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サイバー戦争における米国の報復手段とは? - 岡崎研究所

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのイグネイシャスが、11月15日付同紙のコラムで、米国の大統領選挙に対するロシアのサイバー攻撃による干渉をエスカレートしなかったのは、米国が強い警告を発したためである、と述べています。

 10月31日、ホワイトハウスはロシアに対しこれ以上米国の大統領選挙をサイバーで干渉しないよう、秘密のホットラインを使って警告した。その後、ロシアは干渉をエスカレートしなかった。

 この警告は、本年米露政府間で行われてきたサイバーの瀬戸際政策の一部であり、ロシアの圧力に屈したと思われない形での関係の安定化が、トランプ次期大統領にとっての最大の課題の一つである。警告は、2013年に「核危機削減センター」の一環として作られた特別のチャネルを通じて送られた。米政府のある高官は、「それはロシアに対する極めて明確なメッセージであった。このチャネルを使ったこと自体がメッセージの一部であった」と述べた。

 この秘密の警告に先立ち、10月7日クラッパー国家情報局長官とジョンソン国土安全保障省長官が、ロシアの最高位の政府高官が、米国の大統領選挙に干渉するためのサイバー攻撃を認可したとの公の声明を出している。

 米政府筋はこの2つの警告の後、ロシアはサイバー活動を広げず、むしろ減らしたようだと述べた。ホワイトハウスはロシアが選挙当日サイバーで選挙を妨害するのではないかと恐れていたが、そのような干渉は無かった。しかし他の政府高官は、ロシアが追加的活動を抑止されたのかどうかを言うのは時期尚早であると述べた。

 米ロ間の秘密の接触は、両国間で高まっている対決の最新の事例である。オバマ政権は攻撃的なロシアによる事態を不安定化させる行動を抑制するような、サイバー空間における抑止の規範を確立しようと努めてきた。2015年のG-20サミットは、サイバー空間における国家の行動に国際法が適用されると述べ、ホワイトハウスはこれを前進であると考えた。米国は、この約束には攻撃と反撃のつり合いと巻き添えの被害の制限を守るような交戦規則の順守が含まれると主張しているが、オバマ政権はロシアがこれらの制限を無視していると懸念している。

 オバマ政権のロシア専門家は、次期政権の後任に対し、「ロシアの意図を知ること、ロシアが約束を守ると信じることは極めて難しい」と警告する。別の高官は「ロシアは危険な行動を取る傾向を強めており、ロシアの指導層は注意深く、良く計算し、危険は避けるという従来の想定は当てはまらなくなりつつある」と述べた。

 サイバー空間で新しい冷戦が始まった。トランプはデタントを望んでいるようであるが、まずはこの新しい分野での抑止の明確な規範の確立を注意深く検討すべきである。

出典:David Ignatius,‘In our new Cold War, deterrence should come before detente’(Washington Post, November 15, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/in-our-new-cold-war-deterrence-should-come-before-detente/2016/11/15/051f4a84-ab79-11e6-8b45-f8e493f06fcd_story.html

 米大統領選挙中、民主党全国委員会がサイバー攻撃を受け、多くの資料が流出しましたが、サイバー専門家は攻撃はロシアによるものと断定しました。選挙中、クリントン候補がロシアに対し強い姿勢を示したのに対し、トランプ候補は、「プーチンは強い大統領である、ロシアとの関係はうまくやっていける」などと述べました。ロシアがトランプ候補の当選を望んだとしても不思議ではありません。

安保の新しい課題

 米政府がロシアによる一層の選挙干渉を真剣に懸念した結果が、論説の指摘する公開および秘密裏の対露警告でした。結果としてロシアのサイバー干渉は無かったのですが、米政府筋はそれが、警告が抑止として働いた結果かどうかについての言明は避けています。サイバー攻撃問題にどう対処するかは、安全保障上の新しい課題です。

 サイバー攻撃は従来の通常兵器、核による攻撃と比べ、攻撃者の特定の問題をはじめ、目に見えにくい部分が多く、サイバー攻撃問題をどう管理するかは容易でありません。論説は一例としてサイバー攻撃に対する抑止の問題を採りあげています。抑止の典型的な例は核攻撃に対するものであり、攻撃された場合、相手に耐え難い報復をすると警告することで、相手に攻撃を思いとどまらせようとするものです。そのためには報復の能力と意思を相手方にはっきりさせておく必要があります。

 サイバー攻撃の場合はどうでしょうか。核の場合は報復の能力は、例えば潜水艦発射核搭載弾道ミサイルというように相手に示せますが、サイバーの場合は基本的に能力は目に見えず、核と同様に論じることはできません。今回の米国の対露警告が具体的に何であったかは分かりませんが、米国はロシアよりはるかにデジタル・インフラに依存しているので、サイバー攻撃で報復するのは賢明でないという見解が有力のようです。それでは何が報復手段でありうるのか、これは米国に課せられた重要な課題と考えられます。

 抑止の問題以外にも、サイバー攻撃問題をどう管理するかの問題は数多くあります。2015年のG-20サミットで、サイバー空間における国家の行動(当然サイバー攻撃も含む)には国際法が適用されるということで合意が成立したと言いますが、これが何を意味するかは明らかでありません。

 サイバー攻撃は、企業秘密の窃取と言った経済的動機にとどまらず、政治的動機に基づくものがますます増えることが予想されます。イグネイシャスは、別の記事で、米ロ関係について「冷戦は終わり、サイバー戦争が始まった」と言っています(The Cold War is over. The Cyber War has begun. WP, September 15)。サイバー攻撃をどう管理するかは喫緊の課題です。

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