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完璧すぎる嫁〜自分の居場所がなくなる時・同居介護の難しさ〜

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日本における65歳以上の高齢者が子と同居している割合は年々下がり続けています。1999年には50%となり、2013年以降は遂に40%以下という水準を辿っている状況。高齢の両親に介護が必要になった時、子世帯が同居できるケースは少ないですが幸運なことに同居できる世帯もあります。しかしこの「幸運」が、新たな家族の形成に様々な影響を与えることにもなります。息子家族との同居生活がスタートし、これまでの生活の変化や新たな家族の存在に悩んだケースについてご紹介しましょう。

ある日、息子家族と同居が始まる

 80歳女性Aさんは82歳の夫と2人暮らし。Aさん自身は脊柱管狭窄症の手術後、腰から下肢にかけての動かしにくさがあり、家事を行うことに時間がかかるようになりました。夫は数年前に脳梗塞を患い軽度の麻痺があります。家内の活動はほぼ自立してできますが、動作は全体的にゆっくりで外出の機会は減っていきました。

 高齢夫婦2人暮らし。互いに身体の動かしにくさがある状況で、もっとも不自由を感じたのは買い物です。スーパーまでの行き来、商品を運ぶということが大きな負担になってしまいました。そこで、2日に1回、市外に住む長男のお嫁さんが自身のパート勤務を終えてから買い物と家事の手伝いに通って来ています。通い介護が1年を過ぎた頃、お嫁さんの提案で「冬になる前に同居しましょう。自分たちが引っ越してきます」ということに決まったのです。

 Aさんは最初、息子家族が同居してくれるということに遠慮と戸惑いを感じていました。しかし、夫が素直に喜んでいることや近所から「それは羨ましい、幸せなことですね」と言われることで、同居を喜びとして受け止めることに。高校生の孫と一緒に暮らせること自体は、純粋に嬉しいことでもありました。

完璧なお嫁さん

 同居生活がスタートして、大きな変化があったのは食生活です。栄養士の資格を持つお嫁さんの作る食事は、味も栄養も見栄えも完璧です。高齢夫婦の生活ではお互いが好んでいる濃い味のおかずとご飯、味噌汁ということが多く土地柄もあってか塩分の多い食生活になっていました。

 脳梗塞の既往があるAさんの夫はいつも血圧が高めでした。しかし同居生活を開始してからは、お嫁さん自らが病院受診に同行して、降圧剤の量と食生活の改善を主治医に相談。そして半年後には、降圧剤の服用の必要がなくなるくらいに血圧が正常値になったのでした。Aさん自身も、近年は体重が減少傾向にあり体力も低下していたのですが、体重がほど良く増えて疲れやすさがなくなったようです。

 健康的な生活の基盤ができたところで、お嫁さんの提案でAさん夫妻がもっと元気になるように通所リハビリを検討。それぞれの主治医が必要性を示してくれたので、2人は介護保険サービスの利用開始に至りました。

家族なのに何も言いだせない心境〜何かを言うと「悪い人」になってしまう〜

 Aさんの夫は、お嫁さんが何でも快く完ぺきに行ってくれるので、高齢の妻も楽になりありがたいだろうと感じていました。お嫁さんへの感謝の気持ちを素直に表明するほどで、「ありがとう、本当に助かるよ。年寄り2人では暮らしていけないもの」と毎日のように口にします。

 Aさんの心境は複雑。「私には感謝の言葉なんてかけてくれたこともないのに」「若い時から横柄で、私と2人の時はわがままばかり言ったのに」と、ついつい感じてしまうのです。特に料理は、同居を開始してからはお嫁さんがすべて行っています。そのため、家族が「美味しい」と褒めるたびに「栄養士さんだし、かなわない」と感じてしまうのでした。

 漬け物を食べたくても塩分が多いので食べたいとは言えませんし、漬け方を教えるなんて到底できない状況。不満や要望を顔に出すこと、口に出すことは許されません。なぜなら、この絵にかいたような幸せな家族の中で意見を出すことは異を唱えるに等しく、夫が「いい人」になってしまった今、Aさんが「悪い人」になってしまうわけにはいかないからです。

幸せなはずなのにだんだん「孤独」になる

 Aさんは、お嫁さんが性格的にも裏表のない思いやりのある人だということを分かっています。そのため、お嫁さん自身に不満はありません。一番の不満は、息子家族と同居した途端に「いい人」になってしまった夫なのでした。

 Aさん夫婦は2人暮らしの際、お互いに不満を口に出したり些細なことで喧嘩したりしつつ、いつの間にか自然に仲直りするという、よくある日常を送っていました。しかし今では、そもそも喧嘩になりようがないのです。

 Aさんの目には、家族みんなが優等生に映ります。そして、家事もせず通所リハビリに通って自分のことだけを考えていれば良い自分は、「もう役にたたない存在だと感じてしまう」とケアマネジャーに漏らすようになりました。

 Aさんは家に居ても口数が減り、夕飯を食べると早々に布団にもぐり込んでしまうようになりました。居間と襖1枚で隔てられている寝室には、家族の楽しげな笑い声が聞こえてきます。可愛い孫ともっと話がしたくても、話すきっかけがつかめません。誰も何も悪くはないのに、Aさんは孤独感で押しつぶされそうです。

 ある日、そのようなAさんの変化に気がついたお嫁さんが「お義母さん、どうしたの? 具合でも悪いの?」と寝室に尋ねてきました。しかしAさんは、「なんともない。眠いだけ」と答えます。するとお嫁さんの後ろから、「何もしないのに眠いのか、怠け者だな」という夫の声が聞こえました。

 その次の瞬間、Aさんは枕を持って立ち上がり、夫の顔をめがけて投げつけました。夫は一瞬の出来事に言葉を失い、その場にへたり込んでしまいます。お嫁さんは気色を失くし、立ちすくんでしまいました。

誰かのための完璧を求められると辛い

 この出来事で、一番衝撃を受けたのはお嫁さんでした。何が悪くてお義母さんは怒ったのか、どうして乱暴なことをするのかが理解できません。なぜ、どうして、誰が悪いのか。また、お義母さんはお義父さんになぜ謝らないのか。お嫁さんは「この件に関して家族で話し合って、振り返りをしないといけない」とケアマネジャーに言いました。

 当のAさんはすっきりしたのか開き直ったのか、この出来事をきっかけに夫に対しての不満や皮肉を家族の前でも口に出すようになりました。夫も時には応戦して言い返します。Aさん夫婦にとってはそれが本来の自然な夫婦のやり取りでしたが、お嫁さんには「不仲」に映るのでした。

 また、Aさんは同居して以来我慢していた漬け物を食べ、コーヒーの砂糖も堂々と入れて飲むように。さらには、同居前のように少し遅くまで起きているようにもなりました。「体に良くない」と必要以上に悩むお嫁さんに対して、夫であるAさんの息子さんが「あの2人のやり取りは昔からああだったし、好きなことを言い合ってすっきりしているんだろう。食べ物や夜更かしも少しくらいは好きにしてもいいだろう。放っておけ」と言い、ようやくお嫁さんはあきらめに近い気持ちで折り合いをつけたのでした。

 Aさんは「何でも完璧にはできない。自分のペースもあるし、夫のことも嫌いなのではなく急に知らない人みたいに変わってしまって私一人だけ置いてけぼりになったみたいだった」と、ケアマネジャーに話しました。

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