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ワルが「拝啓」ではなく「前略」で荒稼ぎする理由

ルポライター 多田文明=文

2020東京五輪がらみの詐欺が続発中!

はやくも2020年東京五輪へのカウントダウンが始まっている。

しかしながら、当初の予算より大幅に金額が膨れ上がったため、競技会場の再選定が議論されるなど、まだまだバタバタしそうである。そして今後、時流にのったオリンピック絡みの詐欺に注意が必要だが、すでに、オリンピック関連の詐欺により数千万円もの金額を騙し取られる事件が続発している。

この手口では、まずオリンピック財団や、オリンピック協会などさも存在しそうな団体名を名乗り、高齢者たちに、電話がかかってくる。

「東京オリンピックのチケットのご購入ありがとうございます」

しかもその購入金額が約300万円と聞いた高齢者は驚き、「申し込んでいませんよ」と強い口調で答える。

「ですが、あなたの名義で、チケットの申込みをされています」と、電話口の担当者は困惑ぎみに答える。

この手口には様々あり、「あなたの名義で申し込みがされている」という以外にも、「あなた名義で、当社の口座にお金が振り込まれていますよ」ということもある。

その人物は、「調べた結果、あなたの個人情報が犯罪者集団に使われているようですね」と畳みかける。購入していない事実をわかってもらえたという安心感を抱く反面、個人情報が勝手に利用されている不安心を煽ってくる。

その後、警察や弁護士を騙る人物から電話があり、「あなたの銀行口座が犯罪集団に使用されているので、このままだと口座が差し押さえられる。年金も振り込まれなくなる」などと脅される。そして、個人情報リストの削除費用、手数料など様々な名目で、お金を騙し取られてしまう。

今どきの詐欺師は「拝啓」より「前略」を使う

2013年の東京五輪開催決定から、オリンピックがらみの詐欺は多かったが、手口がバージョンアップしきている。

以前は、事前に地域限定で入場券を購入できるパンフレットやはがきを送っておいて、その後に「チケットを買いませんか?」という電話がかかってきて、購入を促す。また、「そのチケットを購入したい」という大手旅行会社を名乗る業者が電話をかけて、「チケットを買えば、高値(購入価格の3倍)で買い取りますよ」といってきた。

つまり、消費者自らの意思に任せた形で申し込ませて、入場券代を騙しとろうとする手口だった。この形だと、本人に思いつかせる形を取っているので、嘘の発覚を遅らせることができた。ただし、詐欺師にとっては、お金を騙し取るのに手間や時間がかかることがマイナスだった。

しかし今は、その前段階をすっ飛ばして、「あなたは、チケットを買っています」と言ってくる。この騙しの肝は、手紙でいえば、「拝啓」から、「前略」の手口にもってきている点だ。

「拝啓」であれば、時節の挨拶やご機嫌伺いを入れながら、丁寧な文面から入る。「暑さ厳しき候……」そして「いかがお過ごしでしょうか」などと続く。

それに対して、「前略」はそうした挨拶を省いて、要件から入る。まさに、この詐欺の手口も「入場券を買いませんか?」という最初の導入部分を割愛して、いきなり「あなたは、入場券を買っています」と要件から入ってくるのだ。

突然、要件を浴びせられると、電話を受けた側は、一気に相手のペースに乗せられてしまう。そして、多くの人は、考える間を与えられずに、次々に偽警察や弁護士などの語る話に聞き耳をもってしまうことになる。

営業や交渉は、「拝啓」「前略」どちらが効果的か?

ビジネスにおける交渉においても、どちらの話し方で進めるかが大事になる。営業にとって、拝啓型の礼節を重んじての対応は大切なことだ。「今日は暑いですね。最近はいかがですか?」という挨拶言葉から、じっくりと交渉に入る。

しかしながら、相手と話す時間が限られていたり、揉めそうな案件を切り出さなければいけなかったりする時、こんな悠長な話をしていられない。そんな時は、余分な部分は省き、最短距離で相手の心に突き刺すことになる。

拝啓型が、A地点から、B地点にいって、C地点にいくという話のルートであれば、前略型は、一気にAからC地点に向かわせて、結論を早めることになる。

私事で恐縮だが、以前に、雑誌のインタビュー取材を受けたものの、数カ月間、ギャラ(規定の謝礼金)が払われないことがあった。記事を執筆したライターからは何の連絡もないので、ライターの上司にあたる編集者にこの件について電話をすることにした。

「お世話になります。以前の○○号でインタビュー取材を受けた『多田』と申します。その節はありがとうございました」と丁寧に、ことの経過を述べて、最後に次のように締めくくった。「申し訳ないのですが、なるべく早くお支払い願えますでしょうか?」

すると、編集者は、驚いた様子で「そうでしたか。私自身、編集部から担当部署が変わってしまったので、目が行き届かず失礼しました」と非礼を詫びた後に、「すぐにお支払い致します」という。

「すぐに」という言葉を聞いて、一端は安どしたものの、その後、たびたび銀行口座を確認するも、まったく入金がない。そこで、元編集者に電話をするも、まったく連絡がつかなくなるなど、数週間が経過してしまった。もはやこれは、拝啓型で丁寧に依頼している場合ではないと判断した。

そこで、私は雑誌の編集部に電話をかけて「編集長ですか、この件の責任者を出してもらえないか」と直談判をしたのだ。電話に出た人には、「○○号のインタビューを受けたが、数か月以上もギャラが支払われていない」と要件のみを告げ、口調も「支払いをお願いします」とやんわりしたものではなく、「早急に払ってください!」という語気を強めたものにした。その後、決裁権のある人からすぐに電話があり、3日後に入金されることになった。

「前略」型のほうが相手にダイレクトに伝わる

こうした前略型では、相手の意思とは関係なく、一方的にこちらの要求を突きつけるため、その要求や意見がダイレクトに相手に伝わりやすい。急なトラブルによる問題解決や、揉めそうな案件ですぐに上司に決断を急がなければならないといった事態ほど、有効になるだろう。

ただし、前略型で話を切り込むためには、正論が必要になる。私の場合は「インタビューに答える仕事をしたので、お金(謝礼)を頂戴する」という正論である。それが、正論とまではいかなくても、多くの人が納得できるような根拠が必要になる。

この点、詐欺師は巧みである。

先のオリンピック詐欺を見ても、入場券購入の話自体は嘘ではあるが、多くの高齢者が納得してしまうような「あなたの名前で、入場券が買われています」「あなたの個人情報が洩れています」という話を展開している。

だれもが納得できる道理や主張があれば、前略型を行うことで、一気に結論へと話を導ける。しかし、もし正論なしにこれを行えば、ただの無鉄砲ということになりかねない。目の前の案件を、拝啓型でじっくり話を進めるのか、前略型でことを構えるのかは、その時の状況にもよるが、そこには、相手を納得させられるだけの正論があるかが、大事なる。

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