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キュレーションメディアの課題を噴出したWelq事件 - 河本秀介

 株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)は、先日、自社が提供していた医療キュレーションサービス「Welq」について、不適切な記事が多数掲載されていたとして謝罪しました。

 Welqは、昨年頃にスタートした医療情報の提供を目的とするウェブサイトですが、最近になって掲載された記事の中に医学的根拠が不確かな情報や、著作権上の問題がある記事が多数含まれているという批判が殺到し、サイトの休止に追い込まれていました。先日の会見で、DeNA側は、サイト内に不適切な記事が多数含まれていたことを認め、謝罪しています。

 近年、Welqのように、「キュレーションサービス」を謳うウェブサイト(「キュレーションメディア」)が見られるようになりました。キュレーションメディアは、比較的新しい情報発信の形態ですが、その利便性から急速にインターネットに浸透しています。他方で、キュレーションメディアには、以前から、様々な問題が指摘されています。

 今回の騒動は、今までくすぶっていた問題点が一気に表面化した様相を呈しています。また、Welqの休止を受けて、DeNA社が自社の他のキュレーションメディアも休止するなど、一連の騒動は今後波及する可能性がありそうです。今回は、キュレーションメディアの問題について、特に著作権の面から解説したいと思います。

「キュレーションメディア」とは

 キュレーションメディアは、インターネット上の既存の情報、例えば企業や個人が運営するウェブサイトや掲示版、ブログなどの記事を、一定のテーマに基づき収集し、それを再構成して、別の記事として公開することを目的としたウェブサイトです。

 キュレーションメディアは、「他の記事を要約して記事にする」という性質から「まとめサイト」などと呼ばれることもありますが、むしろ一般的に浸透しているのはこちらの呼び方の方でしょう。

 キュレーションメディアは、程度の差こそあれ、コンテンツの多くの部分を、元となる記事に依存する形で成り立っています。中には他サイトの記事の一部を抜き出して掲載し、数行の解説を付け足したものに、独自のタイトルをつけて公開しているものも少なくありません。
キュレーションメディアは、執筆や取材にはそれほど費用や労力がかかりませんので、低コストでサイトを運営することが可能です。

 他方で、キュレーションメディアの中には、元となる記事の執筆者やサイト管理者に許可を得ることなく転載している場合が数多く含まれていると指摘されています。

 キュレーションメディアに記事を無断転載された側としては、費用と労力を使って執筆した記事を無断で利用された上に、自サイトへのアクセスを奪われることになりかねません。また、場合によっては、アクセス誘導のために意図しないタイトルまで付けられるわけですから、面白くないかもしれません。

 このような関係から、キュレーションメディアには、著作権法上の問題点が常に潜んでいます。

無断転載は著作権侵害にあたる

 例として、あるキュレーションメディアが、あるライターが執筆し、ウェブサイトに公開した記事をコピー&ペーストの形で掲載し、それに解説を加えた別の記事を掲載したとします。このような方法で作られたキュレーションメディアには、著作権法上の問題はないのでしょうか。

 まず、元となった記事は、ふつうは著作権法上の「著作物」にあたると考えられます。そして、ある著作物(元の記事)を創作した者(著作者。ここではライター)は、著作物に対する著作権として、「無断で複製されない」という権利(複製権)を有しています。

 著作者本人や著作者から権利を認められた者(これらの者をまとめて「著作権者」ということにします)が転載を許可していれば問題ないのですが、他人の著作物をコピー&ペーストして自分のウェブサイトに掲載するのは、複製権を侵害しているとして著作権法に抵触することになります。

 また、元記事の一部だけを抜粋するような場合や、記事の表現の一部を改変した場合であっても、「複製」にあたり、著作権侵害とみなされる可能性があるので、注意が必要です。

「引用」が認められる可能性は?

 一方で、他人の著作物であっても、それが「引用」にあたる場合には、正当な目的を有しているなど、一定の条件の下で、著作権者の許諾を受けることなく利用することができるとされています(著作権法32条1項)。

 元記事を無断で利用したキュレーションメディアの管理者は、「これは引用にあたるので著作権法違反にはあたらない」と主張することは可能でしょうか。

 ここで、無許諾の「引用」が認められている背景には、「文化は常に先人の業績を下敷きにして発展するものなので、正当な範囲での利用は認められるべきだ」という考え方があります。第三者が他人の著作物を「引用」を免罪符にして自由気ままに利用することは、著作権法が想定するものではありません。

 著作権法32条1項の条文にも、引用は「引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない」とされており、引用には制限があります。

 他人の著作物の利用が、「正当な範囲内の引用」かどうかの判断は一筋縄ではいかないところがあり、常にグレーゾーンがある状態です。

 この点、正当な引用かどうかは、伝統的にはおおよそ次の基準を満たしているかどうかで判断するとされてきました。

① 利用する側の著作物と、引用される側の著作物が(引用符や枠などで囲むなどの方法で)明瞭に区別して認識できること(明瞭区別性)
② 利用する側の著作物が「主」、引用される側の著作物が「従」の関係にあること(主従関係)
③ 引用元を明確に表示すること(出所明示)

 この基準によると、記事の大部分を他の記事の引用で占められているようなキュレーションメディアであって、他の記事の著作権者に許諾を得ていないような場合は、たとえ、引用であることや引用元を明示していたとしても、主従関係が逆転している(②)といえそうです。よって、「引用」にあたらず、著作権者の許諾を得ていない場合には、著作権法に抵触するといえそうです。

 これに対して昨今では、正当な引用かどうかは、伝統的な基準では判断できないとして、「引用の目的、効果、採録方法、利用の方法などの要素を総合的に判断して決めるべきだ」とする議論もあり、それに沿った裁判例も登場しています。

 新しい判断基準は、まだまだ裁判例も少なく、基準が明確ではありません。しかし、キュレーションメディアが、記事の大部分が他サイトの無許諾の引用で占められており、かつ、そのようなサイトにアクセスを誘導することで広告収入などの経済的な利益を得ようとするような場合、新しい判断基準によっても、「引用にあたらない」と判断される可能性が高いでしょう。

著作物の「ただ乗り」は許されるべきでない

 キュレーションメディアには低コストで運用可能であるという利点があります。利用者としても手っ取り早く情報を得ることができる便利さがあるでしょう。

 しかし、キュレーションメディアが、引用の名の下に、他者が費用と労力をかけて創作した著作物を無断で転載し、いわば他者の著作物にただ乗りする形で利益を得ているのであれば、それはまさに著作権法による規律が及ぶところだと思われます。

 もちろん、キュレーションメディアの中には、著作権者に適切な許諾を得るなど、著作権の問題を意識した運用がされているものも数多くあります。しかし、アクセス目的のために著作権者に無許諾でコンテンツを粗製乱造するメディアも少なくないのが現状です。

 他者の著作物を安易に利用してアクセス目的のコンテンツを作ることは、コンテンツの正確性や適法性の検証もおろそかになりがちです。このことはインターネット全体の質の低下につながりかねません。今回の「Welq」の件は、キュレーションメディアが今まで抱えていた問題点が噴出したもののように見えます。

 Welqの運営会社であるDeNAは、謝罪会見で「著作権への意識や質の担保など、本来メディア事業として行わなければいけないことへの認識が、自身に欠けていた」などと述べました。同社にはこの言葉の通り、高品質な情報提供に期待したいところです。

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