記事

【読書感想】芸人迷子

1/2

芸人迷子

芸人迷子

内容(「BOOK」データベースより)
島田紳助、松本人志、千原ジュニア、中川家、ケンドーコバヤシ、ブラックマヨネーズ…笑いの傑物たちとの邂逅、そして、己の漫才を追求し続けたゆえの煩悶の日々。「ハリガネロック」解散までを赤裸々に綴った迷走録。


 書店で見かけて、「おお、これはリアル『火花』(又吉直樹さんの芥川賞受賞作)だな」と思いつつ購入。帰ってさっそく一気読みしました。
 軽い気持ちで読み始めたのですが、読んでいるうちに、寝転がって読むのが申し訳なくなってきて。
 こんなにヒリヒリする本は、そんなに無いと思います。

 2005年、俺はこの年に漫才を辞めるべきだった。陰りが見えた漫才。それを感じながら、結局、何もできなかった。新しい漫才を構築することができなかった。淡々と過ごす日々。幸い仕事は順調でレギュラー番組も増え、最も多い時には6本を抱えていた。だけど、いつかはすべて終わる。そして、増えることはなく、ゼロになることを確信していた。なぜなら、漫才師として結果を残すことでレギュラー番組を獲得してきた俺が漫才で結果を出せなくなってきたからだ。それだけではない.漫才に自信が持てなくなっていた。それなのに、簡単に捨てることができず、その後、俺は9年間も漫才にすがりついた。


 著者のユウキロックさんは、『ハリガネロック』という漫才コンビで活躍を組んでいました。
 その前には、ケンドーコバヤシさんと『松口VS小林』として活動しています。

 俺達はどこに行ってもスベらなかった。どんな状況でもどんな客層でも絶対スベらない技量は手にしていた。だから漫才を続けていくことはできたと思う。続けていくことで、その分の収入は得られただろう。でも、違う。


 漫才に思い入れがあって、テレビでのMCのような仕事よりも、「とにかく劇場で客にいちばんウケる」ことに誇りを持っていたユウキロックさん。
 第1回の「M−1グランプリ」で準優勝し、『爆笑オンエアバトル』でも大活躍。
 いまも、お笑いの第一線で活躍していてもおかしくないはずなのに、ユウキさんは、自分たちのネタに、相方のお笑いに対する姿勢に我慢ができなかったのです。
 読んでいるだけで、ユウキさんのものすごい自信と、その自信と羞恥心がゆえに、ほんの少し妥協すれば手に入ったはずの栄光を手放してしまう姿に、なんだか圧倒されてしまいます。
 これは『リアル山月記』だ……


 ハリガネロックというコンビの春秋を描いているはずのこの本で、ユウキさんがひたすら相方を突き放して描いていることに、僕は驚かされました。
 ステージの上ではふたりきり、隣同士のはずのふたりなのに、感情的な距離は、こんなに遠いのか……
 そういえば、又吉さんの『火花』でも、先輩や後輩の芸人はけっこう出てきたけれど、「相方」はそんなに描かれていなかったものなあ。

 ネタを作り続け、単独ライブにこだわり、ボケとツッコミも変更。「ハリガネロック」で起こるすべてのことを俺主導で行ってきたが、結果が出せなくなりアイデンティティも失った。俺が本物の漫才師として生きていくためには、それが間違いだったと認めて、俺自身で全否定するしかない。だから極端で身勝手かもしれないが、俺にやれることはもうこれしか残されていないと思った。それは「動かない」ということ。「何もやらない」ということ。そして、相方からの呼びかけをひたすら待ち続ける。動きを止めた俺を見て「ハリガネロック」再興へと動き出す相方を待つ。そこには深い意味がある。相方の自我が目覚めるからだ。俺に言われてネタ作りに参加するのではない。自分からネタ作りの場を作ろうとする。そこに責任感が生まれる。その時、五分と五分の「ハリガネロック」が産声を上げる。自我と自我がぶつかる「ハリガネロック」が誕生するのだ。そう信じて待ち続けると決めた。時間は2013年1月まで。それまでに呼びかけがなければ3月31日、芸歴20年を終えるこの日に解散する。俺は決断した。


 ユウキさんの「漫才」に賭ける気持ちが伝わってくるのですが、僕はこれを読みながら、こんな「天才」にプレッシャーをかけられ続けている「相方」のほうに感情移入せずいはいられませんでした。
 そんなの、ユウキさんが引っ張っていけば良いんじゃないのか……
 ユウキさんにはかなわないから、と沈黙していると「主体性がない」と責められ、自分なりにやる気を出してみれば「そのくらいか」と嘲られる。
 むしろ、相方はよく耐えてきたな、とも思ったのです。
 でも、漫才で芸の世界の「高み」を目指すには、たしかに、どちらかひとりだけの力だけでは難しいのでしょうね。
 ユウキさんは正しい。
 でも、正しいからこそ、自分を追い詰め、周囲も追い詰めていく。
 こういう極限のチキンレースを勝ち抜かないと、「極める」ことはできないのか……

あわせて読みたい

「お笑い芸人」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    豊田議員擁護した松本人志の限界

    小林よしのり

  2. 2

    豊田議員は哀れな「準エリート」

    シェアーズカフェ・オンライン

  3. 3

    旭日旗に韓国人が憧れていた過去

    NEWSポストセブン

  4. 4

    読売新聞 社説で政権擁護を反省?

    PRESIDENT Online

  5. 5

    稲田大臣はやっぱりダメだった

    志村建世

  6. 6

    安倍首相の後継者問題に甥が意欲

    NEWSポストセブン

  7. 7

    タバコ休憩で残業 ムダな喫煙者

    明智カイト

  8. 8

    加計問題 「録音音声」を公開か

    NEWSポストセブン

  9. 9

    AVが教科書化する性教育の問題点

    田中俊英

  10. 10

    裏に利権 東京五輪に不可解判断

    WEDGE Infinity

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。