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「日本の若者は政治に関心がない」は本当か?- 清水唯一朗

 「今時の若い者は政治に関心がない。この国の将来をどう考えているのか」。中年男性を中心によくこんな不安とも小言ともつかない話を耳にする。昨年、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられたが、この時も「若者の政治に対する関心を高める必要がある」から選挙権年齢を引き下げるという説明がしばしばなされた。果たして本当に若者は政治に関心がないのだろうか。

 結論を先取りすれば、この言説は国際的に見ても、国内的に見ても否定される。

 まず国内から見てみよう。たしかに若者の投票率は他の世代に較べて低い。2016年の参議院議員選挙では全体の投票率が54.7%であったのに対して、20代は35.6%に止まった。全体に較べて19.1%低いことは看過できない状況である。

 しかし、叙上のような警世を口にする今の50代が「若者」であったころはどうだろうか。今から27年前、1989年の参議院選挙の投票率は、全体で65.02%であるのに対して20代は47.42%に止まっている。20代と全体の差は18.35%であり現在と大差ない。昔の若者も政治に対する関心は薄かった。自分のことを棚に上げた説教は避けたいものだ。

政治への関心が高い日本の若者

 次に国際比較をしてみよう。2008年に行われた世界青年意識調査では、58%の日本の若者が「政治に関心がある」と答えた。これはアメリカ(55%)、韓国(50%)、イギリス(33%)など他の調査対象国と較べて最も高いものであった。政権交代への期待が感じられる。

 もっとも、5年後の2013年調査ではこの数字は50%に下落し、対照的にアメリカは59%、韓国は62%、イギリスは55%と上昇した。とはいえ、他国との差はきわめて小さい。これらの国と較べても、日本の若者が政治に関心がないという言説はまやかしであることがわかる。

 では、この言説はどこからやってくるのだろうか。世界35カ国を対象に40年近く行われてきた世界価値観調査を分析した田辺俊介氏、高橋征二氏らは、政治に対する関心が学歴や年齢に比例して上昇することを指摘している。どの国でもどの時代でも、若者の政治に対する関心は、中高年のそれに対して低く現れる普遍的な現象ということだ。

 ただ、田辺氏らは興味深い指摘もしている。日本ではこの上昇度合いが他の国に較べて大きいというのだ。若者の政治に対する意識は国際的に見ても低いものではないが、中高年になるほど他国に比して高くなるという傾向は興味深い。「意識高い系」は日本の中高年にこそ当てはまるのかもしれない。

 一方で、各国の状況を見ると、若者が政治を動かすシーンも目立っている。この間、香港では雨傘革命が起こり、台湾ではひまわり運動があり、スペインでは大学発の政党「ポデモス」がキャスティグ・ボードを握り、韓国では学生が主体となって大統領辞任要求デモを行っている。

 昨秋、私は台湾の大学で教鞭を取っていたが、台湾の学生たちは溢れんばかりの熱意と深い国際法上の知見を持って、自分たちの国家のあり方を論じてくれた。3月に訪ねたスペインの学生たちは既存政党による政治の限界を語り、年末にソウルで出会った大学院生たちも大統領制が抱える構造的欠陥や民主主義の制度内においてデモを行うことの意義について熱心に解説してくれた。

 日本ではどうか。2015年夏のいわゆる安全保障関連法案審議をめぐる首相官邸前でのデモンストレーションでは学生団体の積極的な活動が注目された。各国の日本研究者も、主張をしなくなっていた日本の青年たちがついに立ち上がったと、ある種の期待を持ってこれを迎えていた。しかし、彼らは香港や台湾、スペインのように政党を立ち上げて国会に議員を送ることはなく、翌年には活動を停止し、解散した。

 彼らの「挫折」を嘆く向きもある。しかし、それは永田町にしか「政治」を見いださなくなっている、メディアに犯された大人たちの狭い政治観がなせるものだろう。若者たちの関心はそこにはない。

 投票に行っても何も変わらない、デモをしても政治は変わらない。こうした社会を作ってきたのは今の大人たちである。「国の政策に対してどの程度民意が反映されていると思うか」という内閣府の調査に対して、反映されていないとする回答は1983年の51.1%から2015年には66.8%まで上昇している。政治に自分の意見が届いていると感じる「政治的有効性感覚」はきわめて低下している。くわえてこの世代は1980年代後半以降、政治腐敗が立て続けに報じられるなかで育った。政治に期待せず、それと距離を置くことは当然であろう。それにも関わらず国際平均と同じ水準で「政治に関心がある」と答えていることは驚異的と言うべきだろう。

