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レイシズムに取って代わったもの

 3月の震災後、真っ先に流されたデマは外国人に関するものでした。関東大震災の再来を夢見ていた人もいたのでしょう。ありもしない外国人犯罪の横行を訴え、外国人排斥を呼びかけるものでしたが、幸いにして現代人は大正期の日本人のような直接行動にまでは踏み切らなかったようです。しかるにレイシズム系のデマが概ね空振りに終わった一方、別種のデマが横行するようになったわけで、決して過去の過ちを繰り返していないとは言い難いようにも思います。外国人に対する偏見を煽り立て、差別を広める類のデマが目立って流行ることはなかったものの、その代わりに福島の居住者や産品に対する偏見を植え付け、排除を正当化するようなデマが盛んに繰り返されるようになったのですから。

 世の中には、単に外国人に対するものだけをヘイトスピーチと呼ぶ、何とも暢気な人々もいます。ただ私が思うに、謂われなき偏見や嫌悪、憎悪を駆り立てるものであれば、その対象が外国人でなくとも当然のようにヘイトスピーチと呼ばれてしかるべきです。つまり、福島の居住者なり福島の産品なりに対するものであってもヘイトスピーチはヘイトスピーチではないでしょうか。そしてこの福島を対象としたヘイトスピーチの横行を「それもこれも原発(東京電力)が悪いのだ」とばかりに、差別の責任を他人になすりつけることで平然と受け入れている人も多いわけです。

 アメリカで、ある女性が「オバマなんて信用しない。アラブ(のテロリスト)でしょう」と語ったとき、当時の大統領候補であったマケインは「いいえ、奥さん、彼は立派な家庭人、国民です。たまたま意見の相違があるだけです」とたしなめたそうです。案の定、集会に参加していた共和党支持者からはブーイングが起こったと伝えられていますが、日本における脱原発論も似たようなところがあるように思います。マトモなことを言った人は御用学者だの原発推進勢力だのレッテルを貼られて「脱原発/反原発」のサークルからは敵視される(あるいは反原発デモを取り上げる報道が小さいというだけで原発推進派と呼ばれたり等々、それはレイシストが自分たちに同調しない人を「反日」と呼ぶのと同様です)、こうしてカルト的な性格を日に日に強めていったのが昨今の脱原発運動と言えるでしょう。
福島の花火使用取りやめ 日進の大会、市民の抗議で(中日新聞)

 東日本大震災の被災地復興を応援しようと福島県の花火の打ち上げを予定していた愛知県日進市の花火大会で、放射性物質を心配するクレームを受けて、実行委員会が直前に打ち上げを取りやめていたことが分かった。

 花火大会は日進市役所周辺で18日夜あった「にっしん夢まつり・夢花火」。計2千発の花火が打ち上げられた。第2部のスターマインとして福島県川俣町の菅野煙火店の花火80発が打ち上げられる予定だったが、中止となり愛知県内の業者の花火に代えられた。

 同様に計画していた岩手、宮城県の花火は予定通り打ち上げた。

 実行委は市や市商工会の職員、市民有志らで構成。今年は東北の花火を打ち上げ、被災地復興を祈る予定だった。だが新聞折り込み広告などで計画を知った市民らから16〜17日に、「放射能で汚染された花火を持ち込むな」「花火でまき散らすのか」といった抗議の電話やメールが20件以上市役所などに寄せられたという。

 実行委は当初、「花火店のある場所は国の放射線許容量を下回っている。室内で保管され、まったく問題ない」として実施する考えだったが、直前の17日午後になって取りやめを決めた。

 実行委事務局責任者の宮地勝志・市産業振興課長は「安全性に問題がなく、取りやめは苦渋の決断だ。一人でも多くの人に気持ちよく花火を見てもらいたいという考えで判断した」と理由を説明した。
 さて、似たようなことは他でもありましたが、過ちは繰り返されるもののようです。「放射能で汚染された花火を持ち込むな」などという声に押されて福島で造られた花火を排除することになったとのこと。「一人でも多くの人に気持ちよく花火を見てもらいたいという考えで判断した」などと市の責任者は応えています。じゃぁ、外国人の脅威を本気で信じている人が「異国の汚れを持ち込むな」みたいにクレームを付けてきたなら、「一人でも多くの人に気持ちよく日本で暮らしてもらいたい」などと称して外国人排斥に走るのでしょうかね。外国人に対するものだけをヘイトスピーチとして問題視するような人にとっては違うのかも知れませんが……

