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東南アジアの自動車流通革命 - 宮崎学

 早いもので、2016年が終わりに近づいている。今年も数多くのスタートアップに会ってきたが、ASEAN諸国の中で、最もダイナミズムを感じる領域、それが自動車の流通市場である。中でも、流通市場の根幹を支える自動車(主に中古車)の売買を行うマーケットプレイス、およびその購買を支えるオートローンの領域で特に変革を感じた。自動車流通のプレイヤー概観と合わせて、ユニークなビジネスモデルでチャレンジする2つの事例を紹介したい。

東南アジアの人にとって、自動車やモーターバイクは生活必需品 

インドネシアの渋滞

 まず、シンガポールを除く各国で、自動車・モーターバイクは「絶対的な」生活必需品である。公共交通機関が発達していないために、皆安定した職(所得)を得ると、真っ先に買うものはモーターバイクか自動車である。原付バイクは単価が20万円くらいと比較的手が出しやすいため、いわゆる人口の大半を占める月給3-4万円の層でも簡単にローンを組める。インドネシアだけで1億台が走り、域内合計で2億台以上走っていると推察される巨大マーケットである。インドネシアやタイに行けば、これは肌で感じて頂けるだろう。

 一方で、自動車は極めて高級品である。一般的に、新車を購入する場合は、頭金が購入価格の(国によって異なるが)3割程度必要とされることが多く、多くの人はあきらめざるを得ない。また、ローンの審査も厳しく、マレーシアの新車ディーラーの方の話によれば、通過率は5割以下とのことだ。恐らくインドネシアやタイではさらに低いのだろう。それでも、自動車を持つことは現地の人にとってあこがれであり、生活水準を劇的に向上させるため、皆こぞって購入する。結果として、年間の新車販売台数は300万台、日本の約6割まで成長するに至った。

 このように、生活必需品の自動車やモーターバイク、新車が買えない人はもちろん中古車を買いにいくわけだが、中古車の流通マーケットは、価格や査定の質という意味でまだまだ整備されていない。加えて、購入するほとんどの人(自動車の場合は8割ともいわれる)がローンを組むわけだが、審査率が厳しいと販売台数も伸びていかない。厳しくなる審査の理由の一つに、買い手の信用情報がいまだ整備されていないから、という点が挙げられる。では、スタートアップはどのようにこれらの問題を解決しようとしているのか――。

自動車流通マーケットプレイスは買取+オークション型へ

 まずは中古車販売のマーケットプレイスを見てみよう。従来、中古車取引の成り立ちは友人や家族経由で行われる個人売買から発生する。聞くところによれば、現在でも市場全体の10-20%は個人で行われているそうだ。やがて、コミュニティの中でこの売買を生業する人=中古車ディーラーが登場する。一般的には、10-20台の自動車を仕入れ、電話やWhatsAPPを使って近所の人に販売する。しかしながら、どれも車の価値を明確に把握できる人はおらず、個人の売り手からすれば、複数のディーラーを周る必要があり、かつその提示価格が本当に適正かどうか、価格が不透明性なままであった。

オークションハウスの風景(タイ)

 では、何が中古車のマーケットプライスを決めるかというと、いわゆるディーラー間での中古車取引、いわゆるオークションハウスで価格が決まってくる。このオークションビジネスは、設備投資が伴うものの、純利益率50%を叩きだす高収益ビジネスである。日本国内では、USSがシェアの3割を持ち、企業価値5000億円を誇っている。そして、オークション市場がある程度発達すると、年式や車のコンディションで価格の感覚が見えてくるため、そこから自分の利益を差し引いて、ユーザーから自動車を買い取ることを専門に行う「買取業者」が出てくる。この画期的なビジネスモデルは日本のIDOM(旧ガリバーインターナショナル)が世界に先駆けて行ったことは有名である。東南アジアの主要3カ国(タイ・インドネシア・マレーシア)では、正にこの買取業者がようやく出始めた段階であると言っていい。

