記事

電通社長辞任を受けて、日本の労働生産性が劇的に高まる可能性 - 塚崎公義

1/2

電通の社長が引責辞任しました。これは、電通のみならず、日本中の企業経営者に「本気で残業を減らす必要がある」という強いメッセージを送ったニュースとなりました。電通事件は不幸な事件でしたが、それに対する反省から、日本企業が残業体質から脱する事ができるとすれば、それは誠に不幸中の幸いと言えるでしょう。


そして、残業抑制は、必然的に日本企業の効率性を高める圧力となるはずです。違法残業をさせていた企業が働き方を工夫して業務を効率化させる事はもちろんですが、それでは足りずに雇用を増やせば、全国的な労働力不足が深刻化し、それが日本企業全体に効率化を迫る圧力となるからです。

筆者はかねてより、少子高齢化に伴う労働力不足が日本企業を効率化し、日本経済の生産性が上がると考えて来ましたが、その流れが一気に加速する契機となりそうなのです。労働力不足が深刻化して行けば、おのずと生産性が向上していくメカニズムが働くはずです。これまで、安価な労働力が豊富に使えたため、生産性を向上するインセンティブが乏しかった日本企業が、今後は生産性向上に尽力するからです。

今回は、この点について考えてみましょう。

■労働生産性を阻害している要因は主に3つ


日本の労働生産性を阻害している要因は、たしかに存在しています。それらが取り除かれれば、日本の労働生産性は更に上がるでしょう。

第一の要因は、文字通り無駄な仕事が多いことです。長時間労働を美徳と考える企業文化が、付き合い残業を多発させているかも知れません。年功序列制度によって無能な人が管理職になって部下に無駄な仕事を命じているかもしれません。コンセンサスを重視するばかりに、無駄な会議が増えているかも知れません。これについては、簡単には減らないと思いますが、残業規制が強まってくれば、おのずと工夫や見直しが行われると期待しましょう。

第二の要因は、今まで労働力が余っていたので、企業に省力化のインセンティブが無かったことです。この点については、労働力不足の深刻化によって省力化投資が増えていくでしょうから、楽観的に考えて良いと思います。

第三の要因は、日本企業が過剰サービスやゼロサムゲームに労力を費やしている事です。宅配便を即日届けるために、宅配便業者が雇う労働者が増えているとすれば、過剰サービスが減ることで労働生産性は上がるでしょう。それ以上に問題なのは、セールスマンの顧客訪問合戦です。全社一斉にセールスマンを廃止すれば、顧客が店舗に出向いて買い物をするので、各社の売上はほとんど落ちないでしょう。そうであれば、セールスマンの存在自体が労働生産性を引き下げている事になるのです。

以下で、第二、第三の点について、少し詳しく見ていきましょう。

■残業抑制の流れが、労働生産性向上のインセンティブに


電通が社員に違法残業を強いていたとの疑いで、強制捜査が入り、社長が引責辞任しました。これを受けて、各社で残業抑制の動きが活発化して来るでしょう。残業を減らすためには、生産性を向上させる必要がありますから、各社とも生産性向上に尽力するはずです。違法なサービス残業が減って、その分だけ仕事が減ったとすれば、統計には何も表われませんが、実体として生産性が向上するわけです。

あるいは、自社だけでは生産性向上が追い付かず、新規に雇用を増やすかも知れません。そうなれば、マクロ的な労働力不足が一層進むので、違法残業をしていない企業を含めて日本中の企業が生産性向上に努めるようになるはずです。

■労働力不足は省力化投資を促す


これまで、日本には失業者が大勢いましたから、企業は安い労働力を容易に用いる事が出来ました。飲食店は皿洗いをアルバイトにさせていたのです。しかし、労働力不足になりアルバイトの時給も上昇して来ると、飲食店は自動食器洗い機を購入するようになります。これにより、飲食店の労働生産性は向上します。

食器洗い機だけではありません。これまで省力化投資をするインセンティブが乏しかったので、企業はあまり省力化投資をして来ませんでした。従って、いたる所に「少しだけ省力化投資をすれば労働生産性が大幅に改善する」余地が転がっているのです。

省力化投資に限りません。企業が古い設備機械を最新設備に置き換える事で、従来より少ない人数で従来と同じ量の製品が作れるようになるケースもあるでしょう。日本企業は、儲かっても設備投資をせず、古い設備機械を我慢して使っている企業が多いので、維持更新投資によって労働生産性が大きく向上する余地は至る所にあるのです。労働力不足が、こうした投資を促す事が期待されます。これは、日本経済が効率的になるという事ですから、素晴らしいことです。

余談ですが、労働力不足がこうした省力化投資や維持更新投資を促すとすれば、設備投資が増加して設備機械メーカーが潤い、景気が一層回復するという面のメリットも期待出来るでしょう。マクロ経済を考えると、労働力不足は決して困った事では無いのです。

■労働力不足は一時的な現象ではなく、時代の流れ


労働力不足が、単なる景気循環としての好景気の結果だとすれば、企業は省力化投資に慎重になるでしょう。なにしろ日本企業のマインドは景気の長期低迷で冷えきっており、多少景気が回復しても「どうせ遠からず不況が来る」と考えて設備投資をしない、という習性が身に付いているからです。

しかし、今回の労働力不足は、残業体質との決別という構造的な変化を映じたものです。政府の残業規制の姿勢は明らかに強化されていますから、今後は違法残業の公表なども行なわれるようになるでしょう。そうなれば、違法残業をさせている会社は新入社員が採用出来ない、といった時代が来るかも知れないわけです。

加えて、底流には少子高齢化による現役世代人口の減少があるわけですから、労働力不足は容易には解消しないでしょう。特に少子高齢化による労働力不足は、長時間かけて川の水位が低下してきたのが、たまたまアベノミクスという川底の石によって、人々の気づく所となった、ということだからです。

今後も、景気が大幅に悪化しない限り労働力不足が続く、という予想が立てば、企業が省力化投資に踏み切る事は容易でしょう。省力化が期待出来る維持更新投資についても同様です。

あわせて読みたい

「労働生産性」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    朝日が仏大統領発言でっち上げか

    西村博之/ひろゆき

  2. 2

    内閣改造で消えた小池・野田新党

    PRESIDENT Online

  3. 3

    米国が12月以降に北朝鮮を攻撃か

    高英起

  4. 4

    信用なくてもツキはある安倍首相

    文春オンライン

  5. 5

    「米軍に勝てない」北幹部が動揺

    高英起

  6. 6

    議員秘書が明かす蓮舫氏の悪評

    fujipon

  7. 7

    小林麻耶が海老蔵の家を出た事情

    NEWSポストセブン

  8. 8

    姜尚中氏語る「戦争回避」の道筋

    亀松太郎

  9. 9

    安室奈美恵の引退に衝撃受けるな

    常見陽平

  10. 10

    アラフィフの後悔 1位は「勉強」

    キャリコネニュース

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。