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「住友銀行 秘史」の前史

2016年10月に発刊された「住友銀行 秘史」が話題を呼んでいることは以前、このブログで触れたと思います。なぜこんな本がいまさら注目されるのか、といえば著者の國重惇史氏は戦後最大の経済事件と言われた「イトマン事件」に深く関与する住友銀行に於いて担当者の一人でありました。が、それ以上に当時、大蔵省等に発出された数回にわたる差出人不明の内部告発書の当人であることを自ら明かしたからでありましょう。

ところで私はこの467ページに及ぶ本は一般の人には面白くない本だと断言しています。それはこれを読んでも事件の内容が詳しく書かれているわけではなく、銀行上層部の慌てふためき、あわただしく動き回るその息遣いを銀行のごく一面から描いているものであり、事件の全貌を知る書ではないからです。事件を知るなら朝日新聞大阪社会部の「イトマン事件の真相」が良いと思いますが、もう手に入らないかもしれません。

さて、この本は1990年3月頃から始まり、イトマン河村良彦社長、元常務の伊藤寿永光氏、許永中氏らが逮捕された91年7月までを國重氏のメモに基づいて編集しています。この中に様々なプロジェクト名が出てきます。銀座一丁目プロジェクト、雅叙園、青山土地などバブル当時、話題になった案件の数多くであります。そのうちいくつかはいわゆる地上げで頓挫した物件、反社会的分子が関与した物件など様々ですが、私の知る限り、住友銀行のこの恥部はバブル期としては比較的後期に「つけ」が廻わり廻ってトラブルになった膿だと思っています。

バブル経済がどこで破裂したのか、といえば株式市場のピークであった89年12月29日と見るのか、不動産バブルの崩壊が顕在化した90年から91年にかけてとみるのか様々ですが、当時、不動産開発事業の実務担当者として言わせてもらえればやはり89年だったと断言してよいかと思います。

バブル経済に伴って急速に力をつけたのが暴力団の経済部であります。連中は地上げなどをかなりギリギリ(一部では不法)なやり方で進め、ダミーとなる無名の不動産会社が更地として取りまとめ、それをゼネコンや開発事業者に売却するスキームでした。これはほぼ常套手段といってよいでしょう。

ダミーの不動産会社が土地取得資金を確保するためにゼネコンなどはその資金融資に対して債務保証を行います。一方、融資する側としてはあまりにも危なそうな物件も多く、私の知る限り銀行本体ではなく、子会社のリース会社が実際の融資をするケースがほとんどでした。ゼネコンも無防備に債務保証しているわけではなく、銀行通帳と銀行印はゼネコン側で管理し、事業進捗に応じて必要資金を提供する方式であります。

ゼネコンでもその手の危ないビジネスをしていた会社はそう多くはなく、私が所属していた会社以外には数社程度しか名前が出て来なかったと記憶しています。

その中で闇資金との繋がりのスタートポイントは竹下元総理の皇民党事件だったと記憶しています。これは中曽根総理の後継指名争いで竹下、安倍(父)、宮澤らが争った際に右翼の皇民党が竹下氏を「日本一金儲けの上手い竹下さんを総理にしましょう」と右翼宣伝カーでがなり立てた事件であります。その際、竹下氏はその火消を金丸信(のちの副総理)に委託。金丸氏は佐川急便、渡辺社長にそれを依頼し、そこから稲川会を通じてことを収めた流れであります。

これに対して渡辺氏は多額の謝礼金を稲川会に払ったのですが、その舞台となったのが茨城県の岩間カントリークラブのゴルフ場会員権事件であります。これはネットでもあまり出てこないと思います。このゴルフ場の名前は「住友銀行秘史」にもちらっと出てきますが、背景はそういうことであります。この金が稲川による東急電鉄株式買い占め事件につながります。(稲川はこれで最後大損したはずで闇に流れた金は市場に消えたのであります。)

私の知りうる限りバブル時代に暗躍した暴力団は稲川会と山口組でありますが、住友の事件は山口の息がかかった案件であります。本に出てくるフィクサーの佐藤茂は1日で100億円動かせると言われた川崎定徳の社長ですが、稲川の息がかかっている人のはずです。私も彼の名前は当時よく聞かされておりました。

本に出てくるイトマン事件の主人公の一人、伊藤寿永光氏は著者の國重さんはお会いになっていなかったと記憶しています。実は私は会って名刺交換をしています。伊藤案件は私は担当していなかったのですが、上司が「気を利かせて」「将来の為に一度ぐらいあっておいた方がよい」と言われ東京の八重洲口にあった協和綜合研究所で挨拶しています。89年頃だと思います。マイルドでさわやかな口調でなるほど「人を信じさせてしまう」タイプの男でした。

伊藤案件は部内の別のチームが手掛けていましたが、ある金曜日伊藤氏から電話があり、「明日の〇〇競馬の○レースは○○を買え」と連絡がきてざわめきだったのを覚えています。彼は当時、馬主だったと記憶していますが、私は競馬はやらないのでよく覚えていません。

バブル時代の恥部とは何だったか、といえば表と裏の世界、政界と財界の絶妙な繋がりを株、不動産、絵画、ゴルフ場会員権といった道具を駆使して作った見せかけの世界であります。一部上場の有名企業や銀行が魑魅魍魎な世界を複雑怪奇な資金スキームの中で妄想し、自己正当化しようとしたということでしょう。さらに本にも出てくる佐藤正忠という雑誌「経済界」の創業者は「筆」という道具で暗躍していました。彼がいつも無理難題を言ってくるのは知っており、バブル時代を代表する最悪な雑誌の主幹でありました。

「住友銀行 秘史」はそんな裏世界と表社会との繋がりの一部を銀行本体のエリート目線から捉えた書物として読むべきなのでしょう。当時のあの世界とのかかわりを実務ベースで知っている人は少ないと思います。

では今日はこのぐらいで。

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