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金正恩氏を悩ます「大阪の血脈」と「最愛の妹」の危機

金正恩氏

2016年の北朝鮮を振り返る(9)

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は8月、北朝鮮で奇妙な話が出回っていると伝えた。中央機関の幹部たちの間で、「金正恩氏はニセモノだ」との考えが広がりつつあるのだという。

北朝鮮は正恩氏の祖父・金日成氏から3代世襲による独裁が続く、事実上の王朝体制だ。そして、世襲を正当化するため、金日成を始祖とする血統を、「白頭の血統」と呼び重んじている。

そして実は、「金正恩ニセモノ説」は、「果たして、金正恩氏は白頭の血統の後継者としてふさわしい人物なのか」という疑問から発しているのである。

きっかけは、2013年の張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長の粛清事件だ。張氏は、正恩氏と血のつながりはないが、彼の妻であり正恩氏の叔母にあたるのが、金慶喜(キム・ギョンヒ)氏。彼女は金日成氏の実の娘であり、存命の人物としては「白頭の血統」で序列ナンバー1といえる人物だ。

ただし、彼女の消息は詳らかでなく、一部には死亡説もある。このことから一時、「金正恩氏は叔母ですら処刑した」という噂が北朝鮮国内でまことしやかに伝わった。

このような一連の出来事の中で、「白頭の血統は、金慶喜氏の代で潰えた」という話まで出回るようになったわけだ。

さらに、金正恩氏の実母が高ヨンヒ氏であることも「ニセモノ説」を構成する要素のひとつだ。

(参考記事:金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈

妹の友人が大量失踪

ある脱北者は、「正恩氏は、白頭の血統ではなく『富士山の血統』だ」と揶揄する。金正恩氏が「白頭の血統」の継承者であることを強調すればするほど、在日朝鮮人である高ヨンヒ氏が実母であることがアキレス腱となりかねないのだ。

このような状況の中では、正恩氏が本当に信じられるのは血を分けた兄妹だけかもしれない。実際、正恩氏の妹の金与正(キム・ヨジョン)氏については、次のような見方もある。

「正恩氏の行事全般は護衛司令部が担当しており、その裏には与正氏がいる。彼女は兄の動線のみならず、随行員の面子まで決めている」(韓国IBK経済研究所のチョ・ボンヒョン副所長)

言われてみればそうだ。かつて、金日成主席の現地指導の行き先などは、金正日総書記が細かく決めていたとされる。そして今、正恩氏に対してそれを出来るのは、おそらく与正氏しかいない。

労働新聞の写真などを見ると、与正氏はいつも明るい笑顔を浮かべており、いかにも仲の良さそうな兄妹だ。また、その自然体の表情は、「話の通じる人物なのではないか」との期待を、一部の北朝鮮ウォッチャーに抱かせていたりもする。

とはいえ彼女が、北朝鮮において「普通の人」でないのは確かだ。昨年5月には、彼女の学生時代の友人らが、些細な言動のために「大量失踪」した事件もあった。

(参考記事:金正恩氏実妹・与正氏の同級生がナゾの集団失踪

そして今年、遂にというべきか、与正氏も制裁指定の対象とすべきとの声が、韓国や米国から出てくるようになった。彼女は、朝鮮労働党中央委員会・宣伝扇動部の副部長の要職にある。宣伝扇動部は、国民の思想や情報の統制を司る部署だ。北朝鮮で外部の情報に触れた人々が、拷問や銃殺を含む厳しい処罰を受けているのは、周知のとおりである。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

与正氏はおそらく、今後も兄の側近として存在感を強めていくものと思われる。そうなるほどに、彼女に対し「人権侵害の責任を問うべき」とする声は強まらざるを得ないだろう。30代と20代の若さで独裁体制に君臨する兄妹は、国の内と外に、容易には逃れられない難問を抱えていると言える。

※デイリーNKジャパンからの転載

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