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ピント外れな「駆け付け警護」論議を憂う ~危険を煽る議論が国民を不安に陥れた~ - 織田邦男

政策提言委員・元航空支援集団司令官 織田邦男

 11月19日、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に第11次隊として派遣される部隊の壮行行事が陸上自衛隊青森駐屯地で行われ、派遣隊員たちは翌日、青森空港から出発した。今次派遣隊員は、安全保障関連法に基づく「駆け付け警護」などの新任務を担う陸自第9師団を基幹とする約350人の隊員である。

 新聞によると、19日には衆院議員会館前に約3800人が集まり、「駆け付け警護は絶対反対」などとシュプレヒコールを繰り返したという。また兵庫県では、34の市民団体が神戸市役所前で抗議集会を実施し、「駆け付け警護は戦争行為」「自衛隊をPKOから今すぐ戻せ」などと書かれたプラカードを手にデモ行進をしたという。

 「自衛隊のPKO派遣反対」と言うならまだ分る。だが「駆け付け警護は絶対反対」とシュプレヒコールを繰り返す人達は、自衛隊PKO部隊の近くで活躍するNGOや邦人達がもし暴漢に襲われそうになった場合でも、自衛隊は助けに行くべきではない、見て見ぬふりをしろと言うのだろうか。

 「戦争反対!」のプラカードを手にデモ行進している人の映像を流しながら、「駆け付け警護」のニュースを流すテレビ報道は明らかに国民を不安に陥れる印象操作だ。「駆け付け警護」と「戦争」とは全く関係がない。にも関わらず、あたかも自衛隊が海外の戦争に派遣されるかのように印象付ける。「駆け付け警護」を「戦争」と関連付け、おどろおどろしさを印象付けようとするメディアの意図のようなものを感じたのは筆者だけだろうか。

 時事通信が10~13日に実施した世論調査では、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣する陸自部隊に「駆け付け警護」の任務を新たに付与することへ反対が47.4%に上ったという。

 この数字に筆者は大いなる違和感を感じた。だが、国会での議論や上記のようなメディアの報道ぶりを見ていると、さもありなんと思う。「駆け付け警護は戦争行為」「駆け付け警護は絶対反対」と叫ぶ活動家、そしてそれをメディアが映像で垂れ流す。リスクに特化した国会での稚拙な論戦にも責任があるが、何よりPKOの背景や過去の経緯を正しく伝えることなく、危機を煽り続けたメディアには大きな責任がある。

 「駆け付け警護」とは、自衛隊が外国でPKO活動をしている場合に、自衛隊の近くで活動するNGOなどが暴徒などに襲撃されたときに、襲撃されたNGOなどの緊急の要請を受け、自衛隊が駆け付けてその保護にあたる行動である。(官邸ホームページより)

 国会での議論やメディアの報道ぶりを見ていると、派遣される部隊は、あたかも「駆け付け警護」が主任務と誤解する国民がいても不思議ではない。あくまで主任務は南スーダンの国づくりを手伝う施設活動であり、活動期間中、場合によっては緊急的に「駆け付け警護」を実施することもあり得るということだ。

 「駆け付け警護」が主任務かのようなメディアの報道ぶりに部隊も戸惑っているようだ。青森で行われた壮行会で納冨中第9師団長が訓示で敢えて次のように述べざるを得なかったことからも分かる。「新任務が付与されるが、派遣施設隊の主任務は南スーダンの国づくりのための施設活動であることには何ら変わりない」

 これまでと同様、あくまで主任務は「国づくりのための施設活動」である。メディアはこれを承知の上で、必要以上に危機を誇張して報道する。「自衛隊が未知の領域へ踏み出す。殺し、殺される危険を伴う駆け付け警護が閣議決定された。警護される側となり得る関係者の受け止めは歓迎と懐疑に割れている。新任務を帯び南スーダンへ向かう陸上自衛隊の部隊の地元、青森市ではピリピリした空気が漂う」。まさに為にする記事である。危険を煽って、国民をどこに導こうとしているのか。昨年、反対していた「安保法制」が成立してしまったことへの意趣返しなのだろうか。「江戸の敵を長崎で」といった低レベルの思惑さえ勘ぐってしまう。

 これでは何も知らない国民が、今次派遣隊員がまるで戦争に出征するかのように誤解しても不思議ではない。それが47.4%の反対に繋がったのだろう。

 次の記事も大切な部分を敢えて隠し、「駆け付け警護=主任務=危険」と印象付けようという底意が感じられる。「駆け付け警護では、銃による威嚇や警告射撃が新たに認められた。武器を向けられたり発砲されたりした場合は『正当防衛・緊急避難』として危害を加える反撃が可能。今までにない任務で、自衛隊員のリスクが高まるとの指摘がある」

