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宙に浮いてしまった「TPP」論議

■「保護主義」は「鎖国主義」のことを意味しない

 次期アメリカ大統領が決定したことで、トランプ氏の「保護(貿易)主義」というものに注目が集まっている。これまで自由貿易礼賛一辺倒だった世論にも少し変化が生じてきたのか、自由貿易に異を唱える評論家も現れてきつつある。

 「保護(貿易)主義」などという言葉を聞くと、条件反射的に「鎖国」とイメージする人が多いのかもしれないが、トランプ氏が掲げている「保護主義」というものは、おそらく行き過ぎた自由貿易を牽制するという意味合いでの物言いであって、別に「鎖国主義」のことではないと思う。
 「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という言葉の通り、自由貿易も行き過ぎると返って経済を悪化させることを理解した上での発言だろうと思う。
 同じく「鎖国主義」も行き過ぎると経済を悪化させる原因と成り得るので、その辺の妥協点を探ることが現代の政治家の重要な役割でもある。

 行き過ぎた自由貿易は悪と考えることができる人なら、行き過ぎた保護貿易も悪だということが解ると思われるので、それほど悲観視する必要もないような気がする。
 恐れるべきは、経済に無理解な政治家が出現することであって、経済を理解した上での「保護主義」ならそれほど問題視する必要もないと思う。

■「TPP」の本質は「いじめられっ子連合」

 その「保護主義」に関連して、アメリカの「TPP離脱」というものにも注目が集まっており、アメリカがTPPに反対の立場を採ると、TPPの実現は暗礁に乗り上げることになるので大問題だということになっている。

 「TPP」とは「環太平洋戦略的経済連携協定」のことであり、その名の通り、太平洋を取り囲む国々の貿易協定のことだが、その本質は「いじめられっ子連合」とも言えるもので、いじめっ子である中国からの威嚇を牽制するためにこそ必要な協定である。これは、アメリカの弱体化を理由として生まれたスクラム協定とも言えるので、トランプ大統領でかつての強いアメリカが復活するのであれば、話は少し変わってくる。
 元々、「TPP反対論」は「反米論」と軌を一にしていたが、その構図も崩れてしまうかもしれない。アメリカがTPP反対なら、逆に「TPP賛成」と言う人が出てくるかもしれない。

 現状、「保護(貿易)主義」を主張しているアメリカがTPPに参加する必然性は無く、実際にトランプ氏が「TPP不参加」を表明したとも伝えられている。そのため、違った形での新しい協定を再構築する必要があるかもしれない。ある程度の関税を認めた上でのTPPにするか、アメリカ抜きの半TPPにするか、あるいは、各国がアメリカと個別の貿易協定を結ぶか、いずれにしても、今後の大きな政治的外交課題となりそうだ。

■行き過ぎた自由に待ったをかけるトランプ氏

 アメリカが今後、本当に「保護主義」を貫徹するとなると、世界経済の様相は一変する可能性がある。
 以前にも書いたことだが、自由貿易の優位性を説いたリカードの比較優位説は、200年も前の経済理論であり、現代の複雑な世界経済を勘案して説かれたわけではないので、必ずしも正しいとは言えなくなっている。インターネットの出現によって経済の常識が根底から覆ってしまったので、従来の経済理論は役に立たなくなったとも言える。
 その時代にどれだけ正しい経済理論であったとしても、時代の変化とともに風化していくことは避けられない。経済原理は時代が移っても変化しないが、経済理論は時代とともに変化する。
 時代に不適合になった経済理論を疑うことなく妄信することしかできなくなってしまえば、それはもう経済学者の姿とは言えない。「経済学の学者」と「経済学者」の違いはそこにある。トランプ氏は幸いにも後者に属する政治家なのだろう。

 トランプ氏の「保護(貿易)主義」の要諦は、市場のソフトランディング化、これに尽きると思う。「自由貿易」は度が過ぎると市場をハードランディングさせることになるので、少し「保護」することによって、市場のソフトランディング化を狙っているのではないかと思う。つまり、現在よりも「市場を安定化」させることが目的だと思う。
 過保護に成り過ぎるのも問題だが、自由で有り過ぎるのも問題だ。あまりにも自由に偏り過ぎた現代の市場に待ったをかけるという意味での「保護」であるなら、市場も健全化するかもしれない。

 これまで子供の自由に任せっきりだった父親が、威厳を取り戻して、子供のやりたい放題の自由に待ったをかける。トランプ氏からは、そんな父性が感じ取れる。

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