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『ローグ・ワン』が『フォースの覚醒』よりも評価されるべき理由

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15年公開の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』、そして、16年公開のスピンオフ作品『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』はともに懐かしさを感じさせる作品に仕上がっている。しかし、『ローグ・ワン』は懐かしさを介して、あるメッセージを伝えようとしている。

※本記事内には、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のネタバレが含まれておりますので、閲覧にはご注意ください。

サブタイトルは無視して構わない。文字通り映画開始1秒目から、『ローグ・ワン』は「スター・ウォーズ」のアナザー・ストーリーを伝える役割を果たしている。スター・ウォーズ・シリーズではお馴染みのオープニング・ロール、そして、ジョン・ウィリアムズによる独特なテーマ曲のファンファーレの嵐は存在しない。ジョージ・ルーカスが77年に遠い昔の遥か彼方の銀河系のストーリーを生み出して以来、3部作の枠組みから外れた初めての作品であり、ギャレス・エドワーズ監督が創造するこのスピンオフ/過去を描くストーリーは独自のリズムとトーンを持つ。この作品の背景は壮大と言うよりも陰鬱である。そのアクションはスリル満点というよりも、残酷だ(PG13)。登場人物は向こう見ずな悪党でもなければ、銀河の未来を作り出すヒーロー/ヒロインでもなく、スター性のないゲリラ兵である。過去に遡りファンを魅了した『フォースの覚醒』では、J・J・エイブラムス監督率いる制作チームはオリジナルの3部作のフィーリングを取り戻すことに力を入れていたが、『ローグ・ワン』は全く別の作品に仕上がっていると言っても過言ではない。

ジェダイ・マスターですら理解できない矛盾が存在するものの、『ローグ・ワン』はスターウォーズの歴史と伝説に大いに助けられている。ジョン・ノール、ゲイリー・ウィッタ、クリス・ワイツ、そして、トニー・ギルロイが手を組んだ脚本チームは、昔のファンが口にするジョーク「なぜ、超強力兵器のデス・スターをたった一発の攻撃で爆発してしまうように帝国は設計したの?」を基にこの映画のストーリーを考案した。

このマニアックな設定により、この映画は過去に遡っていく(ネタをバラしてしまうようだが、既に知っているはずだ)。『ローグ・ワン』は、帝国軍に捕まった科学者、ゲイレン・アーソ(マッツ・ミケルセン)の成人した娘、ジン・アーソ(フェリシティ・ジョーンズ)のストーリーを基に展開していく。おとなしく従うふりをしながら、ゲイレン・アーソは惑星を破壊するプロジェクトを内部から弱体化させるため、密かに弱点を植え込み、その後、命懸けで反乱軍にこの弱点を伝える。この映画の最後の場面は、スター・ウォーズ・シリーズの第1作『新たなる希望』の冒頭のシーン、つまり、部分的にデジタル化されたレイア姫がデス・スターの致命的な欠陥が記されたデータファイルを受け取るシーンにつながる。その後の展開 ― R2-D2、C-3PO、ルーク・スカイウォーカー、そして、(「助けて」)オビ=ワン・ケノービ ― はご承知の通りだ。

このように『ローグ・ワン』はスター・ウォーズ・シリーズの始まりと明らかにつながっている。さらに、この映画には、マニアが喜ぶお宝シーンが多数用意されている。若き日のレイア姫がCGIで再現され、ゲストとして出演するだけでなく、エピソード6でレイア姫と敵対していたグランド・モフ・ターキン(俳優のピーター・カッシングは20年以上前に他界)がメインのキャラクターとして登場する。ターキン提督のデジタル映像による復活は、この映画のスター・ウォーズ・マニアへの贈り物のほんの一部でしかない。本編のキャラクターのカメオ出演がその他にも豊富に提供されている。R2-D2とC-3POは数秒間ではあるものの、お馴染みのピーっという音、そして、愚痴で観客を楽しませてくれる。セイウチ顔のポンダ・バーバ、そして、独特なルックスの狂人、ドクター・コーネリアス・エヴァザンのコンビは、メインキャラクターのジンとキャシアン・アンドー(ディエゴ・ルナ)と揉め事を起こす。ちなみに、このシーンでは、エヴァザンの二流のセリフ「気をつけろよ」をキャシアンがかましている。1作目のクライマックスであった初代デススターへの攻撃で指揮官を務めたゴールド・リーダーとレッド・リーダーは、映像を再利用した形で登場している。

それだけではない。セットのデザインからドロイドの分類に至るまで、過去の作品の仕様が常に顔を出す。AT-AT、AT-ST、帝国軍の偵察ドロイド、ステンレスの廊下をせわしなく動き回る黒いネズミのようなボット、懐かしさが漂う帝国軍の恐ろしい宇宙ステーション - この全てが『ローグ・ワン』に登場する。ユニフォームも、さらには、ヘアスタイルも77年以来この銀河は変わっていないようだ。ヤヴィン4(反乱同盟軍の本拠地)からムスタファー(名前は明かされていないものの、あの溶岩は、オビ=ワン・ケノービがアナキン・スカイウォーカーのシスを倒した場所に違いない)に至るまで主要な惑星も登場する。映画以外のスター・ウォーズの世界も『ローグ・ワン』に参加しており、ディズニーの様々なスター・ウォーズのカトゥーンシリーズに登場するカイバー・クリスタルとソー・ガーレラ(フォレスト・ウィテカー)が姿を現す。

スター・ウォーズ・アンソロジー・シリーズ初のスピンオフを語る『ローグ・ワン』のキャスト達


要するに過去のスター・ウォーズ映画の利用、言及、そして、隠れたお宝の量に関しては、男の子の玩具のコレクションとサンディエゴ・コミコンの展示ホールを足したとしても、『ローグ・ワン』には歯が立たない。しかし、それでは、懐かしさ満載の『ローグ・ワン』が同じく懐かしさを存分に味わうことができる『フォースの覚醒』よりも新鮮に感じるのはなぜだろうか?

