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偉大なバンドやミュージシャンの幕引きは、ときに時代そのものに引導を渡す? 速水健朗 『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』 (速水健朗・円堂都司昭・栗原裕一郎・大山くまお・成松哲 著)|特集|速水 健朗

ビートルズ、カルチャー・クラブ、T・レックス、おニャン子クラブにSMAP……古今東西191、一世を風靡した人気バンドの解散理由を全暴露、音楽ファン悶絶の名著が文庫に。刊行を記念して、各著者による文庫未収録のコラムを5日間連続で公開します!

『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』 (速水健朗・円堂都司昭・栗原裕一郎・大山くまお・成松哲 著)

 69年秋に録音順のラストアルバム『アビイ・ロード』が発売され、これを最後にビートルズのメンバー揃っての活動が行われることはなくなった。この実質上のビートルズの解散(詳細は文庫版24ページ)は単なる一バンドの解散を超える意味を持っていた。新しい若者文化の胎動と革命前夜の空気に満ちた60年代そのものの幕引きを示す、象徴的な出来事でもあったのだ。

『アビイ・ロード』を蹴落としてレッド・ツェッペリンのセカンドアルバムがチャートの1位を奪取した(70年2月)のはよく知られた逸話。愛と平和の60年代が終わり、喧噪の70年代が始まったのだ云々……。同じような話に、山口百恵が引退し、松田聖子のデビューした80年の逸話がある。百恵が引退して70年代が終わり、聖子の80年代がやってきた云々……。

 さらに89年は、昭和天皇が崩御した昭和最後の年だった。この昭和の終わりの印象は、天皇だけではなく、美空ひばり、手塚治虫といった昭和を代表する存在の、相次ぐ死によって強く突きつけられた。また、世界的にはベルリンの壁の崩壊が、世界が東西の陣営に分かれた冷戦時代の終わりを象徴する出来事として記憶されているのがこの年である。

 これらの例に見られるように、偉大なバンドの解散、偉大な人物の退場は、ときに時代を終わらせるなど、象徴的な意味を持ってしまうことがある。また、60年代、70年代と時代を10年ごとに区切ってものごとを考えることが、本質的な意味を持つとは思えないが、デケイドの終わりには、大きな意味を持つ解散・崩壊や人物の死が待ち受けているのはよくある話なのだ。

 このような法則に忠実に従ったのか、20世紀から21世紀への変わり目というのは、数多くのバンドたちの解散によって彩られていた。

 まず、90年代の最後の年である99年には、かねてから予言していたとおり聖飢魔IIが解散したが、彼ら以外にも、黒夢、爆風スランプ、筋肉少女帯、T-BOLAN、叫ぶ詩人の会と、一時代を築いたバンドの解散・活動休止が相次いだ。

 さらに、20世紀最後の年であり、1000年紀(ミレニアム)の終わりでもあった00年には、フェイバリット・ブルー、SPEED、WANDS、ブランキー・ジェット・シティ、Hi-STANDARD、SHAZNA、ストリート・スライダース、サニーデイ・サービス、LUNA SEA、センチメンタル・バス、ポケット・ビスケッツと、さらに多くのバンドが解散・活動休止に陥っている。

 この両年は前後の年に比べても、明らかにビッグネームの解散・活動休止の件数が圧倒的に多かった。まさに解散のマジックイヤーである。

 たしかに、90年代末はレコード・音楽業界にとっての大きな転換点として見ることができるだろう。CDの売り上げがピークを迎えたのが98年のこと。99年以後、CDの売り上げは急速に落ち込み始めた。約10年の内に、産業規模はピーク時の半分以下にまで落ちてしまったのだ。99年、00年の大量解散・活動休止とは、こうした落日産業からの大量離脱、もしくはレコード会社による整理(リストラ)という側面もあるのかもしれない。

 まさにレコード産業にとって転落の10年だったわけだが、その00年代の最後の年である09年にはどんなバンドの解散があったか。

 大物では、チャゲ&飛鳥(現CHAGE and ASKA)とウルフルズが活動休止を発表した。それ以外にも、忌野清志郎の死によって、RCサクセションは実質的な終わりを迎えたし、加藤和彦の死もこれまで二度にわたって再結成を行ってきたサディスティック・ミカ・バンドの実質的な終わりと言えるだろう。さらに、マイケル・ジャクソンが死んだが、彼が生きていてもそうでなくともジャクソン5の再結成とはなんら関係もないだろう。ただし、これでオリジナルメンバーでの再結成の可能性が完全に潰えた。

 09年は、とにかく多くの大物物故者が出た年だった。前出以外にも、森繁久弥もレス・ポールもアベフトシ(元THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)も亡くなっている。

 ロックが死と隣り合わせだった時代は、せいぜい70年代初頭くらいまでだが、今ではドラッグとは違った意味で、ロックと死は隣り合わせである。ロックンロールが誕生してすでに半世紀を超え、もはや、ロック界に初の老衰による物故者が誕生するのは時間の問題でしかない。中心メンバーの死やメンバーの全滅(その場合、主な死因は老衰ということになるだろう)によるバンドの解散、いや消滅が激増する時代はもう目の前だ。そんな時代には、もう解散や死に、何か時代の変節を象徴させたりするのも無効になるだろう。

 とは言っても、ミック・ジャガー(43年生まれ)も内田裕也(39年生まれ)もまだまだ元気で死にそうもないのも事実。ポール・マッカートニーは、若い頃に「自分が64歳になったら」という可愛らしい歌を作ったが、まさか64歳を超えて、離婚調停に明け暮れるようになる老後を迎えることになるとは、夢にも思っていなかったはずだ。ロック系ミュージシャンは誰も彼も、老後の意識が低すぎるぞ。

速水健朗(はやみず・けんろう)
1973年生まれ。ライター。TOKYO FM『速水健朗のクロノス・フライデー』(毎週金曜日朝6:00~9:00)、同局『TIME LINE』(第1・3・5火曜日19:00~19:54)、フジテレビ・ホウドウキョク『あしたのコンパス』、日本テレビ『シューイチ』などに出演中。近著に『東京β』(筑摩書房)、『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書)などがある。

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