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12月4日はEU存続をかけた今年最大のリスクイベントか

トランプ氏勝利の報は世界に大きな衝撃を持って迎えられましたが、もうすぐイタリアとオーストリアで行われる国民投票と大統領選挙の結果も、今後を占う重大なイベントとなりそうです。

米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利したことで、ブレグジット以降、世界で顕在化しつつあった反グローバリズム・保護主義・反移民の潮流が確定的となり、この流れは無視できない状況になってきました。12月4日にはイタリアで憲法改正をめぐる国民投票とオーストリア大統領選挙が控えており、ブレグジットや米国大統領選と並び、場合によってはEUの結束が崩壊しかねない、今年最後にして最大のリスクイベントになる可能性があります。

イタリアの憲法改正を巡る国民投票

 2014年2月に発足したレンツィ政権はイタリアの経済再建と政治改革を進め、選挙法の改正、議会上院の権限と定数の削減による歳費削減、労働市場改革などの結果を出しつつありました。その一方で、2016年6月の統一地方選挙において、野党「五つ星運動(M5S)」の躍進を許す結果となりました。今回、国民投票に付されるのは議会上院の権限の縮小であり、レンツィ政権はこの議案を議会で通過させたものの3分の2の多数に満たなかったため、憲法改正の手続きにのっとり国民投票を実施することになりました。レンツィ首相はこの国民投票に政治生命をかけており、国民投票で憲法改正が否決された場合は首相を辞任することを表明したこともあります。国民投票は事実上、レンツィ首相に対する信任投票の様相となっています。

 図1は憲法改正に関するイタリアの世論調査です。今年の夏以降は反対が賛成を逆転しており、その差は拡大しつつあります。米国大統領選挙後に行われた11月14日発表の世論調査は注目でしたが、反対がついに4割に到達しそうな勢いとなっており、レンツィ首相にとっては厳しい結果になるかもしれません。

 また、11月28日の報道によると政党支持率はレンツィ首相が書記長(党首)の「民主党(PD)」が31.0%、野党「五つ星運動」で29.9%、野党「北部同盟(LN)」が13.1%、ベルルスコーニ氏が率いる野党「フォルツァ・イタリア(FI)」が11.0%となっています。五つ星運動は反緊縮財政や反EU、さらに欧州各国でも問題となっている移民を排斥することを主張しています。党勢を示す一例として、6月19日に行われた首都ローマの市長選では五つ星運動のビルジニア・ラッジ氏が同市史上初の女性市長となったことは日本でも報じられました。

市場への影響

 図1の世論調査やブレグジット、トランプ氏の当選を踏まえると、イタリアの憲法改正は国民投票で否決される可能性が高まっていると考えられます。レンツィ首相が辞任することでイタリアの改革が止まることに加えて、五つ星運動が政権を取ることになれば、英国に続いてイタリアにおいてもEU離脱が現実味を帯びてくることになります。

 市場への影響も考えてみましょう。図2は主要各国の長期金利の推移です。EU圏では欧州中央銀行(ECB)による量的緩和策により過去数年は金利の低下傾向が続きましたが、直近ではインフレ率の上昇もあってECBによる量的緩和策の段階的な終焉、いわゆるテーパリングが意識され始めたことで長期国債の利回りが上昇し始めています。イタリア10年国債の利回りはドイツ10年国債の利回りに比べて上昇が急ですが、この背景には国民投票に対する不透明感に加えて、イタリアの銀行の経営悪化問題などから、投資家によるイタリア国債の売りが増えて長期国債の利回りが上昇したものと考えられます。

 国民投票で憲法改正に反対という結果になれば、イタリアに対する信認低下でいっそうイタリア国債が売られることになるでしょう。さらにEU離脱の動きが現実化する場合にはEUの存在意義が問われることになり、トランプ政権下の米国が対外不干渉主義を採ると、最悪の場合にはEU解体というシナリオも考える必要があるかもしれません。ユーロにも大きな下落圧力がかかると思われます。

同日のオーストリアの大統領選挙にも注目

 イタリアで国民投票が行われる同日、オーストリアでは大統領選挙があります。オーストリアでは5月に大統領選挙が行われましたが、7月に同国の憲法裁判所が大統領選挙の結果を無効とする判決を出したことで大統領選挙をやり直すことになりました。5月の大統領選挙では与党が支援する左派系の候補者が反EU、移民排斥を掲げる極右系の候補者を僅差で下しましたが、今回やり直しとなったことで極右系の候補者が逆転勝利する可能性があります。オーストリアでも反EUの機運が高まるとEU解体リスクが現実味を帯びてくるので、イタリアの国民投票だけでなく同日のオーストリアの大統領選挙にも注目です。

想定されるシナリオと投資戦略

 金融市場にとって望ましいシナリオはイタリアの国民投票で憲法改正案が賛成多数で可決され、さらに、オーストリアの大統領選挙でも与党系の候補が勝利することです。しかし、ブレグジットに表れたように、ドイツ主導のEUによる移民受け入れや緊縮政策は各国の有権者にとって評判が良いものとはいえないため、望ましい結果にはならない可能性が高まっていると思われます。また、米国の大統領選挙でトランプ氏が勝利したことから、反グローバリズム・保護主義・反移民の潮流が英国だけでなく米国でも顕在化したことは大きな意味をもち、EU加盟国における反EU、EU離脱の動きが加速するものと思われます。

 12月4日において、イタリアの国民投票は否決、オーストリア大統領選挙では極右候補者の勝利という前提に立つと、ユーロを対象とするプット型eワラントを買付けて下落のヘッジとするほか、NYダウや日経平均を対象とするプット型eワラントの買いや、金相場を対象とするコール型eワラントの買いが有効となるかもしれません。仮に12月4日の国民投票が賛成という結果になれば、リスク回避的な投資家の買い戻しにより相場が上昇することが見込まれますが、この場合でも現状に大きな変化はないためアップサイドは限られていること、一般に時間が経過するほど政権への支持率が低下する傾向があることを考慮すると、為替や株価指数を対象とするコール型eワラントとプット型eワラントを両建てする戦略よりも、プット型eワラントに比重を置く戦略の方が有効ではないかと考えられます。

本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。

              eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎

著者プロフィール

  • 小野田 慎(オノダ マコト)

    eワラント証券 投資情報室長。一橋大学法学部卒業後、大和証券投資信託委託に入社、投資信託の開発業務に携わる。2005年からイボットソン・アソシエイツ・ジャパンにて金融機関向けのコンサルティング、企業等の評価に用いる資本コストの分析業務、投資信託の定量評価、現代ポートフォリオ理論に基づいたアセット・アロケーション(資産配分)に関する投資助言を行う。ゴールドマン・サックス証券を経て2011年8月より現職。ポートフォリオ構築の専門家としての経験を活かし、幅広い資産の分析を行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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