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ソフトからハードへ:苦悩するシリコンバレー(前編)

 2014年8月、グーグルのドローンによってオーストラリア内陸の牧場に犬のおやつとチョコレートバーが入った箱が届けられた。ドローンを使用した配達サービス実現に向けた2年に及ぶ取り組みの成果だった。

 だがグーグルは後にそのドローンの開発を取りやめ、プロジェクトを仕切り直した。

 グーグルの親会社アルファベットをはじめとするシリコンバレーの企業は、影響力と収益の拡大を目指し、デジタルから物理的な世界に視野を広げつつある。自動車から温度調節器、コンタクトレンズに至るまであらゆる物を革新しようとしているのだ。しかし、米国経済全般でイノベーション(技術革新)に停滞の兆候が見られるように、そうした新領域は慣れ親しんだデジタルの世界に比べ、はるかに対応が難しいことをシリコンバレー企業は思い知らされている。

 アルファベットが開発中の58台の自動運転車は公道実験の走行距離が220万マイル(約350万キロ)に達したものの、依然として雪道では不安定な上、通常の走りも交通に支障をきたしかねないほど慎重だ。遠隔地にインターネットを配備するための高高度気球も時に墜落して壊れることがあり、エンジニアを困惑させている。またインタラクティブジャケットは、センサーが埋め込まれた糸が自動織機で切れてしまうなどの問題により計画が1年延期された。さらに、貨物飛行船や垂直農場、海水燃料化などのプロジェクトは技術的な障害やコストがかかり過ぎるなどの理由で断念している。

 こうした問題に直面しているのはアルファベットだけではない。フェイスブックは、レーザーを介してインターネット接続を実現するための太陽光発電式ドローンの実用化に苦戦している。スカイプの共同創業者が率いるスターシップ・テクノロジーズは配達ロボットの開発に取り組んでいるが、現行モデルは道路の横断に人間の助けが必要だ。

複雑で予測不能な現実世界

 ソフトウエアの場合、プログラマーが環境をコントロールできる。だが現実の世界は複雑で予測不能だ。最も処理能力の高いコンピューターでさえ、あらゆる可能性に備えることはできない。その上、公衆の安全や規制という負担もある。IT(情報技術)業界がデジタル世界での成功を物理的な世界で再現できないのも無理はない。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)でテクノロジーが社会に与える影響について研究するアンドリュー・マカフィー教授は、シリコンバレーの物理的世界への参入は「はるかに長く、ゆっくりとしたプロセスになるだろう。特に次の2、3段階はそうだ」と述べた。

 アルファベットの現・元従業員によると、グーグルの共同創業者であるラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏は従業員に「ビットだけでなくアトム(原子)にも」注力するようにと話している。つまり、コンピューターコードだけでなく、物理的な分野にもっと目を向けろということだ。

 そうした発想でグーグルは2010年、研究部門「X」を立ち上げた。Xでは「ムーンショット(月探査ロケットの打ち上げ)」と呼ばれる、最長10年かかる壮大なプロジェクトに取り組んでいる。その1つが、荷物輸送用ドローンを開発する「プロジェクト・ウイング」で、約85人のスタッフが携わっている。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は現・元従業へのインタビューを通じ、その取り組みを詳しく探った。

2つの性能併せ持つ試作機

 アルファベットの幹部にとって、物流の次のステージはドローンによる配達サービスだ。19世紀後期に馬を用いて郵便速達サービスを実現した「ポニー・エクスプレス」のいわば21世紀版だ。グーグルは2012年、配達用ドローンの開発チームを結成し、その責任者にMITでロボット学を教えるニック・ロイ氏を起用した。ロイ氏は2人の大学院生を引き連れてきた。2人はMITの駐車場を自動飛行できる固定翼型ドローンを開発していた。

 グーグルは気付いていなかったが、アマゾン・ドット・コムは当時すでに独自の配達用ドローンを開発していた。それが公表されたのは2013年だ。

 Xは当初、心臓発作を起こした人に除細動器を運ぶ手段としてドローンを活用しようと考えていた。しかし、それでは救急車とさほど変わらないことに気づき、そのアイデアは断念した。元従業員は次のように話す。「それがうまく行かなかった場合、(ニュースの見出しで)こんな風に言われてしまうと思った。グーグルのドローン、遅延で年配男性を死なす」

 そこで、ドローンの用途を食料品から電子機器、医薬品に至るまでさまざまな小包の配達へとシフトさせ、物流分野でのグーグルの役割を強化しようと考えた。物流分野では、グーグルは既にそのころ商品の宅配サービスを始めていた。

 2012年に市販されていた数少ないドローンはいずれも回転翼が4枚付いた「クアッドコプター」で、垂直に離陸し、空中停止できるタイプのものだった。しかし、コプターは効率が悪かった。バッテリーの持ち時間はわずか20分で、荷物を運んでいるときはさらに短かった。それに代わる選択肢が固定翼型ドローンだった。しかし、固定翼タイプは飛行距離は長いが、空中停止できず、離着陸には滑走路も必要だ。

 ロイ氏は両方の性能を併せ持つドローンを求めていた。つまり、コプターのように離陸し、飛行機のように滑空するタイプだ。そこで彼らが行き着いたのが、いわゆる「テールシッター型」ドローンだった。機体尾部を下にした縦置き状態からプロペラを使って垂直に離陸し、空中で向きを変えて水平に滑空するグライダーだ。

 最終的に白い発泡材とプラスチック製の幅約3.5フィート(約1.06メートル)、重さ18ポンド(約8.2キロ)のグライダーが完成した。だがそれまでには試作機を何度も作り直す必要があった。

 どのバージョンも何らかの問題を伴っていた。飛行はソフトウエアのシミュレーションでは成功しても、現実世界ではうまく行かなかった。飛行経路を正確にたどってくれなかったり、尾部を下にして着陸させようとしてもひっくり返ってしまったり、空中で向きを変えたときにアンテナが方向を失ってしまったりした。

 グーグルのドローンに部品を供給している3Dロボティクスのクリス・アンダーソン最高経営責任者(CEO)は、ドローンは「先割れスプーン問題に悩まされた。つまり、2つのことを実現しようとすると、両方ともうまく行かなくなるという事態だ」と話す。

 ソフトウエアのテストは単純だ。ボタン1つで変更をシミュレーションでき、欠陥を特定し、修正できる。グーグルはソフトウエアを広範にテストすることで知られる。絶えず検索アルゴリズムを修正し、ユーザーにとって最も適切な結果が表示されるよう調整している。

 ハードウエアはもっと複雑だ。試作機の設計、製作、飛行、破壊、再製作、再テストというプロセスを経なければならない。小さな部品1つ、例えば「エレボン」と呼ばれる動翼をちょっと改良するだけでも数週間かかるとロイ氏は話す。

By JACK NICAS

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