記事

【強いドルの波紋】

The Economistの最新号の表紙は、マッチョなジョージ・ワシントン。いわばドルの顔です。タイトルは The mighty dollar(力強いドル)。巻頭のWhy a strengthening dollar is bad for the world economy (ドル高が世界経済に悪いわけ)はざっくりこんな感じです(全文の翻訳ではありません)。

トランプ次期大統領は「強いアメリカ」が大好きですが、「強いドルはアメリカの国益である」の呪文を唱えるのかしら。



世界で最も重要な通貨が肩慣らしを始めている。ドナルド・トランプの大統領選挙勝利のあとの3週間で、ドル相場は先進国通貨のバスケットに対して急激に上昇した。 2011年のドル安水準に対して40 %も上がっている。新興国通貨に対しても上がっている。

中国の人民元は 2008年以来の安値。インドのルピーは、自国の理由もあるが、かつてない水準まで下落。ほかのアジア通貨も1997 年から 1998年の通貨危機以来の水準まで落ちている。

ドル相場は、ここ数年、上昇していた。しかし、直近の急騰は、アメリカの経済政策のポリシーミックスの見通しの変化によるものだ(prospect of a shift in the economic-policy mix in America) 。

投資家は、トランプが掲げる大型減税や大規模なインフラ投資を期待している。財政拡大により、中央銀行FRBがインフレ阻止のために政策金利を引き上げざるを得ない。

アメリカの 10年もの国債の利回りは大統領選挙当日の1.7%から 2.3%(その後さらに上昇)に一気に上がった。高い利回りは資本を惹きつける磁石だ。

世界最大の経済大国=アメリカの成長は歓迎すべきものに聞こえる。レーガン大統領のころ、財政赤字の拡大と金利高によりドルが急騰した。当時と比べると、世界経済に占めるアメリカ経済の比重は下がっているが、世界的な金融のやりとりが膨張した。ドルの存在感は高まった (The greenback has become more pivotal) 。

アメリカの国外の取引されるドルは昨今、急増した。新興国も裕福になり、金融に対して貪欲になるにつれ、ドルの需要が高まる。金融危機(=日本で言うところのリーマンショック)以降、アメリカの金利が低いことから、年金基金はより高い金利を求めて他国を物色

ドル建ての国債を買い求めて、モザンビークやザンビアのような非伝統的な国にまで目を向けている。こうした国債発行国は、ドル建での借り入れを喜んで増やした。しかし、 BIS=国際決済銀行によると、こうしたドル建ての債務は10 兆ドル(約 1100兆円)にのぼり、このうち3分の 1は新興国の債務だ。

ドル高が進むと、こうした債務の利払いも高くなる。強いドルの痛みはこうした直接的な影響だけでない。安い金利による借金の結果、新興国の信用取引を増大させた。資本流入は地元の資産価格を上昇させ、それがさらなる借り入れを促進する。

ドル高はこの流れを逆流させることになる。ドル高が進むにつれて、債務国は利払いが増えることからキャッシュを切り詰める。資本が流出するにつれて、資産価格が下がる。つまり、アメリカ以外の国の借り入れの条件は、ドルの運命と一体となっているのだ。

ドルに対して通貨安となっているのがブラジル、チリ、トルコなどドル債務をたくさん抱える新興国だというのは偶然ではない。

ドル高はアメリカにとっても危険である。ドル高は輸出に打撃で、輸入品が割安になるため貿易赤字の拡大につながる。レーガン時代は、この貿易赤字を背景に保護貿易主義につながった。

今回は、トランプ氏の言動でそもそも保護主義的な機運は高まっている。貿易赤字が膨らめば、トランプ氏は中国やメキシコに対して報復関税を課す可能性が高まる。

当然だが、問題はドル相場がこのあとどうなるか、だ。多くの投資家は楽観的だ。FRBは、新興国経済が悪化すると利上げを見送る傾向がある。とは言え、通貨は実態経済とかけ離れて取引されるがある。

さらに、ドルに代わる通貨も見当たらない。ユーロも人民元も問題を抱えている。 FRBは、今月金融政策を決める公開市場委員会を開くが、アメリカ経済が上向く中で、今まで以上に金融引き締めを先送りするのは難しくなるだろう。

国際協調はあり得るのか?ドル安に誘導するための1985年のプラザ合意のような新たな協調の話が出ているが、見当違いだろう。日本も欧州も物価安に苦しんでおり、自国通貨の上昇は困るし、そのための金融政策の引き締めも困るだろう。

アメリカの株式市場は、力強い経済見通しをもとに活発になっている。それは傲慢だろう。世界経済は弱い。ドル高はそれをさらに弱くする(The global economy is weak and the dollar’s muscle will enfeeble it further) 。

あわせて読みたい

「」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    太川の会見で文春砲の価値は暴落

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    居酒屋通う高校生への批判に疑問

    赤木智弘

  3. 3

    藤井市長の判決は政治に悪影響

    ビデオニュース・ドットコム

  4. 4

    がん判定でAIが医師に「圧勝」

    市川衛

  5. 5

    「獺祭」社長 生出演で悲痛激白

    AbemaTIMES

  6. 6

    大相撲の内輪もめが長引くワケ

    文春オンライン

  7. 7

    外食産業の鬼才「中国人見習え」

    AbemaTIMES

  8. 8

    イオンに忍び寄るAmazonの脅威

    NEWSポストセブン

  9. 9

    休むと会社が困る…は自意識過剰

    かさこ

  10. 10

    堀江氏 タクシー乗車拒否に怒り

    女性自身

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。