『フォースの覚醒』の主な設定とストーリーの展開を思い出してもらいたい。アクションの大半が発生する3つの惑星 - ジャクー、タコダナ、スターキラー基地 - はオリジナル3部作に登場したタトゥイーン(砂漠)、エンドア(森林)、ホス(極寒の地)の景色を思い起こさせる。『フォースの覚醒』は、砂漠の世界に取り残された若者が、黒いマスクをかぶったダークサイドの使い手に対峙したことによりフォースに左右されるポテンシャルに気づくというストーリーを基に展開し、ここではレイがルーク・スカイウォーカーを、そして、カイロ・レンがダース・ベイダーの役目を果たしている。

そして、触手を持つ怪物がヒーロー達を襲う。『フォースの覚醒』ではハン・ソロが捕まえたラスターが、『新たなる希望』のダイアノーガ、そして、『ジェダイの帰還』のサーラックの代役を務めている。危険な空中戦と間一髪の生還は、『帝国の逆襲』と『新たなる希望』でも登場したように、スター・ウォーズ・シリーズの十八番である。ヒーローが弱点を見つけ、超強力兵器を破壊する展開は、ソロ自身がジョークにするほどお馴染みとなっている。俳優として新人の部類に入るデイジー・リドリーとジョン・ボイエガ、世代でベストの俳優に挙げられるオスカー・アイザックとアダム・ドライバー、さらには、ベテラン俳優のハリソン・フォードとキャリー・フィッシャーは、隠そうとしているのかもしれないが、芸術的に表現すると、この映画はかなり保守的な作品と言える。

反対に『ローグ・ワン』は異色の作品だ。雪も森もない。砂は多少出てくるが、高層ビルが立ち並ぶコルサントの都市以来の活気ある街として登場したジェダの周辺に広がる景色に過ぎない。この作品の前編に登場するコルサントの高層ビルが立ち並ぶ都市部以来の 手に汗握る空中戦も「やった!」と叫びたくなる脱出劇もない - この映画ではキャラクターの死が脱出を意味する。触手のモンスターは現れるが、人食い植物としてではなく、「高度な尋問」の手法として用いられている。最後の航空隊同士の戦いは、超強力兵器を破壊するためではなく、当該の兵器を破壊するメソッドを保管場所からこっそりと持ち出し、必要な時が来るまで取っておくために敵の攻撃を阻止することが目的だ。何よりも大事なポイントは、主要な新しいキャラクターは、フォースに守られている側かダークサイドに仕える側かに関係なく、全員未来を左右する人物ではない・・・なぜなら、文字通り誰一人として映画の最後まで生き残ることはできないからだ。生存、そして、ハッピーエンディングに関して言えば、この映画のおかげで帝国がジェダイのように見えてしまう。『ローグ・ワン』はその他のスター・ウォーズ映画がやらなかったことを実施しているのである。スカイウォーカー家、その友、そして、敵が銀河の運命の鍵を握るため、犠牲を払った者達の人生と死を描いている。

ただし、これが必ずしも名作を作り出すレシピと言えるわけではない。『ローグ・ワン』を初めて観てから数日が経過するが、スター・ウォーズの枠組みにおけるイノベーションを行う今回の試みが、100%成功したと断言することは難しい。従来のアクションの順番を乱した試みは意図的であったかもしれないが、浮き沈みの分かりやすさは、反乱による殺戮の応酬においてはハマった可能性があった。公開済みの過去の6作品で登場していた色鮮やかな景色は、泥、埃、そして、降りしきる雨を数時間見た後はポジティブに受け止められていた可能性があった(ただし、フィナーレのトロピカルなビーチの設定は、薄暗い場面が多いため際立って目立っていた)。主要なキャラクターが全員死んでしまうストーリーもどうかと思う。スター・ウォーズ・シリーズ以外の過去の映画でこの試みを行った作品は存在しない。『特攻大作戦』や『プライベートライアン』を含む戦争映画も、『荒野の七人』を含む西部劇も、あるいは、『遊星からの物体X』や『プレデター』などのサイエンス・フィクション/ホラーの名作も登場人物が全員死ぬ展開は採用していない。この荒涼感をルーカスフィルムの輝かしいテンプレートに詰め込もうとする試み自体が無駄足だったのかもしれない。

しかし、映画界にとって初めての試みであり、その事実こそが重要なのだ。『フォースの覚醒』は実証済みの公式に現代的な艶を加えただけで満足しているが、『ローグ・ワン』は新しいことに挑戦している。『フォースの覚醒』は懐かしさをチケットの代わり、そして、 ファンサービスを見てもらうための強制的な要素として使っている。一方、スター・ウォーズ・シリーズにとっては主要な作品ではないものの『ローグ・ワン』はこの2つの要素を反復的なテーマとして、全体的なストーリーの接着剤として利用しているが、また、ある大事なメッセージを伝えるためにも用いている。それが大昔に起きたものであれ、AT-ATが投入されるものであれ、戦争は地獄だ。結果を知っているからこそ、その代償も理解している。『フォースの覚醒』はギリシャ悲劇の神話をベースとしているが、『ローグ・ワン』は人間味のあるストーリーを目指している。CGIのターキン提督がどれだけ投入されているかに関係なく、『ローグ・ワン』の野心には敬意を表する価値がある。

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