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新型デフレで正攻法も限界、吉野家、スタバの奥の手 - 浅野有紀

 「値下げだけで消費マインドが高まるような時代ではなくなってきた。セールなどのキャンペーン効果も持続期間が以前より明らかに短くなっている」

 そう話すのは、今年4月に牛丼より50円安い豚丼を4年ぶりに復活させた、吉野家の代表取締役専務・門脇純孝氏だ。牛丼の値下げや割引クーポン券の配布など、これまでも様々な値引きセールを打ってきたが、過去の同種のキャンペーンと比較すると、効果の持続期間がどんどん短期化しているという。

 ファミリーレストランの「ガスト」を展開するすかいらーくは、今年9月に、期間限定で一番人気のメニュー・チーズINハンバーグを150円値引きし、399円(税抜き)で販売した。同社広報は、「今年に入って、確実に消費マインドが落ち込んできている。これまでも、消費増税時などに同様の値引きを実施したことがあるが、今回は従来よりも客足が伸びなかった」と話す。

 総務省によると、今年9月の消費支出(2人以上の1世帯当たり)は26万7119円で、前年同期比2・1パーセントの減少となった。これで7カ月連続の減少である。

 一方、賃金は上昇基調にある。厚労省が発表した9月の毎月勤労統計では、最低賃金の引き上げ効果もあり、実質賃金(事業所規模5人以上)は前年同月比で0・9パーセント上昇し、8カ月連続で前年実績を上回っている。

 「実質賃金が増加し続けているにもかかわらず、消費支出の減少が止まらない状況は極めて珍しい。これは従来にはない〝新型〟のデフレかもしれない」と日本経済大学の西村尚純教授は指摘する。

 この異例ともいえる事態が発生している理由について、西村教授は「社会構造の変化が本格化していることが大きい」と話す。高齢化の急速な進展による購買意欲の減退や、単身世帯の増加に伴う小型パッケージ商品の需要の高まりが進んでいる。全体のパイが収縮する中、価格比較を簡単にできるネット販売も台頭してきており、消費者の節約志向とも相まって、商品の購入金額は減少傾向にある。

 消費者の財布のひもがこれまで以上に固くなる中、外食や小売業界各社の販売戦略にも変化が起きている。


賃金は上昇するも消費は低迷  注:いずれも対前年同月比
(出所:各種資料をもとにウェッジ作成)


企業ドメインの破壊 改革なくして勝機なし

 街中を歩いていると、「ちょい呑み」をコンセプトに酒やおつまみを販売する外食店をよく目にする。吉野家が展開する「吉呑み」がその代表例だ。同社は「吉呑み」の導入で夜の時間帯の売り上げが10パーセントほど増加しており、ちょい呑みをするために吉野家へ行くという新たなスタイルも浸透しつつある。

 他にも、天丼店「てんや」、ラーメン店「日高屋」など、酒やおつまみを充実させ、ちょい呑み需要を引き込む店舗が増えている。今春にはスターバックスコーヒージャパンまでもが一部店舗で酒類の販売を開始した。

 スターバックスといえば、ゆったりとコーヒーを楽しむことができる空間が強みの1つだ。そこで酒類を提供すると、本来の「落ち着いた空間」を損ねる恐れも少なからずあるが、「仕事帰りの女性の来店を目的としている」(同社広報)と新たな顧客層の開拓を探っている。

 日本マクドナルドは、立ち寄りたくなる「場」を提供することで集客を目指す。今年7月に配信されたスマホゲーム「ポケモンGO」とのコラボで、店舗がゲームのアイテムを入手できるスポットになるなど話題を集めた。10月には、動画配信サービス「Netflix」を無料で利用できるようにし、スマホなどで映画やドラマを楽しめるよう店内環境を整えた。

 13年に実施した「注文後1分以内に商品を提供できなければ無料」という企画に見られるように、店の回転率が同社の戦略の1つでもある。だが、前述のサービスで、スマホを片手に長く居座られると回転は途端に悪くなる。同社広報は、「そうした懸念は特にない。それよりも、まずは店に足を運んでもらうことが大事だ」と話す。

 企業の強みに悪影響を及ぼす恐れがありつつも、それでも客足を伸ばすために行うこれらの戦略は、まさに〝奥の手〟といえるだろう。

 消費のパイが萎む中、商品構成や販売方法にメスを入れ、抜本的な変革を進めているのがコンビニだ。

 ローソンは今年6月、全国約1万2000店のうち8割弱の店舗で、販売品目を生鮮食品を中心に2割程度増加させた。同社広報は「郊外に大型ショッピングモールが建った影響で、街中にあった小さなスーパーが減っている。主婦や高齢者に近隣のコンビニで買い物を完結してもらえるようにしたい」とその狙いを話す。店舗のない地域においては、今年11月から自社開発による専用車両を用いた移動式販売を始め、売り込みを行っている。

 異例とも言える「新型デフレ」が社会構造の変化に起因するものであるならば、それは今後、常態化、深度化していくだろう。従来の自社の強みや業態をも打ち破る挑戦的な戦略が企業に求められている。

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