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再び注目される副業-人事実務からみた課題と方向性 - 松浦 民恵

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■要旨

副業に注目が集まっているなか、本稿では、副業の現状を概観したうえで、副業に関する過去の議論や課題整理を紹介し、主に人事実務の視座に立って今後の課題と方向性について考えている。

副業が注目されるのは今回が初めてではなく、1990年代後半から2000年代前半にかけても、副業に注目が集まった時期があった。これまでの検討を通じて、人事実務上の課題は既にほぼ整理されており、人事実務上の最大のネックは、複数の勤務先で労働時間の通算・管理だといえよう。企業にとって、個別対応を要する労働時間管理は相当大きな負担であり、副業が複数に及んだり度々変わったり、あるいは副業が増加したりすると、余計に対応が難しくなるだろう。しかしながら、労働時間管理は、割増賃金の算出等のために実務的に必要だというだけではなく、長時間労働による健康状態の悪化等を回避するための重要な手段の一つであり、労働者保護の観点からここを疎かにするわけにはいかない。労働時間管理に関する有効な解決策がない限り、企業による副業の容認・推奨の動きは、ある程度限定的な広がりにとどまると考えられる。

現状において、企業が労働時間管理を始めとする人事実務上のネックを回避しながら副業を容認・推奨するためには、本業に悪影響を及ぼすケース等を列挙した限定的な副業禁止規定を設け、それ以外の副業については関知せず、自己責任に委ねるという選択肢も考えられる。ただ、マイナンバーの導入に伴い、従業員の賃金以外の収入の存在を企業が把握しやすくなるなかで、従業員の副業に関知しないという「緩やかな運用」がどこまで世の中に許容されるかというリスクは残るだろう。

■目次

1――注目される副業
  1|副業が注目されている背景
  2|副業者の約4割は本業・非正規の女性
2――副業が注目されるのは今回が初めてではない
  1|副業に関するこれまでの検討の紹介
  2|副業における人事実務上の最大のネックは労働時間管理
3――副業の課題と方向性
  1|副業の容認・推奨は「緩やかな運用」が認められないと難しい面も
  2|非正社員の副業に対する政策的対応

1――注目される副業

1副業が注目されている背景
副業に注目が集まっている。政府が2016年9月に設置した「働き方改革実現会議」においても、第2回(2016年10月24日)の会議で副業が議論の俎上にのぼり、「ライフステージに合った」働き方の選択肢の一つとして、また、「オープンイノベーションや起業の手段」として、副業への期待が表明されている。

このように副業が注目される背景には、副業を容認・推奨する企業事例が出てきたこともある。萩原・戸田(2016)「『複業』の実態と企業が認めるようになった背景」では、副業を容認もしくは推奨する企業事例21社を対象としたヒアリング調査等をもとに、従業員に副業を認める企業側のメリットが、「人材育成」「人材求心力」「柔軟な組織体制」「生産性向上」「ビジネスの情報と人脈」の5つに整理されている。

このようなメリットがある企業においては、副業の容認・推奨は十分検討に値すると推測される。そこで、本稿では、副業の現状を概観したうえで、副業に関する過去の議論や課題整理を紹介し、主に人事実務の視座に立って今後の課題と方向性について考えてみたい。なお、本稿では、「副業」という言葉を、「複数就業」「複業」「マルチジョブ」「マルチプルジョブ」と同様、複数の仕事に従事する働き方という意味で使用する(いわゆる兼業も含む)。 2副業者の約4割は本業・非正規の女性
まず、現在、副業はどの程度、どのような人達によって行われているのかを、総務省「平成24年就業構造基本調査」で概観しておきたい。

雇用者全体に占める副業ありの割合は3.4%(192万人、雇用形態不明等を除く)にとどまる。本業の雇用形態別に副業ありの割合をみると、本業が正規の職員・従業員が1.8%(60万人)、本業が非正規の職員・従業員が5.3%(108万人)と、正社員の副業は非正社員よりも少ない。男女別にみても、男女とも、副業ありの割合は本業・正規で低くなっている。ただし、男性については本業・正規の分母が大きいため、本業・正規の副業者の人数(45万人)が、本業・非正規のそれ(36万人)を上回っている。一方、女性で本業・非正規の副業者は71万人にのぼり、副業者全体の約4割を占める。

副業者について、副業の就業形態の構成をみると、本業・正規では「雇用者」(43.0%)と「自営業主」(38.8%)が拮抗しており、本業・非正規では「雇用者」(60.2%)が「自営業主」(24.9%)を大きく上回っている。さらに男女別にみると、男性の本業・正規では「自営業主」(45.6%)が最も高い一方で、女性は本業・正規、本業・非正規ともに「雇用者」(各60.5%、65.0%)が最も高くなっている。つまり、副業は、本業が非正規の女性が行うケースが多く、また、このケースでは本業・副業ともに雇用者という形態がメインとなっている。

副業者の年齢構成をみると、本業・正規は、大半が非正規化する60歳以上を除けば、年齢が高くなるほど割合が顕著に高まっており、男性の本業・正規においては「50~59歳」が36.7%を占める。一方、本業・非正規は、男女計では年齢によって顕著な相違がみられないが、男性の場合は「60歳以上」(38.8%)が高く、女性の場合は「40~49歳」(28.0%)がやや高くなっている。このように、本業・正規においては中高年の副業が、男性の本業・非正規においては60歳以上の副業が目立っている。 図表1:雇用形態別にみた副業者の特徴

なお、萩原・戸田(2016)は「就業構造基本調査」を時系列で分析し、副業者の割合は全体としては1977年をピークとして減少傾向にあるものの、本業・副業ともに雇用者である副業者が増加していることを指摘している。本業・副業ともに雇用者である副業の増加は、雇用者として副業に従事する傾向が強い非正社員が増加していること、萩原・戸田(2016)も指摘している農林水産業従事者の大幅な減少をはじめとして、産業構造が変化していることが影響していると推察される。

また、萩原・戸田(2016)は、リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査2016」を分析し、「雇用者に限定すると、年収が高くても複業をしている人がある程度いること」も明らかにしている。ただし、現状における副業者のメインはあくまでも、本業における労働時間が相対的に短く、収入を補填する必要性が相対的に高いと考えられる「本業が非正規の職員・従業員」である。言い換えると、「本業が正規の職員・従業員」の副業のためには、本業の長時間労働の見直しが前提条件となるだろう。

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