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ネットメディアは何を目指すのか? キュレーション問題が突き付けた課題

 健康情報サイト「WELQ」に端を発したDeNAのキュレーションメディア問題は、ネットメディア全体に大きな課題を突き付けるものとなりました。記事の盗用、正確性を欠く内容、クラウドソーシングを通じた“素人ライター”の登用……これら明らかになった事実は、ネットメディアに対する信用を大きく損なうことになったのです。今回は、この問題を受けてネットメディアが目指すべき今後の在り方について考えます。

メディアの原点は、ものごとを「正確に」伝えること

記者会見するDeNAの守安功CEO(中央)ら(撮影:具志堅浩二)

 ネットメディアは何を目指すべきか。ネットメディアの使命とは何か。その答えは、テレビは60年以上、新聞は130年以上という長い歴史の中で追求してきたものと何ら変わることはありません。つまり、「世の中のものごとを“正確に”伝えること」。それこそが、ネットメディアに課せられた最大の使命ではないでしょうか。

 もちろん、メディアが世の中の情報を読者や視聴者に伝える過程の中では、取り上げる情報に対して様々な視点や切り口が生まれ、場合によっては意見や批評が乗り、世の中に向けて発信されることになります。しかし、その根本にある情報が誤ったものであったり、その情報が事実であるか否かの確認をしていない真偽不明のものだったり、誤解を与えるようなあいまいな内容であったり、ましてや他のメディアから盗用しただけのものであれば、読者や視聴者に対して情報の正確性を担保することはできません。

プレスリリースであっても再取材の対象にする

 筆者はかつて、ある大規模展示会のプレスルームで、外資系大手通信社の記者の仕事ぶりを目の当たりにして、自分自身の認識の甘さを痛感したことがあります。展示会では、出展企業から大量のプレスリリースや報道用資料が配布され、私たち記者・ライターはその資料と会場の取材を基に記事を制作します。私は資料の内容を読んで、取材メモを片手に、記事の内容に誤りがないよう注意しながら制作をしていました。

 しかしその通信社の記者は、資料に記載されている細かい事実内容をも、電話で企業の広報部に何度も再取材しているのです。プレスリリースや報道用資料は、記者がニュースの根幹となる事実の拠り所にする重要な資料です。しかし、その資料をも内容の正確性を疑い、誤った解釈がないように細かくチェックをする。そうした記者の姿勢に脱帽しました。

 メディアは、発信する情報のすべてについて、その正確性に対する責任を負う必要があり、そのメディアに記事を掲載する記者・ライターも同じ責任を果たす必要があります。誤った情報や真偽不明の情報を流布して世の中を混乱させてはならないという強い使命と強烈なプレッシャーを常に抱えているのです。

 冒頭に紹介したDeNAのキュレーションメディア問題では、クラウドソーシングサイトを通じて記事制作に携わる人材を大量に確保し、記事を量産していたといいます。記事制作に携わっていた方々は、こうした責任を少しでも感じていたでしょうか。メディアを通じて情報を発信するということは、簡単にできるものではないはずなのです。

「キュレーションメディア」の意味を、改めて考える

 情報の正確性に対して、強い使命感とプレッシャーを感じないのであれば、メディアを語る資格はないと言っても過言ではないでしょう。とはいえ、ではキュレーションメディアは不要なのかというと、そういうわけではありません。キュレーションメディアは世の中に散在する情報を整理して伝えるという意味で、大きな役割を果たす存在です。しかしながらDeNAの問題は、「キュレーションメディア」という言葉の意味をはき違えたところから始まったのではないかというのが、筆者の考えです。

 博物館などで、展示の監修や来場者への説明をする学芸員のことを、英語では「キュレーター」と言います。キュレーションとは、本来は専門的な知識を持った人(キュレーター)がその専門性を活かして世の中の情報を整理し、わかりやすく伝えることを指し、キュレーションメディアはそうした情報の集合体=キュレーターの叡智の集合体であるべきなのです。もっとも、メディアの記者というのは、自分の手足で情報を集め、構成を整理して自分の文章で記事をアウトプットするキュレーターだと言えるのかもしれません。

 しかし、実際にはどうでしょうか。「キュレーションメディア」と称するサイトに掲載されるコンテンツの多くは、読者が面白がってくれそうなテーマに対して、ただネット上に公開されている情報を断片的にかき集めて並べるだけに留まる場合が多くみられます。そうした記事を量産して、インパクトのあるタイトルで読者の興味を喚起するのです。

 面白いテーマやインパクトの強いタイトルは読者の注目を集め、SNSを通じて瞬く間に拡散していきます。こうして獲得したメディアの読者数や閲覧数は、広告収入などビジネスの成功に直結する要素となるのです。「面白いテーマ」→「読者が拡散」→「売上アップ」という構図が、昨今キュレーションメディアが乱立した背景にあるのではないでしょうか。

 「WELQ」では、メディカル・ヘルスケアという専門性の高いテーマについて本来キュレーションメディアが果たすべき役割は、残念ながら果たされませんでした。それは、「キュレーションメディア」という言葉がネット業界におけるビジネス成功モデルの“流行語”として一人歩きしてしまい、テーマとタイトルが面白い記事を量産・拡散できれば収益が生まれるという安易な考えのもと、コンテンツの質より量を追求したメディア運営を進めてしまったことが、大きな要因になっているのではないでしょうか。キュレーションメディアが本来の役割を追求し、専門性の高い情報を正確に、わかりやすく伝えることができれば、間違いなく世の中にとって大きな価値となるはずです。

 2015年のステルスマーケティング問題、2016年のキュレーションメディア問題と、ネットメディアには毎年看過することができない大きな課題が突き付けられてきました。広告市場規模では新聞やラジオを抜いたといわれるネットメディアですが、信頼性という意味においてその存在価値がマスメディアと並ぶためには、解決すべき課題はまだまだ多く存在するのです。

(執筆:井口裕右/オフィスライトフォーワン)

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