 大切な部分というのは、これまでのPKOでも「駆け付け警護」のような事態はあったし、違法にならぬよう涙ぐましい工夫をしながら実質上の「駆け付け警護」を実施してきたという事実である。なるほど「今までになかった任務」だったので、別の任務を援用して邦人等を救出してきたのは周知の事実である。

 1993年、カンボジアでは選挙監視に日本から多くのボランティアが参加していた。投票所にポルポト派が襲撃をかけるという情報があり、警護を要請された。だが任務にないため、自衛隊は「道路建設・維持のための情報収集」という名目で投票所を巡回し、事実上の警護を実施した。公式の説明は「情報収集のために立ち寄った選挙事務所で、偶然救護を求めてきた選挙監視要員を人道的見地から保護した」であった。

 この時、もし選挙監視要員が襲われたら暴徒との間に割って入り、「正当防衛」の状況を作為して選挙監視要員を守るという悲壮な覚悟だったという。加えて、「駆け付け警護」任務が与えられていないが故に、訓練もできておらず、ぶっつけ本番で対応せざるを得なかった。こちらの方が余程リスクは高くて非人道的だ。自衛官の自己犠牲の上に成り立っているこの対応について、メディアが「非人道的」と非難したかどうか筆者は寡聞にして知らない。

 東ティモールのPKO派遣でもそうだった。「デリ市内で発生した暴動事案の最中、市内の日本人レストラン経営者から自衛隊の派遣部隊へ保護の要請があった。一方、自衛隊員(休暇中)3名が市内に滞在していることが判明した。このため、隊員の安全確保等のため偵察チームを市内に派遣し、その際、保護を求めてきた日本人5名と外国人4名を保護下に置き、自衛隊派遣部隊の宿営地に収容した」という。

 このように、これまでも何とか今ある法律との折り合いをつけながら、事実上の「駆け付け警護」は実施してきた。だが、他の任務を援用して事に当たる日本独特のガラパゴス的行動は国連や諸外国に理解されることは難しかった。現場としては「駆け付け警護」任務が正式に認められることを心待ちにしていたのである。

 過去の経緯を全く無視して、ある憲法学者は「安倍政権は敢えて戦闘に巻き込まれるようにしているのではないか」とし、「(死者が出て)世論が感情的になるこの時こそ、9条改正への好機と見込んでいるのではないか」とまで述べる。全く的外れの発言に驚きを通り越して唖然としてしまう。思い込みが激しく、同じ日本人である自衛官に対する思いやりの欠片もなく、表層的で実態を知らない「象牙の塔」の発言である。まさに論外ではあるが、高名な憲法学者だけに影響力もあり、内実を知らない国民の不安は増大するわけだ。

 任務にあるなしに関わらず、自衛隊の活動地域の近くで、邦人や国連職員、NGO等が暴漢に襲われそうになり、自衛隊が助けを求められた時、もし情報が得られ、能力的にも可能であれば、自衛隊が救援要請を断る選択肢はないと筆者は思っている。これまでもそうだったし、これからもそうだろう。違うのは正式に任務が与えられたという点だけだ。

 「自らの部隊を守るだけでなく、外に出て多くは丸腰の人を守ることになる。隊員のリスクが高まることは避けられない」と主張する国会議員も多い。筆者は「リスクが高まる」ことを全く否定するわけではない。だが、その分、国連職員、邦人、NGOは「見捨てられる」ことが少なくなりリスクは下がる。

 加えて今次派遣は、安保法制が昨年制定されたことにより、隊員達は事前に十分訓練を積むことができた。任務が付与されたことにより、そういう事態が生じても、現場は六法全書を片手に迷うことはなくなった。精神的にも気が楽である。そういうことを勘案するとメディアが主張するように「自衛官に対するリスクが増す」と一方的に決めつけるのも単純すぎるだろう。

 某新聞は「自衛隊には危険な場所へ行ってほしくない気持ちもある。若い人が犠牲にならないよう活動してほしい」と読者に語らせた。だが国連職員やNGOのリスクを無視するのは片手落ちだろう。何事も「上の句」があれば「下の句」がある。両者が相まって責任ある主張は完結する。「駆け付け警護反対」と叫ぶなら、「邦人や国連職員、NGOが襲われそうになっても、見捨てるべきだ」との「下の句」を言ってこそ主張は完結する。だが決してそれは言わない。「自衛隊は南スーダンPKOから撤退すべき」と叫ぶ人は、「南スーダンの混乱なんか知ったことか」「国連加盟国としての義務は無視せよ」「国連第一主義は止めよう」との「下の句」まで言って初めて責任ある主張となる。

