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「歌は世につれ世は歌につれ」、紅白歌合戦が映し出す社会と家族 視聴率81.4%を記録した時代とは - 田部康喜

「歌は世につれ世は歌につれ」
(ある時代によく歌われる歌は、その時代の世情を反映しているものだ:大辞林)

 NHK「紅白歌合戦」は今年67回目を迎える。ラジオ時代の1951(昭和26)年1月3日に第1回目が開催された、この番組が年末を飾るようになったのは第4回の1953(昭和28)年からのことである。

歌い継がれる「見上げてごらん夜の星を」

 冒頭のことわざのように、この番組は歌によって世相を映してきた。それとともに、歌が誕生した時代を超えて、歌い継がれていく――そこには、時代が歌の誕生の世相を超えていくのではないか。つまり、人々が歌い始めた時に歌に託した感情が、時を経て変化して、歌が再生する。

 『紅白歌合戦と日本人』(筑摩選書・太田省一著)は、そのように述べたうえで紅白歌合戦のなかで歌い継がれてきた歌をその例としてあげている。

 「坂本九の代表曲の一つ、『見上げてごらん夜の星を』(1963)は、永六輔が作曲家いずみたくとともに制作した同名のミュージカルの主題歌である。ミュージカル『見上げてごらん夜の星を』の主人公は、集団就職で都会に出てきて、働きながら夜学に通う高校生だった」

 今回の紅白では、ゆずがオリジナルの歌詞も加えて「見上げてごらん夜の星を~ぼくらのうた~」として歌う。

「手をつなごうボクと 
 追いかけよう夢を
 二人なら ぼくらなら
 苦しくなんかないさ」

 オリジナルの歌詞は、やはり坂本九の「上を向いて歩こう」とともに、2011年3月11日の東日本大震災後の人々の胸に染み入った。

この年の紅白の大トリは、今年で解散するSMAPの「not alone」だった。前述の著作のなかで、太田省一は次のように指摘する。

 「『not alone』の歌詞には『上を向いて歩こう』を連想させる、次のような一節があった。『遠く離れた きみが今見る空は ぼくの見る空と同じだと気づく』。この歌詞は、『幸せは空の上に 幸せは雲の上に』という、『上を向いて歩こう』の一節とどこか通じるところがありはしないだろうか」

人々の不安をいやす歌

 金融資本主義とグローバリズムが地球を覆いつくしたいま、格差の拡大とともに、国民国家は揺れ動いている。英国のEUからの離脱や米国の新大統領にドナルド・トランプ氏が就任するなど、メディアの予測を超えた各国の国民たちの不満と憤りが世界を変えようとしている。大国間のパワーバランスも大きく変化していくことだろう。

 日本もまたその外に安住することはできない。人々の不安は解消されない。

 歌はそうした感情をいやしてくれる。今回の紅白では、デビュー20周年のPUFFYと来年に20周年を迎えるKinKi Kidsが初出場する。PUFFYは紅白のスペシャル・メドレーを、KinKi Kidsはデビュー曲の「硝子の少年」を歌う。

 「失われた20年」を経て、彼らの歌もまた誕生時に人々が抱いた感情を超えて、新たな意味を見出すのではないだろうか。

視聴率と「昭和」への郷愁

 今年の紅白のテーマは「夢を歌おう」である。2020年東京五輪の前年の19年まで4年間にわたって、このテーマを掲げるという。

 紅白の視聴率は、1964年東京五輪の前年の第14回に記録した81.4%である。これは過去の視聴率でも群を抜いた第1位である。ちなみに、第2位は東京五輪の女子バレーボール決勝戦「日本×ソ連」(1964年10月23日)の66.8%、第3位は2002年FIFAワールドカップ・グループリーグ「日本×ロシア」(2002年6月9日)の66.1%である。

 NHKが紅白にかける意気込みは、前回の東京五輪に向けた熱気の再現にかけているようにみえる。

 映画「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズが描いているように、「昭和」は現代と比べて必ずしも暮らしやすい時代ではなかった。この映画のなかで、東京の大気汚染による「スモッグ」や社会の底辺で医療も受けられずに働く女性も多かった。犯罪も現代よりも多い。

 平均寿命も、1960(昭和35)年には男性が65.3歳、女性が70.1歳だった。平成27(2016)年には、それぞれ80.7歳と87.0歳に伸びている。

 「昭和」に郷愁を抱いたり、懐かしがったりするのは、まず家族のありようが要因ではないか。平成27(2016)年には、単身世帯と夫婦のみの世帯がそれぞれ全体の約四分の一を占めている。ひとり親と未婚の子どもの世帯も約7%いる。

 夫婦と子どもの世帯は約3割、三世代同居は約6%である。

 これに対して、1961(昭和36)年は、夫婦と子どもの世帯が4割以上を占めていた。三世代同居も約15%もあった。単身世帯は約18%、夫婦のみの世帯も約14%だった。

 「一家4人」の世帯あるいは祖父母も含めて、紅白を見る時代は家族構成の変化をみると、視聴率が低下するのは当然である。

 紅白の視聴率の推移をみると、平成17(2006)年の第57回から40%前後である。多チャンネルと有料放送が普及してきた現代においては、この数字でも十分に「お化け番組」である。

 このコラムのシリーズは、ドラマやその主人公たちが過去に出演した映画などを背景として、テレビのいまを書き綴ってきた。

 今回の紅白は、映画「ソロモンの偽証」で重要な役をこなした石井杏奈がメンバーである、E-girls、俳優としても評価が高まっている西島隆弘のAAA、「恋ダンス」が社会現象になり、俳優としても活躍する星野源の歌とダンスを楽しもうと思う。

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