張したことで、「頑張らない」という言葉を盾に堕落をひけらかす人が増えてしまったように思う。それは少しばかり残念だ。


 たしかに、「頑張っている人」「頑張りすぎている人」だからこそ、「頑張らない」の意味があるのかな、とも思うんですよね。
 このエッセイを読みながら、星野さんは、力を抜いてやっているみたいに見えるけど、実際はすごく頑張っているんだなあ、と思わずにはいられませんでした。


 出演した映画で賞をとり、ミュージシャンとしても「もうすぐ武道館講演!」と絶好調の星野さん。
 ところが、2012年12月に、突然の脳出血発症。
 そして、一度復帰後に動脈瘤の再発がみつかり、ハイリスクな手術……


 でも、「感動の闘病もの」じゃないんですよ、これ。
 星野さんは、手術前の手術室での様子も、集中治療室でのつらい夜も、きわめて冷静に、自分自身の姿を外から眺めているのです。
 よくこんなこと、覚えていたなあ、というくらい。
 そして、そのときに感じていた「感情の流れ」みたいなものまで、かなり詳細に記録されているのです。

 そして、それまでの31年間ひっきりなしに動かしてきた身体が急に動かせなくなるというストレスからみるみる神経過敏になり、同じく集中治療室にいる他の重篤な患者さんのうめき声、息づかい、機械によって生きている患者さんから出る不思議な音、それが気になって気になってまったく眠れない。時には、深夜に集中治療室の外で誰かが食べているであろうクッキーの匂いで嘔吐する時もあった。遠くの方で聴こえている看護師たちの話し声に発狂しそうになった。24時間、不眠不休で痛みと神経過敏に耐え続ける。それが三日間続いた。
 それまでに抱いていた希望ややる気、もともと強い人間ではないが、何度も苦境を乗り越えることで生まれたなけなしの忍耐力や誇りは、そこで、そのたった三日間で、すべてなくなった。キレイにゼロになった。今すぐにでもベッドの頭上にある窓から飛び降りたい。早く死んでしまいたい。こんな拷問のような痛みはもうたくさんだ。
 お見舞に来てくれるみんなとの時間だけが救いだった。自分が何者なのかを自覚させてくれる唯一の時間。皆が帰った夜、ひとり、行かないでくれと声を殺して泣いた。


 ジョイスの『ユリシーズ』みたいだな……とか思いながら読みました(と書いたんですが、僕は『ユリシーズ』を半分くらいしか読めてません。申し訳ない)。


 うまく言えないのですが、こんなやさぐれた40男にもかかわらず、星野さんのこのエッセイ集を読んでいると、「ああ、星野源もこんなに頑張っているんだから、僕も、もう少し頑張ってみようかな」って思えてくるんですよ。
 星野さんは、他人に「頑張れ」なんて全然言っていないのに。

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