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原発事故報道と戦前の新聞

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東日本大震災の後は、半ば呆然とした日々が続いていた。札幌は、地震も津波も原発事故も、ほとんど影響がなかったし、今もない。自分の日常の仕事も、震災前と同様に続いている。

新聞労連の集会に呼ばれて青森県の八戸市へ出向いたのは、2月初旬のことだった。東北各地から地方紙の記者や販売・営業担当の人たちが集まり、夜は店を3軒もハシゴしながら「地方紙はこれからどうしたらいいか」といった話を続けていた。あのとき、夜遅くまで話した人たちも、かつてない事態の最中にある。その場で一緒した「今だけ委員長」さん、河北新報の寺島英弥さんの「余震の中で新聞をつくる」、あるいはその他の奔流のような報道に接していると、現場のすさまじさと足下の日常との、あまりにも違うその落差を前にして、私はなかなか語るべき言葉を持ち得なかった。

それでも、書いておきたいことは山のようにある。何からどう書いておくべきか、頭の中の整理が仕切れていないが。

震災の少し前、「新聞 資本と経営の昭和史」(今西光男著)という本を読んでいた。筆者は朝日新聞で長く記者として働いた方である。第二次大戦前、朝日新聞はいったいどうやって「大本営発表」の渦の中に落ちて行ったかを詳述した1冊だ。社内の資料も豊富に使い、実に読みごたえがある。もちろん、「朝日」を題材にして、当時の新聞界全体のことを語っているのである。

よく知られているように、戦前の言論統制は、当局による強圧的な統制が最初から幅を利かしていたわけではない。最初は各社の「自主的な判断」があった。自ら進んで「国策」に協力したのである。

同書によると、1931年の満州事変直前、朝日新聞は社説で「国策発動の大同的協力」へ向けて「機運の促進」を「痛切に希望」すると書いた。同じころ、朝日新聞は社内の会議で、「国家ノ重大事ニ処シ国論ノ統一ヲ図ルハ当然」との結論が下されたという。

同書に登場する清沢烈の、1936年当時の批判も強烈である。以下の文章は当時の月刊誌「日本評論」に掲載されたものだ(引用文は現代風に書き換えた。一部省略もある)。

「新聞社が役人の頭で動いている証拠には、その頭が常に役人本位である。役人を代えると『人事刷新』と囃したてて喝采する。役人の出世・行詰まりを国民の福利と関係があるかのように解釈する結果だ。外務省に行くものは外務省に、陸軍省に行くものは陸軍省に、その型と思想が出来る。これも自分の頭を置き忘れた結果である」「こうした傾向からみて、役人の行き詰まりから来た非常時心理を紙面に反映するのは当然である。殊に朝日あたりは幹部が事務的になりきって、主義や思想を守りきろうという熱意があろう道理はない。かくしてファッショの風潮にひとたまりもなく頭を下げるのである」

山中亘氏の著書「戦争は新聞を美化せよ!」の中にも、似たような話が山のように出てくる。いずれも戦前の、軍部による強圧的な検閲が始まる少し前のことである。たとえば、山中氏が発掘した資料によると、当時、新聞社内ではこういうことが語られていたという。

「こういう未曾有の大事変下においては国内の相克こそ最も恐るべきものであります。全国民の一致団結の力が強ければ、何物も恐れることはありません・・・この一億一心に民心を団結強化するためには真に国策を支持し、国民の向かうべき道を明示する良き新聞を普及することが、適切有効であることは今更論じるまでもありません」(大阪朝日新聞取締役業務局長)

「決戦下の新聞の行き方は、国家の意思、政策、要請など、平たく言えば国の考えていること、行わんとしていること、欲していること等を紙面に反映させ、打てば響くように国民の戦争生活の指針とすることが第一・・・」(東京朝日の記者)

毎日新聞の当時のOBは以下のようなことを書き残している。「今日では(新聞は)平和産業の一部門だと解する愚か者はなく・・・インキはガソリン、ペンは銃剣である。新聞人の戦野は紙面である。全紙面を戦場に・・・ジャズ゙に浮かれていた数年前の新聞は今日見たくも無い」

朝日新聞の筆政(今で言う「主筆」)から第2次大戦下の政府の情報局総裁になった緒方竹虎は、総裁になって新聞を統制する側に回った際、若い記者があまりにも「発表」しか書かない、「発表」ばかり書くことが気になり、もっと自由に書いていいのだぞ、と伝えた。すると、若い大勢の記者からは「(緒方総裁が)いろいろなことを話してくれるのはありがたいが、(自由にやれと言われると)どの程度記事にしてよいか分からなくなる」との苦情が出たのだという。

私の解釈でいえば、「新聞は社会の公器である」という言葉は、戦後民主主義の高揚とともに生まれたものではない。「新聞は読者とともにある」という理念を表した言葉でもない。それは「国策遂行のために新聞はある」という、戦前の新聞のありようを体現したものにほかならない。

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