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アメリカがポリコレと共に投げ捨てたもの

ドナルド・トランプ氏が選挙運動中にこき下ろしたポリコレこと「ポリティカル・コレクトネス」、選挙直後には日本でもずいぶん話題になったようです。「ポリコレ棒」なんて言う言葉まで飛び出して、ネット上で随分熱く議論されていました。

日本で繰り広げられたポリコレ議論は、主に「言葉の使い方」に終始していたように見受けられますが、実はアメリカにおけるポリコレは、表現の問題だけにのみならず、例えば会社や学校の政府の方針や政策など、ありとあらゆるところに深く及んでいるある種の、思想、あるいは価値観のようなものなのです。

そしてこのポリコレは、ここ数十年のアメリカの繁栄に大きく関与してきました。

求人面接で訊いてはいけないこと

例えば日本では「35歳未満の男性を募集中!」などと言った求人広告を目にしますが、これ、アメリカだったら完全にNGです。理由は簡単、年齢差別だからです。同様に「未婚女性のみ募集」もダメですし、「白人男性のみ募集」もダメです。「キリスト教徒のみ募集」とかもダメです。

しかし、「プログラミングの経験が5年以上ある方」ならば全然オッケーです。「公認会計士の資格を持ち、実務経験が3年以上の方」とかね。こういうのは全く構いません。これが「政治的な正しさ」というわけなのです。

さて、実際にこういう公正中立な広告を出して、応募がワンサカ来たとしましょう。アメリカの標準的なレジメには、志望動機、学歴、そして実務経験以外には余計なことが書いてありません。顔写真も添付されていませんし、生年月日や性別や未婚か既婚かさえも記載されていないのが普通です。ですから面接の当日まで、どんな人が来るのか皆目見当がつかないことも多々あります。

目の前に現れる候補者は黒人かもしれませんし、白人かもしれません。あるいはアジア系かも知れないし、ラテン系かも知れません。更に、未婚の方かもしれませんし、結婚していて3人子持ちの方かもしれません。イスラム教の信者かもしれませんし、仏教とかもしれません。

そして面接の場で、特に気を使わなければならいないのが「ポリコレ」なのです。

例えば、残業や休日出勤が可能なのか訊きたいとします。その際にはストレートに、「忙しい時には残業や休日出勤がかなり発生しますが、出勤可能ですか?」と尋ねればよいのです。間違っても、「お子さんはいますか?お迎えに早く帰る必要はありますか?」などと訊いてはいけません。お子さんを迎えに行くか、託児所に預ける時間を伸ばすのかは候補者の個人的な問題だからです。

あるいは募集している仕事が体力的にかなりきつい仕事だとします。応募者はどう見ても自分の父親ほどの年齢で、雇う側としては思わず「失礼ですが、お年はお幾つですか?」などと訊きたくなるところです。しかし、これもNGです。こういう場合には「この仕事は荷物の搬入がメインで、非常に重いものを頻繁に運ぶ必要があります。体力的に問題ありませんか?」などと言ったふうに尋ねればよいのです。

面接の場で聞いていいのは、あくまで職務への適性に直接関係ある質問だけです。信条も、宗教も、年齢も、結婚の有無も候補者のパフォーマンスとは関係ありません。唯一の例外は、例えば「身長180センチ以上の男性モデル募集」などのように、仕事の内容が特定の性や身体的な特徴を必要条件とする場合のみです。面接でうっかり子供の有無などを尋ね、就職差別で訴えられた企業も少なくありません。

ポリコレがもたらした世界

こうして80年代に萌芽したポリティカル・コレクトネスは、年を追うことに普遍的な価値観としてアメリカの文化に組み込まれて行ったのです。その結果、アメリカという国は外国人やマイノリティにとって非常に働きやすい場所になりました。特に思い切り左に振れているシリコンバレーなどはその典型でしょう。

そしてこの地には、全米、いや、世界中から優秀な人材がなだれ込んできたのです。

過去20年間にシリコンバレーで起業した全ベンチャー企業の半数以上は、移民が創業者になっていると言われています。グーグルのセルゲイ・ブリンは旧ソビエト、ホットメールのサビア・バティアはインド、ヤフーのジェリー・ヤンは台湾、イーベイのピエール・オミダイアはフランス、テスラのイーロン・マスクは南アフリカ生まれと、例をあげればきりがありません。

下はアップルの多様性に関するビデオ。アップルに限らず、シリコンバレーの企業はどこもこのような感じです。



そう、ポリティカル・コレクトネスはやっぱり大切なのです。

ポリコレ瓦解を喜ぶ人たち

ところが今回トランプはこのポリティカル・コレクトネスをこき下ろし、窓から投げ捨ててしまいました。これを見て、今までポリコレのせいで割りを食っていた(と感じてる)人たちは大喜びです。しかし結局のところ、ポリコレ放棄はアメリカに弱体化しかもたらさないでしょう。出目や肌の色や信条で差別されるところでわざわざビジネスを始めたり、就職したりするメリットなど何もないからです。



現にシリコンバレーに住む私の友人たちの中にも、黙って荷物をまとめる人たちが出てきました。911の直後にアメリカ中で外国人排斥熱が高まった時にも随分多くのエンジニアたちが黙って静かに出身国へと帰って行きましたが、今回も同じことが更に大きな規模で起きるのではないかと思います。

自由、平等と言った価値観を大切にしない国に、魅力的な人材は集まりません。逆に言えば、今ここでそうした価値観にしっかりと踏みとどまることができる国は、優秀な企業や人材を集めることができる可能性が大きく高まるのではないでしょうか?

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