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安倍官邸の経済優先外交は頓挫の連続 -経産省・経団連に振り回される悪癖は改めないとならず

<思いがけない英国のEU離脱とトランプ勝利>
 日本の社会保障制度が、アメリカのTPPを奇貨とした国民健康保険制度の狙い撃ちにより、破綻をきたすかもしれないことは随所で述べてきた。
 しかし、その前に地球儀俯瞰外交と銘打って展開してきた安倍外交が綻びを露にし出した。安倍政権の責任ではないが、まずはイギリスのEUからの離脱がある。世界はまさかイギリスがいくら難民受け入れが嫌だといっても、グローバリゼーションに背を向けるとは思わなかった。今回のトランプ勝利と同じく、残留を予測したイギリスの世論調査も当てにならなかったのである。この間違いは、何事も高飛車にやり出したキャメロン首相の甘い見通しに端を発する。EU離脱を国民投票にかけると宣言してしまったのである。この傲慢な姿勢が安倍総理にダブって見えてくる。

<功を焦ってクリントン詣でのフライング>
 安倍外交の見苦しい失態の一つは、9月の国連総会の折、クリントン候補とのみ会談していたことである。いかなる国も他国の政治への口出しは御法度である。国政選挙には中立を保つのが常識である。それを熾烈な大統領選を繰り広げている中で片方だけと会談するというのは、異様に映る。安倍総理は当時のマスメディアのクリントン勝利確実予測を鵜呑みにしてしまったのだろう。
 10月17日のTPP特別委員会では、すぐ退陣するオバマ大統領に合わせてTPPになど同調せず、TPP反対だという2人の大統領候補に合わせてTPPの承認を見送るべきだと質した。安倍総理は2020年までやって東京オリンピックを自ら総理として迎えたいというなら、同じく2020年まで大統領を務める者に合わせないでどうするのか。例によって、まさかオバマ大統領と一緒に退陣するのか、と嫌みを付け加えた。

<信頼関係構築直後のTPP離脱表明>
 11月17日には、世界の首脳の中でたった1人、まだ現職はオバマ大統領だというのに、トランプタワーでの安倍・トランプ会談となった。いくら9月のクリントンへの肩入れの穴埋めをしようと焦るにしてもオバマ政権がカンカンになって怒った。外交上の非礼である。それでももう過去には囚われずに新大統領との関係を築いたほうがいいと即断即決したというなら、それも仕方なかろう。
 しかし、ここでも腰が定まらない。2人の親密な会談後、信頼関係ができたとご満悦な安倍総理を尻目に、トランプは21日ビデオで大統領就任の日にTPPから離脱する、と明言した。2人の会談はTPP等の主要課題の腹合わせについては、何の意味もなかったことが明らかとなった。

<意地と見栄の支離滅裂外交>
 ベトナムとマレーシアは国会の手続きを中止した。逆にNZは、せめてNZぐらいが承認手続きを終了させなければTPPは死んでしまう、と危機感を募らせ、61対57の僅差で唐突に受け入れ体制を整えた。ところがTPP推進してきたキー首相が突然辞任してここでもTPPは漂流状態になった。
 そして問題の日本である。NZと同じくTPP承認手続きを終了し、アメリカに自由貿易の大切さを訴えていく、と参議院の審議を継続中である。一体何のための慣例を無視したpresident elect(次期大統領)トランプとの会談だったのだろうか。昔の恋人(?)オバマに白い眼で見られ、新しい相手にコケにされているのである。絶対に再交渉しないと言い続けたにもかかわらず、これで二国間FTA交渉などにしゃあしゃあと応じるとしたら、それこそ屈辱である。

<アメリカに追随する一方で敵対する不思議>
 安倍総理は、TPPは経済だけでなく、対中国の安全保障上重要な意味を持つと言い出している。前々からTPPの賛成者がしたり顔でのたまわっていたことである。しかし、その対中外交でも、遠いヨーロッパから英仏独等が皆出資国となっているのに、アメリカの説得に負けてAIIB(アジアインフラ投資銀行)に入らなかった。TPPでもAIIBでも、アメリカのいう対中国包囲網に盲目的に従い、世界の動きを見誤ったのである。
 ところが、これだけアメリカに追随しておきながら、TPPを離脱するというトランプにTPPを承認してケンカを売っているのである。やることなすこと矛盾だらけである。