 メディアは決して「下の句」を伝えない。そればかりか、「自衛隊が戦争に巻き込まれる」「戦争法廃止」「アベ政治を許さない」など、PKOや「駆け付け警護」とは関係ない主張を敢えて垂れ流して国民の危機を煽る。社会の木鐸としての自覚を持ってもらいたいものだ。

 メインディッシュ(施設活動)とアラカルト(駆け付け警護)を混同した報道が、如何に国民を混乱させて不安に陥れたか。この空気は派遣自衛官にも暗い影を投げかけている。19日の壮行会では「終始ピリピリとした空気が漂った」という。

 報道で「駆け付け警護」だけが異常に独り歩きしたが故に、隊員達までナーバスになることの方が心配だ。行動に躊躇や迷いがあってはならない。「計画は悲観的に、実効は楽観的に」が危機管理の原則である。「新任務が付与されるが、派遣施設隊の主任務は南スーダンの国づくりのための施設活動であることには何ら変わりない」のであり、これまでのように日頃の訓練成果を生かして伸び伸びと任務を完遂してもらいたい。

 政府は閣議決定に合わせて運用方針「新任務付与に関する考え方」を発表した。「駆け付け警護は極めて限定的な場面で、応急的かつ一時的な措置として、能力の範囲内で行う」とある。「活動範囲は(首都)ジュバ及びその周辺地域」に限定し、「他国の軍人を駆け付け警護することは想定されない」となっている。これだけ限定されれば、多分第11次隊に「駆け付け警護」の事態が生じることはないだろう。

 だが、もし「駆け付け警護」の事態が生じたならば、しっかり情報を収集し万全の態勢で臨んでもらいたい。そして自衛隊の能力を超えると判断したならば、躊躇なく「NO」と言うべきだろう。当然、現場を知らぬ輩から「腰抜け」「見殺しにした」等、ありとあらゆる罵声が浴びせ掛けられるだろう。だが、これを甘受するのは自衛隊の宿命だ。任務完遂に確信が持てないまま、見切り発車で実行に移すことは最悪の事態を招くことにもなりかねない。

 派遣部隊長の田中仁朗1佐は壮行会後、報道陣に「色々な手段で情報を取り、部隊の安全をしっかり確保して活動したい」と述べた。ご苦労なことだが、罵声を浴びてでも「NO」と言わねばならぬこともある。その勇気を決して忘れないでもらいたい。

 最後に蛇足だが、イラク派遣航空部隊の指揮を2年8ヵ月とった筆者の経験から一言付け加えたい。

 「駆け付け警護」の議論は必要だ。だが、派遣される隊員にとっては、何故南スーダンに派遣されるのか、日本の国益にどう繋がるのか、こういう基本的な疑問に対し胸にストンと落ちる大義名分こそが何より重要である。

 官邸ホームページには「PKOについて」以下のように説明している。「国連は、外国で治安に不安が生じ、その加盟国一国では治安を確保し国民の安全を守ることができないなどの場合、PKO活動(Peacekeeping Operations:平和維持活動)を行います。日本は、国連から要請があり、憲法の許す中で、このPKO活動のために、自衛隊を派遣することがあります」

 この説明では、時に危険な目に合うかもしれない南スーダンPKOに参加する隊員達への説明にはなっていない。遠いアフリカの地、南スーダンで汗を流し、時には血を流すかもしれない厳しい任務である。それにもかかわらず南スーダンで活動することが必要だとしたら、その意義、重要性、大義名分を彼らに示してやることは政治の大切な役目である。

 現在のPKOでは先進諸国の多くは部隊を出していない。司令部には将校を出すが南スーダンPKOに部隊を出しているのは先進諸国では日本と韓国くらいだ。何故、日本はアフリカの地に自衛隊の部隊を出すのか、何のために自分は危険を賭してまで現場で頑張らねばならないのか。政治は隊員たちの腑に落ちる形で示しているだろうか。自衛隊は志願制だ。志願制の軍事組織はアカウンタビリティ(説明責任)が要求される。

 「駆け付け警護」で大騒ぎするのではなく、隊員たちにとって一番重要な大義名分を巡って国内での議論が盛り上がらなかったことを非常に残念に思う。今後、仮に危険な事象が生じると、問題は必ずここに立ち返ってくる。このことを政府は心しておくべきだろう。

略歴
織田 邦男 Kunio Orita 元・空将
1974年、防衛大学校卒業、航空自衛隊入隊、F4戦闘機パイロットなどを経て83年、米国の空軍大学へ留学。90年、第301飛行隊長、92年米スタンフォード大学客員研究員、99年第6航空団司令などを経て、2005年空将、2006年航空支援集団司令官(イラク派遣航空部指揮官)、2009年に航空自衛隊退職。

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