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町山智浩氏が見た“美味しいとこ取り”トランプ大統領の矛盾

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世界中から大きな驚きをもって迎えられたトランプ大統領の誕生。米国在住で映画評論家、コラムニストとして活躍する町山智浩氏は、トランプ大統領の誕生をどのように見たのだろうか。そして、トランプの主張してきた政策に、どの程度実現の可能性があると考えているのだろうか。トランプの支援者集会を周り、「さらば白人国家アメリカ」を上梓した町山氏に話を聞いた。(取材・執筆:永田 正行)

トランプは最後の「白人のための大統領」

BLOGOS編集部

-今回のトランプ当選の背景には、“白人の怒りがあった”という分析をよく見かけますが、町山さんはどのようにお考えですか。

町山智浩氏(以下、町山):CNNの出口調査によればトランプに投票した人の57%が白人ということですね。私もトランプの支援者集会を訪ねて、アイオワやアリゾナ、それにオハイオを周って話を聞いていますが、参加者はほとんどが白人でした。そして白髪が多い。つまり、圧倒的に高齢者なんです。CNNによれば50歳で分かれるようです。つまり50歳未満の投票者の過半数がヒラリーに入れて、50歳以上はトランプということです。

また、これはサンノゼというシリコンバレーに非常に近い街で行われたトランプ支持集会で感じたことなのですが、平日の夕方6時から始まった集会にネクタイやスーツを着ている人がいない。作業着やワークブーツ、いわゆるブルーカラーの人達が多かったです。

直接彼らに話を聞くと、ガソリンスタンドや水道、学校の先生でした。つまりハイテクや金融グローバライゼーションや株式市場とは縁のない、地元に密着した仕事の人達ですね。ITなどのニュー・ビジネスに対してオールド・ジョブズ(昔からの仕事)などと呼ばれています。

それは社会インフラの末端を担う仕事なので、間違いなく必要です。しかし、飛躍的なビジネスの拡大は望めないので、どうしても収入が頭打ちになってしまう。予備選が始まった頃、トランプ支持者は、「年収700万円程度」と報道されて、日本では「それほど悪くないじゃないか」と受け止められましたが、これは世帯収入Household Incomeなんです。つまり、夫婦で働いていたら、各々の年収は350万円。彼らの多くが50歳以上であることを考えると、決して裕福ではない。

またCNNによるとトランプ支持者の51%が非大卒で、PRRI調べでは40%が生まれた街から出ないで暮らしている。つまり大学に行くために都会に出なかったということですね。そういう人々を2008年の共和党の副大統領候補だったサラ・ペイリンは「リアル・アメリカン(本物のアメリカ人)」と呼びました。トランプが彼らを「サイレント・マジョリティ(物言わぬ多数派)」と呼んだように。

そのいっぽうで、ニューヨークのある東海岸や、カリフォルニアのある西海岸の、ITや金融業界で働く人々は20代で年収は1000万~2000万円を得ている。しかも将来もっと発展する仕事です。こうした都会のエリートと、田舎のサイレント・マジョリティの間に接点はほとんどありません。飛行機は田舎の上を飛び越していくし、製造業はアメリカの田舎から中国やアジアに行ってしまったので、ビジネスでもあまり取り引きがない。だからサイレント・マジョリティは“取り残されている”という感覚があるのでしょう。

実際、トランプ勝利を見た広告業界は「田舎の人たちに向けたマーケティングを忘れていた」と反省し始めたという報道がありました。

―そうした人々がトランプを支持したわけですね。

町山:だから、トランプは勝てないだろうと思ったんです。支持者が白人の高齢者だけに限定されて、広がりがなかったので。白人の人口は減少し続け、現在、既に60%しかいない。2040年には50%を切ると推測されています。やはりPRRIの調査によると、トランプに投票した人たちの3分の2が今回の選挙は「ラスト・チャンスだった」と言っているそうです。つまり、白人が多数派として政治を左右できる最後のチャンスだと。トランプは移民の規制を打ち出して人気を集めましたが、白人の人口の比率がこれ以上減るとマズいという危機感があったからだと思います。

白人は全人口の60%しかいないにもかかわらず、今回の選挙では全投票者のうち70%が白人でした。それだけ必死に投票に行ったわけです。一方、非白人の投票率は歴史的なレベルで低かった。

今回、トランプがメキシコ系移民を侮辱したので、それに反発してヒスパニックの投票率は伸びたのですが、黒人の投票率はオバマ時代に比べて大きく下がりました。さらに、若い人たち、オバマの当選に大きな役割を果たした「ミレニアル」と呼ばれる30歳以下の人達の投票率は、ここ何十年かで最低でした。さらに女性の54%しかヒラリーに投票しなかった。これはオバマよりも低かったです。

それでも、ヒラリーは全体の得票数で260万票もトランプに勝ってるんですけどね。トランプの得票率は46.8%で、2012年に500万票差でオバマに負けたロムニーの47.2%よりも少ないんです。、2008年に1000万票差で負けたマケインと同じくらいです。つまり、本来であれば、トランプの得票数は勝てない数字なんです。しかし、全体の投票率が54.7%と、12年間で最低だったので、それでも勝利しました。

-投票率低下の背景には、既存の政治に対するあきらめがあったのでしょうか?

