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夫婦控除は再浮上する 主婦の働き方はここからが本番だ - 野口俊晴(ファイナンシャル・プランナー)

■夫婦控除は選挙対策で潰された

平成29年度の税制改正大綱では夫婦控除が見送られ、配偶者控除が見直しとなりました。税の負担増が見込まれた専業主婦層からの猛反発を政府が危惧し、29年1月観測の解散・総選挙、夏の都議選で不利になるからということのようです。

28年9月には、税制の抜本大改革の触れ込みで「配偶者控除の廃止、夫婦控除の導入」として、早ければ翌年1月に実施予定と報道されたばかりでした。にもかかわらず11月には、夫婦控除は詳細な説明もされないまま、配偶者控除とどっちが得か損かと国民は煽られた挙句、あっさり消え去ったのです。政府の「働き方改革」からすれば、夫婦控除を導入したかったはずですが、とにかく政策の性急さと失速感は免れられません。

■夫婦控除は再浮上する

配偶者控除の見直しについては、すでに税制改正大綱が発表されたので概要のみを記しておきます。所得税では(住民税にもある)、配偶者の収入が103万円までなら38万円が収入から控除されていました。これは主婦が働くにあたっての「103万円の壁」と言われてきました。これを収入150万円まで拡充するというものです。ただし、満額控除は夫の収入が1120万円を上限とし、1220万円までは段階的に控除額が減少していきます。

これで少しは余分に働けると安心しているパート主婦は、あまりいないでしょう。「壁」が少し後方に下がっただけだし、後述するほかの「壁」もあるからです。ところで、配偶者控除はいずれ廃止され、夫婦控除がまた浮上すると思われます。昨年も一昨年も税制改正の時期には案が出てきています。これを踏まえて、次年度(平成30年度)以降の税制に合わせた働き方を今から考えていった方がいいでしょう。

■「大綱」に書かれたつじつま合わせ

ここで、改めて両控除について「平成29年度税制改正大綱の基本的考え方」の記述を見てみます。

まず、配偶者控除について。
一定の収入以下の扶養親族を有する場合に、それぞれの事情に応じて納税者の担税力の減殺を調整することとしており、配偶者控除もその調整の仕組みの一つである。また、諸外国においても配偶者の存在を考慮した仕組みが設けられている。こうした点を勘案すれば、配偶者控除を廃止して、配偶者に配慮を何ら行わないことには問題がある。
その上で、夫婦控除についてこう言及しています。
夫婦世帯を対象に新たな控除を設けることについて、国民の理解が深まっているとは言えない。こうした問題を踏まえると、これらの考え方を具体的な制度改正の案として直ちに採用することは難しい。
夫婦控除は配偶者控除廃止に替わる案として出されたわけで、前段にあるように、配偶者の「担税力の減殺」を無視しているわけではありません。控除額と控除方式が未定のままでしたが、夫婦の収入に関わらず(ということは配偶者の収入に関わらず)控除が得られるものです。したがって、夫婦控除導入が「配偶者に配慮を何ら行わない」ことには当たらないのです。

また、後段の「国民の理解が深まっているとは言えない」とあるのは、どういうことでしょうか。28年9月、夫婦控除案を国民に公表した時点で、自民党税制調査会はじめ政府サイドは、詳細はこれから詰めると悠長に構えていたのです。年明け早々に導入すると国民の気をせかせておいて、この時点で国民が一番知りたいことも知らされていませんでした。これでは、「国民の理解」など深まりようなどないのです。

■肝心なことは決まっていなかった

夫婦控除について、肝心なことは次のことでした。
① 夫婦控除の控除額はいくらか。それは所得控除なのか、税額控除なのか。
② 所得制限の対象となるのは誰の収入なのか。夫婦合計での収入か、どちらか収入の多い者の収入なのか。(収入上限案は800万円~1000万円)

特に①が未定だったのは、致命的です。控除額と控除方式によっては、現在103万円以下の層にとっては、増税にも減税にもなりうるのです。②についても、夫婦の収入の組合せによっては夫婦合計収入の多い方が控除を受けられ、少ない方は控除が受けられないという逆転もおこります。常識的には夫婦で収入の多いほうから差し引くという趣旨でしょうが、そこが曖昧でした。したがって「低所得の専業主婦世帯では増税見込み」などとマスコミに言われれば、この層の反発が強くなるとの予測も当然だったのです。

■「就労機会の壁」が格差につながる

私たち国民は、確かに現在の負担が増えることには耐えられません。しかし、世の中全体が良くなると納得できれば、多少の税負担は耐えねばと考えるものです。ただ、事情があって「ここから抜け出せない」という専業主婦もいるでしょう。子育て中の夫婦や介護の親を抱えた夫婦、あるいは配偶者自身の事情で働きに出られない人もいます。こういう場合は、税負担のみで解決するには無理があり、社会保障などの手当ても必要となります。

一方で、女性がもっと働きたいという願望はずっとあります。それに対する「壁」としては、社会保険料が免除となる第3号被保険者の「130万円の壁」(一定の条件で106万円)もあります。そればかりではありません。社会経験で差別され、なかなか仕事に就けないこともあります。ここでいう社会経験とは、家庭にこもらず社会に出て仕事経験を積んできたか、正規社員での経験があるか、などということです。

そういう経験のない人に対する「就労機会の壁」があります。これは出産、育児、病気、事故、障害、介護、失業、高齢などによって、正規社員として勤務できずにブランクがあった人への格差ともなります。これらの格差がなくならないかぎり、いくら税や社会保障の「壁」を取り払おうとしても、その壁の内側にいる人はなかなか外に出られないのです。

■目先の税軽減に惑わされない

今回の税制改正では、急失速となった夫婦控除ですが、いずれ配偶者控除に取って替わると予測されます。私たちとしては、それを見越して不確かな情報に踊らされることなく、税負担に対しては賛成か反対かを明確に意思表示しなければならないと思います。そうでないと、知らずに税負担が増えたり、あるいは次世代のためには負担増やむなしの制度であっても、目先の税軽減の方に心が向かいがちになります。

今年に限らず、誰が損して、誰が得するか、選挙に勝つには誰の心を窺うかという目先のことばかりが取り出されているうちは、国民全体が納得いく税改革など、到底望めるものではありません。

【参考記事】
■「副業・兼業」は、解禁待たずに今から始めよ (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/50091670-20161129.html
■どれだけ稼げても、長時間残業は割に合わない (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49837469-20161026.html
■転職貧乏で老後を枯れさせないために個人型DCを勧める理由 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49061150-20160714.html
■定年退職者に待っている「同一労働・賃下げ」の格差 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー) 
http://sharescafe.net/48662599-20160524.html
■年俸制の契約社員でも未払残業代を堂々と取り戻せる法 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/42292529-20141208.html

野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー TFICS(ティーフィクス)代表

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