 では、その高い関心はどこに向かっているのだろうか。彼ら彼女らは政治とは異なるパスを持って、自分たちが直面する問題に正面から向き合い、それを動かそうとしている。いくつか実例を紹介してみよう。

目下、女子大生を悩ます最大の問題

 目下、女子学生を悩ます最大の問題は仕事と家庭の「両立」である。一方で「一億総活躍」といわれ、一方では出産と育児を求められる。学生たちは「両立」できる自分を目指して奮闘する。ところがこれまで彼女たちが相談してきたの母親は、この問題にあってロールモデルたり得ない。その多くが就職してほどなく結婚し、専業主婦として育児に専念してきたからだ。彼女たちの将来への不安は増幅する。

 それならば、育児世代の共働き家庭を訪ねて一日体験をして、様々な相談をすればよいのではないか。これを「家族留学」と名付けて展開する学生団体が「manma」である。代表を務める新居日南恵氏はいまだ学部生だが、政府審議会の委員も務めるなど、学生であることを存分に生かして活動している。

 地方の衰退が問題視されるなか、ありきたりな地方活性化ではなく、地方にある優れた産品を都会の若者が買いたくなるようにリデザインする「ハピキラFACTORY」も、代表の正能茉優氏、山本峰華氏が学部生のときに立ち上げた。

 ふとした偶然から訪れて大好きになった地方の町と一緒に仕事をする。そのことで地方も、自分たちも楽しい人生を送ることができる。二人とも大企業に勤務する一方で社長業を続け、兼業による多様なライフスタイルの提言をしているほか、後輩たちを「日本かわいいプロデューサー」として育てるなど、将来に向けた活動も進めている。

日本の若者は「大文字の政治」とは距離を置く

 台湾で、スペインで、韓国で学生たちと話したときに、統治構造をはじめとする「大文字の政治」に対して深い関心と理解を持っていることに驚く一方で、彼らが少子高齢化や地方活性化といった具体的な政策に対する興味と知識がないことに気づいた。

 他方、日本の若者は「大文字の政治」とは距離を置く。それを人は「日本の若者は政治に関心がない」と言うのだろう。しかし、それは公共に対する無関心を意味するものではない。上記の取り組みを見れば明らかであろう。

 もっとも、政治に向き合おうという動きもある。高校3年生が立ち上げて4年間活動を続けている「僕らの一歩が日本を変える。」はその代表例であろう。彼らは香港や台湾の学生とも交流し、活動の幅を広げている。ボートマッチシステムを導入している政治情報サイト「日本政治.com」も大学生が立ち上げたものだ。彼らにとっては、少子高齢化も、地方活性化も、政治参加も、自分たちの世代が直面する課題である。

 彼ら彼女らと話していると、この層が「ゆとり教育」の勝ち組であることに気づかされる。ゆとりとして得た時間に、彼らはさまざまな経験をし、刺激を受け、意欲的な大人たちと交流した。そして2005年の郵政選挙、2009年の政権交代、2012年の再交代を見てきた彼らは「政治だって変えられるもの」という感覚を持っている。そして2011年の東日本大震災が彼らをして、公共のために何かをするという気持ちを抱かせた。

 震災後、大学のキャンパスには「何かを実現したい」と考える学生が溢れるようになった。講義に出ず、サークルに没頭し、モラトリアムとしての大学生活を送った世代が思い描く大学生の像はもはや過去のものとなりつつある。彼らは自分の課題にぶつかっては、それを乗り越えるために教室にやってくる。サボったり、ノートを回したりする姿はそこにはない。

 すでに、政府や一部の企業は、この意欲的な学生たちと協働をはじめている。「若者は政治に関心がない」のではなく、見ている次元が異なるのだ。その違いを超えて、むしろ彼らをパートナーとして社会を変える時代が来たと捉えたらどうだろうか。世界的に見て「意識高い系」になりやすい分析された日本の中高年にとって、これは朗報なのかもしれない。

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