町山:そうですね。最近最も投票率が高かったのは2008年で、オバマが「チェンジ(改革)」を掲げて出てきた時ですからね。

オバマに投票したミレニアルは今回、ヒラリーではなく、民主党の公認を最後までヒラリーと争ったバーニー・サンダースを支持していました。サンダースは民主党員ではなく、社会主義者を自認していました、トランプと同じく、既存の政治に対するアウトサイダーだったわけです。

若者たちがサンダースを支持した最大の理由は、学費の免除です。富裕層に対する増税を資金源として、公立大学の学費を無料にするとサンダースは主張しました。これが非常に具体的で若者の支持を得ていたのです。しかし、サンダースが離脱したことで彼らは投票に行くのを辞めてしまったのでしょう。

同じように、トランプが選挙に勝った最大の理由は、TPPとNAFTAの破棄を掲げたことです。トランプは「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」と呼ばれる五大湖地方の州ですべて勝利しています。製鉄や自動車などの重工業の拠点だった地帯です。ここはラテン系、メキシコ系、イスラム系の移民がそれほど流入していない場所なので、「移民排斥」はそれほど関係ない。この地方の人々に響いたのは、やはりTPPとNAFTAを破棄することで工場を国内に取り戻すというトランプの公約です。保護貿易政策ですね。

-自由貿易の方が全体の富は大きくなるという認識が一般的ですが…。

町山:自由貿易で利益を得るのはウォール街の金融業者や、西海岸のIT業者ですね。例えば、iPhoneだって全部中国で作っているわけですから。

しかし、自由貿易だと、製造業の工場は人件費の安いメキシコやアジアに移転されちゃうわけです。それで経営者は儲かりましたが、ラストベルトの労働者は仕事がなくなってしまった。

彼らの支持を集めるためにトランプは、「ウォール街は敵だ」と主張してきました。ヒラリーや他の共和党議員を「ウォール街から金をもらってる」と攻撃してきました。特に「テッド・クルーズの妻はゴールドマン・サックスの重役だ」だの「ヒラリーはゴールドマン・サックスから講演料をもらった」だのゴールドマン・サックスとのコネクションを攻撃対象にしてきましたが、それで票を集めて当選したにも関わらず、財務長官をはじめ経済閣僚にはゴールドマン・サックスのOBを次々に起用してるんですよね。ラスト・ベルトの人たちは「裏切りだ!」と怒らないんでしょうかね(笑)。

トランプは保守でもリベラルでもない

AP

-トランプは当選したことで、これまでの主張が軟化しているようにも見えます。また、共和党から全面的に支持されているわけではないので、今後どれだけ当選前の主張を実現できるかは不透明だと思うのですが。

町山:トランプは選挙中、共和党の政策に一致していること、反していることの両方を言っています。つまり、彼は保守でもリベラルでもない。ラスト・ベルトの白人ブルーカラーにウケそうなことは何でも言っていました。

もともと、大統領選の勝敗を決する激戦州は英語では「スイング・ステーツ(揺れ動く州)」ですから、保守でもリベラルでもあります。特にラスト・ベルトの白人ブルーカラーは労働組合員なので、伝統的に民主党の支持者でした。1980年の選挙ではレーガンに投票しましたが、クリントンもオバマも彼らから圧倒的に支持されていました。オバマは2008年も2012年もラスト・ベルトで圧勝してますからね。GMとクライスラーが破綻した時に公的資金を投入して立て直しましたから、支持されて当たり前なんですが。

今回の投票でも、CNNの出口調査では投票者全体のオバマ支持率は57%と、トランプよりヒラリーよりも高いという異常な状況になっていたんです。

しかも、民主党支持層に限って調べると、67%がオバマの3期目を望んでいる。つまりヒラリーよりもオバマに政権を続けてほしいと。だからオバマ人気はヒラリーにとって追い風にならなかったんです。

今回は「トランプが勝った」から「保守派が勝った」というわけではありません。特に、保護貿易は本来、労働者を守る民主党の政策です。共和党は自由貿易主義です。NAFTAを推進したのも、父ブッシュでした。

ところがヒラリーは今回、NAFTAを否定しませんでした。何故ならNAFTAに実際に調印したのは、ビル・クリントンだったからです。彼が当選直後に批准したのがNAFTAなのです。

またTPPについても、オバマは中国への対抗策として賛成しており、共和党にも自由貿易の立場から賛成者が多かった。民主、共和両方とも否定しにくいNAFTAとTPPに反対したのが、アウトサイダーのサンダースとトランプだったんです。

特に共和党内の予備選中にトランプは、ライバルのジェブ・ブッシュに対して「お前のオヤジがNAFTAを始めたんだ」と攻撃していました。これに対してジェブは共和党のポリシーに忠実に「自由貿易を守る」と言い続けたために、労働者の支持を失ってしまいました。

-トランプは共和党の大統領ですが、これまでの共和党を背負っているわけではないのですね。

町山:まったく背負っていません。共和党と一致するような政策はそれほど多くないですから。例えば、共和党は、ソーシャルセキュリティーと呼ばれる国民年金を縮小しようとしています。しかし、トランプは、「それには一切手を付けない」と言いました。庶民の支持を失うからです。

また、「オバマケアに関しては完全破棄」と共和党は主張していますが、トランプは何度も「改善する」と言っています。つまり公的医療保険制度そのものは残すと主張しているのです。オバマケアのおかげでやっと医療保険に入れた人は全米で2千万人もいるので、彼らから再び保険を取り上げるなら、選挙に勝てないからです。

イデオロギーではなく、有権者を喜ばせる政策ばかり立てることが「ポピュリズム」なので、トランプは「“美味しいとこ取り”ばかりしてるから、政策が矛盾してしまう」と指摘されてきました。それでも、とりあえず美味しいとこ取りをすれば、選挙には勝てるわけです。

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