<国際問題にならないのが不思議な萩生田失言>
 我々のTPP強行採決への抗議を「田舎プロレス」と称した萩生田官房副長官は、安倍総理をして「お坊っちゃまにしては不良との付き合い方が上手い」と、ゴマをすっている。一国の大統領にならんとする者を不良呼ばわりしているのである。私は、国際的に糾弾されても仕方のない失言だと思っている。外交上の礼儀をわきまえていないのだ。
 アメリカ・中国・ロシアの間で右往左往し、ひたすら「金だけ、今だけ、自国だけ」で立ち回る日本の国際的信用はガタ落ちである。

<環境そっちのけで世界から失笑>
 それが最も顕著なのは環境分野である。環境汚染もなんのその、まだ依然として発展途上国だと経済成長だけを追い求めていた中国が、16年9月2日、オバマ・習近平会談でパリ協定への参加を決定した。PM2.5も深刻で、北京では風のない日はマスクが必要になるほど大気汚染がひどくなったという事情もあるが、中国は明らかに「責任ある大国」を指向し始めたのである。それを日本は、TPPにことかけて、パリ協定の承認が発効に間に合わなかった。
1997年、京都会議(COP3)を主催して、不十分ながら地球温暖化防止策の第一歩を主導した、かつての日本の面影は消え失せてしまった。GDPを100兆円増やすほうが気になり、CO2の排出を抑えて地球環境を保全することは二の次になっているのだ。

<ベトナムの賢明な原発断念>
 経済優先の前のめりの一つに原発輸出がある。私は政権与党の12年、ベトナムとヨルダンとの原子力協定にも反対した。大事故を起こし、その後始末もせずに輸出することなど到底考えられないからだ。これにより私は全役職を剥奪(?)されている。
 東南アジア最初の原発となるはずだったが、資金不足を理由に断念した。しかし、有害物質の垂れ流しによる魚の大量死にベトネム社会が衝撃を受け、ベトナム国民が放射能汚染にも恐れをなしたからである。経産省や経団連のイケイケドンドンスタイルは、国際的にはもう通用しなくなっているのは明らかである。
ところが、核拡散の可能性が高いインドとも原子力協定を結ばんとしている。唯一の被爆国の上に大原発事故も経験したのに、平然と「死の灰(放射能汚染)の商人」にならんとしているのだ。パリ協定の遅れといい、なり振り構わぬ原発輸出といい、日本は世界にモラルを問われている。この辺りで、安倍総理にも目を覚ましてもらわないとならない。

<間違いの元凶・官邸の経産官僚>
 安倍総理は若くして小泉総理に幹事長に抜擢され、政界の階段を駆け上がり、官房長官以外に大臣を経験せず、当選5回で総理になってしまった。つまり、○○省のトップとして1つの分野の政治をこなす経験をしていない。
 このため、私の推測だが、祖父・岸信介を尊敬するあまり、岸の在籍した商工省、つまり今の経産省を我が出身母体のごとく錯覚し、そこに引っ張られているようにみえる。総理は全省庁を束ね、日本の国益を追求しなければならないのに、TPPに固執し、パリ協定を後回しにして原発輸出を突出させ、経産省や経済界の意向に沿うようなことばかりに気をとられている。そして次々と見込み違いをしている。
一連の安倍経済外交の完敗は、官邸に巣食う経産官僚の過剰介入に起因していると思われる面がある。
元経産省の今井尚哉総理秘書官(政務)、長谷川榮一広報官が官邸入りするなど、完全に復活したお友達人事は、政界だけにとどまらず、官邸にまで広まっており、経産省に汚染された官邸となっている。

<正当な外交に戻るべし>
北朝鮮の拉致被害者問題は胸のバッジだけでほったらかしにしておきながら、南スーダンの駆け付け警護にはしつこくこだわるなど、相変わらずバランスを欠く外交のオンパレードである。どこかで歯車が狂い始めている。
 安倍総理は今、12月15日のプーチン大統領との会談で頭がいっぱいだろうが、ロシアもそれほど柔軟な対応をしてはくれまい。ただ、2013年10月、日本の総理として10年ぶりにモスクワを訪れた安倍総理は、父・安倍晋太郎外相が取り組み始めた北方領土返還交渉には並々ならぬ決意で臨んでいるに違いない。プーチンの狙いは「東方シフト」(ヨーロッパからアジアに目を向ける)の一環として、北方領土の譲歩の見返りに日本の経済力がある。 
今度は、経産省や経団連の尻を叩いて日ロ経済協力を推進し、対中ガードにも使い、アメリカ一辺倒から離脱したらよい。
 私は、8日後の安倍政権の北方領土返還交渉を心底より応援し、成功を祈っている。

【このブログを書いているところに、安倍総理の年末の真珠湾訪問とオバマ会談が報じられた。これで、ミスだらけの外交の失地を回復してほしいものだ。】

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