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北方領土問題「進展なし」の新聞報道は本当か?〜田原総一朗インタビュー

ロシアのプーチン大統領が12月中旬に来日し、15日と16日に安倍首相と会談した。注目された北方領土問題について、日本側が期待していた「二島返還」などのサプライズはなく、新聞やテレビは「進展なし」と報じた。だが、田原総一朗さんは「僕はちょっと違う見方をしている」と言う。今回の日露首脳会談を、田原さんはどう分析しているのか、インタビューした。【田野幸伸(編集部)・亀松太郎】

共同通信社

失望感が大きかったマスコミ報道

首脳会談のあとの新聞各紙は「北方領土で進展がなかった」と失望感が大きい報道だった。この失望感は、事前に期待が大きかったことの裏返しだ。なぜ、マスコミの期待が大きかったかといえば、安倍首相の周辺が期待感を盛り上げていたからだ。

今年5月にロシアのソチで日露首脳会談があったとき、安倍首相が「新しいアプローチ」と銘打って、8項目の経済協力プランをロシア側に示した。これにプーチンは満足感を表したので、期待感が高まった。

さらに9月のウラジオストクでも首脳会談を行い、非常に盛り上がった。その後、日本側は、世耕経産大臣をロシア経済分野協力担当大臣に任命し、体制を整えた。ウラジオストクでは、プーチン大統領が12月に来日することも確認されたため、そこで領土問題が一気に進展するのではないかと、首相周辺から楽観的な空気が流れた。

期待感の高まりの背景には、アメリカとロシアの関係悪化という要因もあった。シリア問題をめぐって、ロシアはアメリカと対立していて、プーチンとオバマは口もきかないような最悪の関係に陥っている。さらにウクライナ問題で、ロシアがクリミア半島を自国の領土に編入したことにアメリカやヨーロッパが強く反発し、ロシアが孤立する事態となった。そうなると、ロシアが話し合える相手は日本しかいないというわけだ。

そのような状況を受けて、12月の来日時にプーチンの口から「二島返還」という言葉が出てくるのではないか、という空気が盛り上がった。ところが、11月のペルー・リマでの会談で、それが一変することになる。プーチンの態度が非常に厳しくなった。北方領土での共同経済活動は「ロシアの主権下で」ということになった。

日米安保条約が「北方領土問題」の障害に

なぜ、プーチンの姿勢が変化したのか。おそらく、米露関係が原因ではないかと思う。アメリカの大統領選の結果が影響していると考えると合点がいく。

プーチンはオバマとの関係は最悪だったが、大統領選で当選したトランプは逆に、プーチンのことを高く評価していて、選挙期間中に「オバマよりも指導力がある」とほめている。また、トランプは、ロシアのクリミア編入にも理解を示している。そのため、プーチンが孤立しなくなったのではないか。

プーチンは来日する直前、モスクワで読売新聞と日テレのインタビューに答えたが、重大なことをいくつか発言している。

たとえば、「ロシアには領土問題はない。領土問題があると考えているのは日本だけ」という発言だ。それに対して、読売新聞や日テレは「1956年の日ソ共同宣言では、平和条約の締結後に、歯舞・色丹の二島を引き渡すと明記しているではないか」と聞いたが、プーチンは「たしかに引き渡しについて書かれているが、どちらの主権で、どんな条件で引き渡すかは明記していない」と答えている。

さらに、プーチンは、平和条約締結に向けた交渉について、数年前、日本側が一方的に中断して、接触をやめたと言っている。僕はこれが何のことだかよく分からなかったが、調べてみると、交渉を中断したのは、小泉内閣時代の田中真紀子外務大臣だったようだ。彼女は、父親の田中角栄元首相が主張した四島返還にこだわっていた。

このように、プーチンは来日直前のインタビューで、北方領土の返還について否定的な話をしていたが、日露首脳会談でも「二島返還」について具体的な進展は見られなかった。

東京で12月16日に開かれた共同記者会見で、安倍首相は北方領土における共同経済活動について「特別な制度」のもとでやると双方合意したと言った。「特別な制度」というのは、ロシアの主権でも日本の主権でもないということだ。安倍首相は別の場所で、「いわば経済特区のようなものだ」と答えているが、どのようなものになるかはこれからの交渉しだいで、具体的な姿は不透明だ。

さらに気になったのは、共同記者会見でプーチンが、安全保障の問題を口にしたことだ。仮に二島を返還した場合、その二島は日米安保条約の範囲に入るのかという問題だ。その範囲に入れば、米軍がここで活動する可能性があるということだが、それはロシアの安全保障にとって重大な問題になることを意味している。

この問題については、以前、ロシア側と谷内国家安全保障局長の間で会談があったとき、谷内局長が「二島が返還されれば日米安保条約の範囲に入るか」と答えている。新聞各紙は、この発言を引用しながら、日米安保が二島返還の決定的障害になると書いている。

安倍・プーチンは「95分間」何を話したのか

そのようなわけで、新聞やテレビはどこも、北方領土問題について悲観的なトーンで報じている。でも、僕は、ちょっと違う見方をもっている。

注目しているのは、12月15日に、山口県の長門市で安倍首相とプーチン大統領が二人だけで95分間も話し合ったことだ。もし内容がない会談だったら、時間はもっと短かったと思う。だとすると、実はお互いに公表できない内容があったのではないか。

一つは、ロシア側の事情だ。二島返還はロシアにマイナスの話だが、プーチンは再来年3月に大統領選挙があるので、それまでは口に出しにくい。逆にいうと、当選すれば公言できるようになる。95分間の話し合いの中で、安倍首相とプーチン大統領は、自分たちが政権にいる間に平和条約を結ぶことに合意したのではないか、と僕は考えている。

安倍首相については、自民党総裁の任期延長が通るとみられている。そうなれば、2018年春以降に、安倍・プーチンの間で平和条約を結んで二島返還というシナリオが可能だ。そんなことを話し合ったのではないか。

もう一つ重要なのは、日米安保の問題をどうするかだが、米露関係の変化で、ロシア側が軟化する可能性がある。さきにも述べたようにトランプはプーチンを評価している。しかも、国務長官にプーチンと親交がある人物を任命する方針だ。シリア問題についても、トランプはロシアに任せると言っているので、米露関係が改善するだろう。

その結果、北方領土をめぐる日米安保条約の問題も解消するのではないか、という見方があるのだ。

いずれにしても、95分間も話し合って、何も中身がないということは考えにくい。新聞が報じているのとは違った展開が、2年後に起きる可能性は十分にあると思う。

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