記事

給食費未納はモラルの崩壊か?――背後に隠れた子どもの貧困とは / 『給食費未納』著者、鳫咲子氏インタビュー

2/2

不思議な会計システム

――「給食費未納の生徒のせいで、ほかの子どものおかずも減ってしまう」といった話もありますが、0.9%の未納があっても、そんなに問題があるとは思えません。どういうことでしょうか?

この統計を見る上で注意したいのは、0.9%は全体で平均した値であるということです。未納の児童生徒がいた学校の割合は、中学校では61.7%、小学校では52.7%です。つまり、中学校では4割、小学校では5割の学校で、給食未納者はゼロだといえます。つまり、未納がほとんどない学校もあれば、集中している学校もあります。

――地域格差があるのですね。

そうです。そのうえで、学校給食の特殊な会計方法が、未納問題の解決を困難にする一因になっているともいえます。給食費は会計上自治体の教育委員会で管理する「公会計」と、学校校長名義の口座で管理する「私会計」の二つに分けられます。前者が3割、後者が7割です。日本では各学校ごとに給食がはじまった歴史があるため、私会計のままの学校が多いのです。

公会計であれば、未納者がいても、自治体の負担になります。しかし、私会計の場合、学校内でのやり繰りとなり、未納分がほかの生徒の負担になったり、食材購入に影響が出る場合もあります。報道されている埼玉県北本市のようなケースが起こるのは、未払いが多い私会計の学校で深刻化するといえるでしょう。

私会計の問題点はいくつかあります。一つの学校で1000万から2000万の給食費になりますので、これだけの金額を会計法規によらない私会計でやろうとするのは会計の透明性の観点からみても問題でしょう。

また、私会計の場合、給食費の徴収管理が教職員の負担になってしまいます。ただでさえ、忙しい教育現場において、学校教員が未納問題に対応するのは厳しいし、教育上も適当ではありません。子どもが負い目を感じ、学校に来たくなくなるなどの弊害が心配されます。また、未納が表面化しないよう、教員や他の私費からの立て替えで補てんしている学校もあると聞いています。

加えて、私会計は未納率を増加させている可能性もあります。私会計の場合、引き落とし手数料の関係で、給食費の口座振替ができる金融機関が限られています。生活費の口座から自然に引き落とされない場合、兄弟で違う学校に通っていたりすると、支払いがうっかり遅れてしまうこともあるでしょう。

先ほど紹介した神奈川県海老名市での未納家庭への聞き取り調査でも、支払い遅れの3割が「銀行にいく時間がなかった」という理由を挙げています。

sakiko1

払わないから食べさせないのか

――給食費を支払っていない子どもに対して「給食を食べさせなくてよい」という意見がありますが、それについてはどう考えていますか。

私が疑問を感じるのは、給食を食べさせる/食べさせないという問題に対して、親と自治体の関係性ばかりが重要視されている点です。

子どもの権利条約の第3条では「子どもに関するすべての措置をとるに当たっては、行政当局によっておこなわれるものであっても、子どもの最善の利益が主として考慮されるべき」とあります。親との関係において、給食を停止することは、この条項に反しています。子どもは親と別の人格として尊重されるべきです。

給食制度発足の理念からも外れています。もともと給食はお弁当を持たない「欠食児童」だけを対象にはじまりました。子どもの貧困対策が目的だったのです。昭和7年の学校給食臨時施設方法に関連する通知には、「貧困救済として行われるような印象を与えることなく、養護上の必要のように周到に注意をはらうこと」と書いてあり、給食を受ける子どもが負い目を感じないように苦労していました。大災害、戦争など多くの子どもの栄養確保が必要とされる辛い時代を経て、全員の子どもに給食が行われるようになりました。

一方で、現在は問題を抱えているかもしれない家庭の子どもに対し、「食べさせない」という対処法をとろうとしているわけですから、本末転倒と言わざるを得ません。強権的な戦前の政府よりも、現在の一部自治体のほうが、配慮が足りていません。給食費未払いの家庭は仮に修学旅行費を払ったとしても、修学旅行にも行けない状況もあるのです。