 絶対に安全だと確認されたわけではない(キリッ、と大真面目に語る人も多くて失笑させられるのですが、じゃぁ外出することの安全性は確認されているのでしょうか。家の外に出れば車に轢かれて死ぬことだってあり得ます。焼き肉店で食事をすれば、食中毒菌に当たって死ぬかも知れません。絶対に安全であることが確認されたものなど、むしろどこに存在するのか、その辺を考えてみるべきでしょう。絶対に安全ではないからダメ、というのであれば地球上のありとあらゆるものが否定の対象になります。とかく放射「能」が唯一にして絶対の危険であるかのごとく語られますけれど、今までに健康への影響が確認されたことがなく、しばしば検出限界を下回るレベルの放射線量を差別や排除の理由に持ち出すのは、愚劣と言うほかありません。

 そうでなくとも、花火は危険ですよね。花火が撒き散らす火薬と金属の灰は、当然ながら人体に有害です。ただ影響の出るほど多量に吸い込むという想定が現実的ではないというだけであり、それは福島における放射性物質の場合と同様です。ただし、花火の製造過程で爆発事故が起こり、死人が出るなんてことは多々あります。花火大会に殺到した群衆の混乱により死傷者が200名を超える大惨事なんてこともあれば、落下した花火の破片が直撃して観客が死亡したなんてこともありました。本当に安全であることが保証されているのか、それを疑うならまずは花火の方から考えた方がいいでしょう。今回の原発事故から来る放射線で死んだ人はいなくとも(これから死ぬんだ、と福島在住者に脅しをかけている人や、死人が出たと日夜デマを流している人はいますが)、花火大会で死んだ人は今世紀に入っても存在するのですから。

 まぁ、今回の花火大会に抗議した人は安全性云々への憂慮ではなく、ある種の歪んだ正義感から行動に出たものではないかとも推測されます。その筋の人が外国人の脅威を信じるのと同じような勢いで放射「能」の脅威を信じ、その害を防ぐべく行動したつもり、地域なり子供なりを守っているつもりで、福島で作られたものを「持ち込むな」と訴えたのではないでしょうか(抗議を呼びかけた人もいたのではないかと思います)。そうであればこそ、主催側には毅然とした対応が望まれたところです。ヘイトスピーチに屈せず、偏見に基づく排除を行わない姿勢をきっぱりと取らないと、差別や排除を勢いづかせるばかりですから。市が主催する行事なのに、偏見にまみれた抗議に応える形で福島製の花火が排除されてしまう、これでは市がヘイトスピーチを公認しているようなものです。

 京都から岩手の松が送り返されたときにも書いたことですが、ヘイトスピーチに毅然とした対応を取ること、そして行政や各種の団体にも毅然とした対応を求める意思を平素から明らかにしていくことが必要なのかも知れません。排除が行われてから、こんな場末のブログでグダグダ文句を言ったところで、後の祭りですから。こういう事態を二度と起こさないために、先んじて出来ることを考えてみましょう。例えばカウンターアクションとして、偏見や差別を広めている側に抗議してみるというのもあるでしょうか。例えば「東北の野菜や牛肉を食べたら健康を壊す」などと宣う武田邦彦を招いてセミナーを開催するという中日新聞に(参考)、おまえは新聞社としてヘイトスピーチに協賛するのかと抗議してみる等々。もうちょっと穏当なものとしては、抗議ではなく支持の意見を送ってみるのも手です。一般に反対の声は寄せられても賛成の声は少ないもの、それだけに担当者(主催者)側は反対の声の方ばかりを多数派と取り違えてしまいがちです。そんな担当者に、偏見にまみれた意見ばかりではないことを伝えることもまた必要でしょう。まぁ、やり過ぎは迷惑がられますし、往々にして我々が問題の所在に気づくのは、事が終わってからだったりするので難しいですが。

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