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「女性就労増加で労働生産性が過去最高」って本当!? - 本田康博 (証券アナリスト)

日本の労働生産性が最新の統計で過去最高を更新した、というニュースはご存知でしょうか?

私たちが普段目にする日本の労働生産性について伝える情報には、「他の先進国に比べて低すぎる」「無駄な残業が多いせいだ」等々、とかくネガティブなものが目立つので、「過去最高」と言うのは、意外に感じる方も多いかもしれません。

■名目労働生産性は過去最高水準に
日本生産性本部が今月初めに発表した2016年版「日本の労働生産性の動向」によれば、最新のデータである2015年度の時間あたり名目労働生産性は4,518円で、過去最高を8年ぶりに更新しました。これまでの最高値が4,416円だったので、実に100円以上も上回ったことになります。

それほど大きなニュースになった記憶はないのですが、これをメディアはどのように報道したのでしょうか? Google検索では、日本経済新聞と読売新聞が報道していたことが確認できましたが、総じてあまり大々的には報じられていなかった印象です。

その中で、このニュースを「名目労働生産性、8年ぶり最高 女性就労増加で」との見出しを打って報じたのが、日本経済新聞です。
日本生産性本部は日本の名目労働生産性が2015年度に1時間あたり4518円と前年度に比べ2.3%増えたとの調査結果をまとめた。4年連続で増え、8年ぶりに過去最高を更新した。短時間労働が多い女性の就労が増えたため。ただ欧米に比べると生産性はなお低い。長時間労働の是正や在宅勤務の推進などを通じ、生産性をさらに引き上げる必要がある。(日本経済新聞電子版、2016/10/31付)
短い記事ですが、「短時間労働が多い女性の就労が増えた」ことが、時間あたり労働生産性が過去最高まで改善した要因だと、はっきりと書いています。

これが本当なら、本当に凄いことだと言えるのではないでしょうか?

■女性就労増は労働生産性を向上させる?
この、「女性の就労増加によって一人あたり労働時間が短縮され、それによって時間あたり労働生産性が改善された」というストーリーは、本当にそうであればとても素晴らしいことですし、政府が喫緊の課題として掲げている「女性の活躍促進」や「長時間労働の抑制」に向けた取り組みを強力にサポートするものになるでしょう。

労働生産性は、アウトプット(付加価値額や生産量など)をインプット(労働投入量)で割ることで得られる指標です。労働投入量として労働者数を用いれば一人あたり労働生産性、総労働時間(=労働者数×一人あたり労働時間)を用いれば時間あたり労働生産性です。

 時間あたり労働生産性 = 生産量÷(労働者数×一人あたり労働時間)

ですので、時間あたり労働生産性を向上させるには、(1)~(3)の少なくともいずれかが必要になります。
 (1)生産量を増やす
 (2)労働者数を減らす
 (3)一人あたり労働時間を減らす

参照した日本経済新聞の記事は、男性と比べて短時間勤務の多い女性の就労が進んだことで(3)が実現し、時間あたり労働生産性が改善した、という思考になっているのでしょうか。計算式だけを見れば、確かにそう言えなくもないように見えるかもしれません。しかし、そこには、とても基本的ではあるものの意外にやりがちな、大きな間違いが一つあるのです。

■時間短縮が生産量を減らすのは当たり前
当然ですが、労働生産性向上の3つの条件は、互いに無関係ではありません。例えば、工場のラインのような仕事であれば、労働時間を減らせば生産量はそれに比例して減少します。ここで、インプットとアウトプットが同時に同じように減ってしまっては、生産性はまったく改善しません。インプットよりもアウトプットの減りが緩やかな場合は、労働生産性は改善します。増やす場合の考え方も同様です。

すなわち、仮に、短時間労働が多い女性の就労割合を増やすことで時間あたり労働生産性が上がったとすれば、それは「短時間労働が多い女性」の労働生産性がそもそもそれ以外の人たちの労働生産性よりも高かった、というだけのことなのです。

では、実際にはどうなのでしょうか? 個別に見るのであれば、そういうケースも大いにあるかもしれません。ですが、一般論として考えた場合、パートタイム労働者の時間あたり労働生産性が労働者全体の時間あたり労働生産性よりも高いとすることは、合理的とは言えないでしょう。

「女性就労が増えたら労働生産性が過去最高を更新した」という話は、勘違いだったわけです。

■問題はごちゃ混ぜにしない方が良い
労働生産性問題は、長時間労働問題や女性の就労問題と併せて語られることが多いのですが、実はそうした議論は日本の労働生産性問題の本質ではないと、筆者は考えます。女性の就労促進も、長時間労働の解消も、日本に暮らすすべての方の厚生のために大いに進めて欲しい大事なことです。ですが、それらを労働生産性対策としてことさら取り上げることで、日本の労働生産性の本当の問題への焦点を曇らせることになっていないかと。

上述の通り、女性の就労をどれだけ促進しても、女性の労働生産性が男性の労働生産性よりも高くなければ全体としての労働生産性は改善しません。長時間労働の解消は、それが非効率な残業時間の短縮という形であれば、時間当たり労働生産性の改善には寄与するでしょう。ですが、時間当たり労働生産性だけではなく一人あたり労働生産性も低いのが、国際的に見た日本の特徴ですので、その効果はあくまでも限定的です。

日本の労働生産性の問題は、端的に言えば、労働投入量のわりに、付加価値が、生産量が、少ないという問題です。そのうち働き方改革で改善できるのは、いいとこ一割程度でしょう。インプットのほうをゴニョゴニョ弄るのではなく、同じ投入量でどうやったらより大きなゲインが得られるのか、国や企業や国民一人ひとりが、その方向で見据えて行った先にこそ、日本の未来があるのだと思います。

【参考記事】
■日本がギリシャより労働生産性が低いのは、当たり前。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/47352836-20151229.html
■日本が先進国で最下級だという「幸福度」ランクについて、みんなが勘違いしていること。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48183188-20160325.html
■日銀のマイナス金利政策は、大成功だが、大失敗だ。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48977254-20160701.html
■報道の自由度ランキングは、どう偏っているのか。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48670336-20160524.html
■映画『マネー・ショート』を見ていて混乱するのは、「空売り」を予習したせいだ。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/48046767-20160310.html

本田康博 証券アナリスト・馬主

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