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「同一労働同一賃金」の本質を見誤っている社会

■曖昧な「同一労働同一賃金」の定義

 「同一労働同一賃金」についての記事は、これまで何度か書いてきたものの、この言葉における世間の認識はてんでバラバラなようなので、この際、もう1度、触れておきたいと思う。

 ウィキペディアの説明では以下のようになっている。
>同一の仕事(職種)に従事する労働者は皆、同一水準の賃金が支払われるべきだという概念。性別、雇用形態(フルタイム、パートタイム、派遣社員など)、人種、宗教、国籍などに関係なく、労働の種類と量に基づいて賃金を支払う賃金政策のこと。
 これとは別に、「同一価値労働同一賃金」というものもあり、その説明も付記しておくと、
>職種が異なる場合であっても労働の質が同等であれば、同一の賃金水準を適用する賃金政策のこと。(引用:ウィキペディア)

 この2つを見てもお分かりのように、現在、日本で語られている「同一労働同一賃金」の認識とは随分と違うことが分かる。日本では、正規社員と非正規社員間における賃金格差を是正することだけが「同一労働同一賃金」だと思われているフシがある。(日本では当初、男女間における賃金格差是正のことだった)

■正しく認識されていない「同一労働同一賃金」

 「同一労働同一賃金」とは一言で言うなら、「一物一価」を前提とした賃金制度のことであり、同じ品質の商品(労働)価値は皆同じという意味合いになる。

 そう考えると、単に正規社員と非正規社員間における賃金格差を是正した程度では全く条件を満たしていないことになる。
 例えば、親会社(A)、子会社(B)、孫会社(C)というものがあると仮定してみよう。その場合でも同じ仕事であれば、AとBとCの間に賃金格差が有ってはいけないことになるが、実際はそうはなっていない(できないと言った方が正しいかもしれないが)。

 仕事が繁忙期にある時、Aが下請けとしてBに仕事を発注し、Bも手が足りなければCに仕事を発注するという関係にある場合、仕事の内容が全く同じであったとしても、普通は仕事を発注する側がマージンを取ることになる。全く同じ1つの商品を作っていたとしても、賃金がA>B>Cになるのであれば、ぞれは「同一労働同一賃金」とは呼べない。

 つまり、現在、世間で認識されている「同一労働同一賃金」とは、その言葉の前に「同一職場における」という言葉を付け足さなければ意味を為さないのである。

■「同質労働同一賃金」と「同一業務同一賃金」の違い

 私は以前の記事で、「同一労働同一賃金」とは「能力給」のことだと述べたことがある。それは、どこの職場であろうとも、同じ仕事であれば、同じだけの賃金が支払われるべきという意味であり、言わば「同質労働同一賃金」こそが、本来の意味での「同一労働同一賃金」であるということを述べたつもりだった。

 もう1つ、付け加えておくと、世間では「同一業務同一賃金」を「同一労働同一賃金」と思われている人もいる。
 先程の例で言えば、AもBもCも同じ職種であるなら、同じ賃金が支払われるべきという考え方だが、その場合、個人別の能力差というものが抜け落ちてしまうことなる。同じ職種であっても、個人には仕事の能力差があるので、1時間に1つの商品しか作れない人と、1時間に2つの商品を作れる人には、賃金差を設けなければならない。なぜか? それが「同一労働同一賃金」というものだからである。
 同じ職種であれば全て同じ賃金ということになれば、それは「一物一価」の法則に反しており、実質的には「同一労働同一賃金」の目的とは真逆の悪平等な賃金制度になってしまう危険性がある。

 「同一労働同一賃金」という言葉を、現状における世間の常識や法律という枠組みの中で考えてしまうと、どうしても視野が狭くなり、本質を見誤ってしまう。「木を見て森を見ず」という言葉の通り、「1企業を見て社会を見ず」になってしまっているように見える。

 「同一労働」という言葉を、先入観を排し、頭を真っ白(クリア)にして素直に考え直してみると、「同じ労働は同じ価値」という当たり前の言葉が浮かんでくると思う。その言葉は本来、1企業内における労働の価値のみを表した言葉ではなく、社会全体の労働価値というものを考慮した上で考えるべきものだと思う。
 実現できる可能性は極めて低いとは思うが、1企業内における「同一労働同一賃金」を実現するだけでは「同一労働同一賃金」社会にはならない。

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