だれもが親に恵まれるわけではありません。給食費を払っていない家庭は、その背後に複合的な問題を抱えていると私は考えています。親にメンタルヘルスなどの問題があり家計の管理が不十分だったり、借金や、DVや虐待があったり。経済的に困難な家庭に、社会的孤立など困難な状況が複合的に重なっていることも多いと考えています。確信的に払わない親の場合でも、子どもにとって必要なお金を出さないわけですから、子どもが育つ上で何かしらの問題を抱えている家庭だといえます。

2014年に、千葉県銚子市の母子家庭が県営住宅の家賃を滞納し強制退去となった日に、母親が無理心中をはかり、中学2年生の女子生徒が亡くなるという痛ましい事件が起きました。この家庭は国民健康保険料を滞納していました。このような事件となれば、だれでも同情しますが、その一歩手前で見つける必要があります。問題が深刻になる前に、シグナルとして表れるのが「給食費未納」なのです。

本来であれば、給食費未納から福祉につなげられればいいのですが、いまはそのシグナルを見逃すだけではなく、子どもの肩身の狭くなる方向に追い打ちをかけようとしているわけです。行政による「虐待」と言われても仕方がないと思います。

また、給食費未納ばかりが問題にされていますが、中学校給食がないことによってひもじい思いをしている子が存在していることにも、注目してほしいと思います。

給食費などの支援を受ける就学援助を受けていたとしても、学校給食がない地域に住んでいると給食費相当の支援はありません。ベストセラー小説『ホームレス中学生』(田村裕)でも、ご飯のにおいがする教室や食堂を避け、体育館で一人バスケットボールの練習をして空腹を紛らわしていたエピソードが書かれています。

現在の中学校でも、昼食の時間はトイレに隠れている子、机に伏して寝ているふりをする子、ほかの生徒の弁当を少しずつもらってしのぐ子、親が病気で食事の準備ができず、昼食も夕食もスナック菓子ですます子。学校の先生もどうしていいのかわからないので、おひるごはんの代金を自費からこっそり渡している場合もあるそうです。

欠食児童対策からはじまったことからわかるように、給食は子どもの食のセーフティネットです。いま、子どもの相対的貧困率は16.3%と深刻です。給食のない中学では、朝ご飯を食べない子がお弁当も持ってきていないこともあります。子どもの食のセーフティネットとして、全国的に中学校給食を完全実施すべきです。また、0.9%の給食費未納をバッシングするのではなく、子どもの貧困のシグナルとしてとらえ、給食費未納を福祉の支援につなげるスクールソーシャルワークの対象として見直すことが求められているでしょう。

給食費未納 子どもの貧困と食生活格差 (光文社新書)
著者/訳者:鳫 咲子
出版社:光文社( 2016-09-15 )
定価:¥ 799
Amazon価格:¥ 799
新書 ( 250 ページ )
ISBN-10 : 4334039456
ISBN-13 : 9784334039455
鳫咲子(がん・さきこ)
行政学

上智大学法学部国際関係法学科卒業。筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了。博士(法学)。参議院事務局でDV法改正など国会議員の立法活動のための調査に携わる。2012年から跡見学園女子大学マネジメント学部准教授(行政学)。現在は、子ども・女性の貧困等に関する調査研究を行う。著書に、『子どもの貧困と教育機会の不平等 就学援助・学校給食・母子家庭をめぐって』(明石書店)がある。

あわせて読みたい

「子どもの貧困」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    貴乃花の妻 女将からは評判最悪

    女性自身

  2. 2

    よしのり氏「グッディ!」を評価

    小林よしのり

  3. 3

    PEZY関連財団は元TBS山口氏実家

    田中龍作

  4. 4

    庵野秀明 学校嫌なら逃げていい

    不登校新聞

  5. 5

    子宮頸がんワクチン 男も接種を

    おときた駿(東京都議会議員/北区選出)

  6. 6

    亀岡市暴走事故の加害者を直撃

    NEWSポストセブン

  7. 7

    NHKが受信料合憲で背負った責任

    WEDGE Infinity

  8. 8

    「日本が中国に完敗した」は暴論

    文春オンライン

  9. 9

    立民・枝野氏「法人増税が必要」

    ロイター

  10. 10

    小池劇場の終焉を天敵記者が激白

    AbemaTIMES

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。