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【書評】トッカン-特別国税徴収官 高殿円著

トッカン―特別国税徴収官―
トッカン―特別国税徴収官―

書店で偶然発見したのが本書を購入したきっかけだ。本書は大学生や新人社員に特にお勧めする。近年多くの企業がインターン・シップ制度を採用し、学生にとっては生の仕事を経験出来る機会となり、企業にとっては、エントリーシートや面接などでは把握しきれない学生の本当の仕事力を見抜く機会として役立っている。しかしながら、やはり数週間、数ヶ月程度の実施では、学生と社会人とのギャップを完全に理解するには短すぎるし、仮に金銭的報酬がないのであれば、ある程度「お客さん」になってしまうので、本来の意味で「仕事」を経験することは難しいだろう。

さらにリーマンショック以降、元気のないマーケットに、各国の財政問題が加わり(リーマンショックのツケが原因ではあるが…)企業の危機的状況は益々加速し、雇用や人材育成の余裕がないのが現状であろう。例えば、僕の知る業界では、流動性が高いため、常に採用活動自体は毎年のように行なっているが、人材が宝であり、コストであるため必要以上の人材は採用しない。その為、そのしわ寄せは、ジュニア世代に集中し、彼ら自身の力不足が原因となる場合も当然あるが、何より最近目立つが、厳しい仕事環境に耐え切れずに(給料と仕事の厳しさが見合わなくなった?)自ら去る若手社員が多いようだ。少し期待が大きすぎたことも要因としてあるのかもしれない。

さて前置きが長くなってしまったが、本書は税金滞納者から問答無用で取り立てを行なう、皆の嫌われ者ー徴収官、その中でも特に悪質な事案を担当する特別国税徴収官(略してトッカン)である新人社員と表面上、冷血無比に見えるその上司を中心として物語が形成されている。

税金を滞納する人達は、主に2種類に分類されるようだ。1つは、「経営が厳しく、払いたくても払えない人達」である。このような人達からは疫病神扱いされて、すげなく追い返されたり、どなりちらされたりする。2つ目は「資産家で、払いたくないから払わない人達」である。彼らは二重帳簿をつけたり、トイレの便器に現金を隠したり、あの手この手を使って納税逃れを試みる。このような人達と日々戦う姿を、新人と上司の心理描写と共に、とても丁寧に描いている。税を巡って繰り広げられる人間ドラマは、きれいごとでは済まされない。時に罵声を浴びせられて、落ち込んだり、上司から叱責されてストレスがたまったり、同期社員との競争があったり、と公務員とはいえ迫力がある。

僕は本書を読んでいて、自分の新人時代の情景が脳裏に浮かび上がってきて、思わず目頭が熱くなってしまった。僕は元来からハートで商売をするタイプの人間なので、上司や同僚社員とタッグを組んで熱く戦ってきたつもりだ。会社であるから有能な上司もいれば、自分の出世のために部下を利用するだけの取るに足らない上司も、もちろんいた。本書に出てくる上司は、一見冷血無比で、自分の出世のためだけに奔走する人間に見える。ところが、1つ1つの行動や言動から、それが部下を育てるための愛のムチであるとわかる。そんな所に昔出会った有能な上司を思い出し、心が熱くなったのだ。

有能な人は、あまり言葉に出さない。「気づけ」という無言の教育をするのだ。僕は金融のことしか分からないので、金融業界の例え話になってしまって大変申し訳ないが、帰りがけにPCの電源をあえてOFFにせずに、自分が苦労して作成した資料やスプレッドシートを部下に見せるのだ。さらにヒントを与えるような助言をして、遠回りの叱責をしたりする。また、時に大きなミスをしてしまうこともあるだろう。落ち込んでないフリをして強がっていても、出来る上司は簡単に見破る。何も言わずに飲みに連れて行ってくれることもあるかもしれない。

僕の知る業界は、確かに厳しい環境かもしれない。はっきりいって、質問もほとんど出来ない。「てめーで勉強して来い!バカはいらねー」という言葉が春先になると毎日のように聞こえてくる。でもそんな中に人間ドラマが隠されているのかもしれない。

昔懐かしい時代を思い出させてくれたことと、仕事への活力を改めて起こさせてくれたことに感謝したい。本書は仕事人達に明日への希望を灯す、熱い職業エンターテインメントだ。家族よりも長い時間を過ごすであろう職場を見つめなおす良い機会となるかもしれない。買って損はないだろう。まあきっとこの手の作品は、近い将来ドラマ化されるだろうが(笑)

参考文献
トッカン―特別国税徴収官―

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