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活字本にだって負けていない!新しい世界の発見をもたらす“学習マンガ”150作品が選定

マンガといえば娯楽用。大人が没頭するのは格好悪く、子どもがマンガばかり読むのはけしからん。そんな風潮ができたのはいつからだろう。筆者の幼少期を思い出しても、マンガはファッション誌やアイドル雑誌と同じようなくくりとされ、積極的に読むものではなかった。図書館にあった『はだしのゲン』や『ブラックジャック』すら、少し後ろめたい気持ちで借りていたと思う。

もしかしたら、そんな筆者の幼少期はちょっと「不幸」だったのかもしれない。昨年、日本財団がスタートさせて話題になったプロジェクト「これも学習マンガだ! ~世界発見プロジェクト~」では、レベルの高い日本のマンガ作品の「楽しさ」「分かりやすさ」「共感力」に着目。漫画家の里中満智子氏や、トキワ荘プロジェクトを手がける菊池健氏、株式会社コルクの代表で、『ドラゴン桜』、『働きマン』などの編集者でもある佐渡島庸平氏らが選考委員をつとめ、 新しい世界を発見できるマンガや、学びにつながるマンガ100作品を選出。潜在的な漫画ファンの「待ってました!」という声や、「学習マンガ」なる概念への賛否両論などさまざまな反応を受け、同プロジェクトは大きな広がりを見せた。

矢沢あい『Paradise Kiss』など50作品が追加

これも学習マンガだ!」の公式サイトは公開から2週間で40万PVを記録、twitterでは1日に1000RTを集め、全国79の図書館、83の書店で紹介された。

反響を受け、今年は15年の100作品に続き、追加で50作品を選定。昨年と今年をあわせた150作品には、『あさきゆめみし』(大和和紀)や『火の鳥』(手塚治虫)、『日出処の天子』(山岸凉子)など、誰もが納得するであろうマンガ界の古典的な作品もあれば、近年ヒットした『聖☆おにいさん』(中村光)、映画化された『ちはやふる』(末次由紀)、『テルマエ・ロマエ』(ヤマザキマリ)、女性から絶大な人気を誇る矢沢あいのファッション漫画『Paradise Kiss』など、「これも学習マンガなのか!」と驚く作品もある。

撮影:北条かや

なぜこれらの作品が選ばれたのか。10月某日、選考委員長の里中満智子氏らが出席する記念のトークイベントに参加してきたので、その一部をレポートしたい。

おとぎ話の『シンデレラ』より『鉄腕アトム』

「まさに、マンガに支えられてきた人生だった」と語る、選考委員長の里中満智子氏(マンガ家・マンガジャパン代表)。団塊の世代である里中氏は、小学校1年生のときに創刊された『なかよし』で、手塚治虫の『とんから谷物語』と出会う。連載ページ数が今よりも格段に少なかった時代。幼い里中氏は、毎月物語の続きをわくわくしながら待ち、小遣いを握りしめて本屋へ通ったという。

撮影:北条かや
「もちろん私は、マンガだけでなく活字の本も読んでいました。でも、活字だからといって無条件に信じていいのかというと、そうではないと思う。たとえばおとぎ話の『シンデレラ』。美しい女性は何も努力しなくても、王子様に見初められてめでたし、めでたしという物語です。王子様のほうも、舞踏会で少し踊っただけでシンデレラを好きになり、靴のサイズひとつで国中を探し回る(会場、笑い)。あげく皇太子妃になったシンデレラに、それまでいじわるをしていた継母や姉たちは急に優しくなります。これは自らの悪行を恥じてというより、お姫様という『権威』にひれふしているだけですよね」(里中満智子氏)

ときおり笑いを誘いつつ、里中氏は「活字の権威」がはらむ問題点に迫っていく。「たとえば、これも教育的観点からよしとされる日本の昔話『かちかち山』。も、「仲間と一緒に復讐を果たして良かったね、というだけで終わっています」(里中氏)。確かに、子どもたちが慣れ親しむおとぎ話のなかには、世界を善悪二元論でとらえて単純化していたり、女性が受動的に描かれたりするなど、ジェンダーバイアスのかかったものも少なくない。

 里中氏にとっては、そうした活字本より、よほど人生の役に立つと思われたのが『鉄腕アトム』だったという。「鉄腕アトムでは、敵の立場からみた『正義』が積極的に描かれるんですね。どちらが一方的に正しいという表現ではない。登場人物たちは皆、他者との交流を通して自己を客観視するようになっていきます」(里中氏)。

優れたマンガは、絵やモノローグという分かりやすい記号を使って、複雑な立場にある「私たち」をあぶり出す。読者は登場人物の誰かに感情移入し、共感し、また新しい世界を知る。これが「学び」でなくてなんだろうか。

「学びにつながるマンガ」とは何か、選定の苦悩も

当たり前だが、どの作品のどんな部分が、その人の「学び」や「新しい世界の発見」につながるかは千差万別。「学習マンガ」として150作品を選ぶ過程で、そうした苦労はなかったのだろうか。里中氏は「もちろんありました」という。

「全ての作品が学習マンガだ、という考え方もできるわけですし、ジャンルで分けようとしても、ある作品が『歴史』なのか『社会』なのかは意見が割れることもあるでしょう。悩みましたが、基本的には1人の作家さんにつき1作品ということにしました。結果的に、その作家さんの代表作が入っていないこともあります」(里中氏)

選考ではまず、それぞれの選考委員が自分の推薦作品を数十冊ずつ持ち寄り、合計300~400冊の中から、半日かけて議論し、選んだという。当然、選ばれなかった作品もあるが、どの作品が選ばれ、そして選ばれなかったか、ということは本質的な問題ではないのかもしれない。大切なのは、これまで活字よりやや「劣ったもの」とみなされていたマンガ作品を、「新しい世界の発見につながる」としてオーソライズする試みそのものだ。権威付けというと誤解を生みそうだが、まとまって「学習マンガ」と名づけることで、図書館の司書が紹介しやすくなったり、学校現場で話題に乗せやすくなったりする可能性もある。物語との出会いは、活字だけでなくてもいいはず。筆者も最近、安野モヨコ氏の『働きマン』を読み返し、一働く女性として奮起したところだ。誰にとっても「学習マンガ」は存在するだろう。

今年からはウェブサイトで、「これが俺の学習マンガだ!」なる新プロジェクトも始まった。あなたにとっての「学習マンガ」を投稿し、SNSでシェアできる。友人や知人がどんなマンガから影響を受けたのか、そこから何を得たのか、共有し合うのも楽しそうだ。あなたの世界を広げた1冊は何だろう。読書の秋に、ぜひマンガも加えてはいかがだろうか。
[ PR企画 / 日本財団 ]

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