 さて、この複雑な自動車流通領域で革命をおこそうとしているのが、弊社の投資先でもあるマレーシア拠点のCarsomeである。ユニークなところは、ガリバーとUSS、両側面を持っている点だ。つまり、自動車を売る個人がサイトで申し込むと、社内の査定人が自動車を即座に査定、その情報を端末に入力する。面白いのは、査定終了後、端末に入力された情報が各ディーラーに通知され、オークションが直ちにスタートすることである。3日程度の期間で落札価格が決まり、落札したディーラーが車を引きとる仕組みである。通常週に一回しか行われないオークションハウスとは異なり、常にオークションが行われ、まだ従来のオークションハウスのように大規模な設備投資がいらないことが彼らの強みだ。

 これまで、ネットではいわゆるクラシファイドしかなかった東南アジアの中古車マーケットに、買取+オークションというビジネスモデルで新しい風穴を開けようとしている。自動車流通の最上流をつかみ、取引が行われれば行われるほど市場価格のデータが蓄積され、売り手に対し、手軽に早く、かつ満足いく価格で自動車を販売できるプラットフォームの構築を目指している。

IoTを使ってPre-paid式レンタカーを実現するスタートアップ

 次に、自動車ローンの切り口から見てみよう。ここで紹介したいのは、フィリピンでPre-paid式のレンタルサービスを提供するGlobal Mobility Service(以下GMS)である。なんと、日本の会社だ。フィリピンでは、自動車の保有は最高級品であり、多くがモータバイクである。人々の移動もモーターバイクにサイドカーをつけた三輪タクシーであるTricycle(トライシクル)や、ジプシーでの移動が主流だ。フィリピンでは、ローンを組めないため、モーターバイクさえ買えない層も多い。そうした日銭を稼ぐ層に対して、GMSはPre-paid式のレンタルサービスを展開している。

トライシクル(フィリピン)

 仕組みとしては、まずGMSまたはGMS提携ファイナンス会社がバイクとサイドカーを購入する。そして、彼らが持つユニークな技術であるIoTデバイスを備えつける。このIoTによって、自動車の移動を把握できるだけではなく、運転制御を遠隔で行うことができる点が強みだ。このIoT付きトライシクルを、日銭稼ぎをするドライバーに貸し出す。ドライバーは、いわゆる「TOP-UP」というデポジットをコンビニなどで行うと、1週間〜1ヶ月間自動車を操作することができる。8日目、または31日目に支払いをしなければ、備え付けられたデバイスが自動車のエンジンを制御し、動かなくなる。動かないと彼らは日銭稼ぎができないため、彼らは生活に困ってしまう、したがってきちんとTOP-UPをし続ける、というわけだ。トライシクルは、フィリピン国内で350万台あるというから、国内だけでもかなり大きなマーケットだ。

 面白い点は、このIoTデバイスから、様々なデータを取得することができる点である。一人のドライバーが、どのルートでどれだけ稼ぎを出しているかもすべて把握できるため、新たな自動車ローンの与信モデルに組み込むことができそうだ。運転の仕方から事故率などのデータが仮にとれれば、保険ビジネスへの応用もできそうである。物理的に自動車の動きを制御してしまうというパワーから、ローンの支払いを促すことができる。結果的にこれは自動車の審査率を高める可能性を秘め、自動車流通をより活性化させることができる。

 以上、今回の記事ではマーケットプレイスとローンのプレイヤーのトレンドをお伝えした。最後に、自動車大国である日本が、ことASEAN各国との相性が良く、特に日系プレイヤーが進出して成功する可能性が高いのではないか、という点を述べておきたい。どこの国に言っても、TOYOTA・HONDA・MITSUBISHIをはじめとした日本車は大人気である。丈夫で壊れないから、どんなに走っても価値が落ちにくい。自動車ローンや保険のビジネスには、総合商社や日本の金融機関がこぞって進出している。しかしながら、まだまだ自動車流通の根幹であるマーケットプレイスや信用情報の整備には課題が山積みである。ここに、GMSのような日本人がテクノロジーを持ってしてイノベーションを起こす日本人起業家がより多く現れることを期待したい。

※参考までに、より深く自動車流通の事情を知りたい方向けに、レスポンスで掲載している川崎大輔さんのASEAN流通大陸をご覧頂きたい。国別の最新情報がまとまっており、現地の状況をより深く理解することができる。

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