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【TPP交渉の行方シリーズ64】日本の政策に介入を許すTPP(パート3 最終)-ISD提訴で脅して政策を歪める- 16.11.09

 そして最後に最も問題なのがISDあるいはISDSである(表「ISDの関係指標」)

<日本からみのEPA・FTAとISD>
 これについてはいつも言訳がなされる。日本は既に14本のEPA・FTAの内、オーストラリアとフィリピンを除き12本ISDが入っている(表「ISDを含む日本のEPA・FTA」)。日本が仲裁裁定したことは一度もない。だから安心だという。これは発展途上国等がクーデター等で進出した日本企業の工場を奪ったりすることに対して用意されたものであり、裁判制度も確かでない国に対してのものである。それならば先進国同士ならばいらない話だということで、オーストラリアは強行に反対し続けている。だから日豪EPAにも入っていない。ただ幸いなことに日本が提訴されたことは一回もない。

<韓国からみのEPA・FTAとISD〉
 韓国でも米韓FTAでISDが大問題になった。韓国も誇り高い国で日本以上に法曹界が、ISDは韓国の法制度を歪めるし、韓国の主権を侵害していると怒った。現役の裁判官がネットで批判を繰り広げた。そして一時は李明博から朴槿恵への引き継ぎで再交渉までしなければいけない、といった声まで起きたがその後尻つぼみとなった。2015年秋、シドニーのTPP関係会合に行ったついでに、キャンベラに赴きオーストラリアのTPP関係者との意見交換会臨んだ。丁度日豪EPAと韓国FTAの承認がかかった日であり、農相以外全党の責任者と懇談できた。豪が嫌がるISDは日豪には入っていない。韓国も嫌がるので入ってこないと思いきや、韓国のたっての要望によりISDが入ることになっていた。理由は何とも複雑で、韓豪に入っていなくてなぜ韓米に入っているのか、と再び問題になるので韓米の横並びで入れたほうが良いということになったらしい。韓国の何ともいえない微妙な立場を考えると同情を禁じえない。
 ISDはことほど左様に深刻な問題を引き起こしているのだ。ところが、ISDは日本の裁判は日本の裁判所で行うという憲法第76条に触れるというのに、不思議なことに、日本の法曹界には一部を除き全くといっていいほど動きがみられない。
 韓国は12本のEPA・FTAを締結しているが、ISDの条文が入っているFTAで付託案件はなくし、投資協定では3件が継争中である。ただ、もう既に韓国ではISDで訴えられることを想定し、萎縮効果(chilling effect)が生じつつあるという。

<世界の仲裁案件とアメリカの提訴案件>
 世界ではUNCTADの統計によると2015年末現在、696件が投資協定のもと仲裁裁定に上っている(表「国際仲裁の利用の状況」)
マルチの貿易協定で、真っ先にISDがきちんと盛り込まれたNAFTAでは、1994年~2016年の22年間の間に69件が裁定付託されている(表「NAFTAにおける仲裁付託案件」)。この内訳をみると、アメリカがいかにこのISDを悪用して各国に色々圧力をかけているかが明らかとなる。提訴案件はアメリカ50件、カナダ17件、メキシコ2件。被提訴はアメリカ17件、カナダ38件、メキシコ14件。つまり大半はアメリカがカナダ・メキシコを訴えているということになる。もっと象徴的なのはアメリカの敗訴0件、アメリカの勝訴が8件と、アメリカが我が物顔でISDを悪用している。

<ISOはアメリカか日本を狙う最終兵器>
 こうしたことからTPPが発効すれば目の上のタンコブの日本を標的に、アメリカ企業による日本の政策決定に対する提訴が続発することが予想される。なぜならば、アメリカの対人口比の弁護士の数は日本の15倍、世界一の訴訟社会である。弁護士を総動員して日本の政策を変えようとしてくるに違いない。

<カナダ企業がNAFTAのISDでアメリカ政府に1兆8000億円の損害賠償請求〉
 しかし、アメリカにもバチが当たりつつある。カナダのパイプライン会社がアメリカ政府のキーストンXLパイプラインの建設申請却下によって、損害をこうむったとしてNAFTA(北米自由貿易協定)のISD条項に基づき150億ドル(1兆8000億円)の損害賠償を求めたのだ。実際は30億ドル程度の損害にすぎないが、将来の逸失利益も算定しての高額訴訟である。 皮肉なことに、これはオバマ大統領が天然ガスを多く使うことは地球温暖化防止に反する、つまりパリ協定に反するということで大統領の権限によって却下したものである。オバマ大統領のいう2つのレガシー(パリ協定とTPP)がぶつかったのである。

<アメリカ法曹界に拡がるTPP反対>
 これをきっかけにアメリカの法曹界ではTPPのISD条項がアメリカの法的システムと相容れないとして、TPP反対が急速に広まりつつある。オバマ大統領のハーバード・ロー・スクールの指導教官のローレンス・トライブ教授もその先頭に立っている。TPP反対は一つは職を奪われるのではないかと心配するアメリカの労働者、もう一つはアメリカの法曹界に広まっている。いずれにしてもTPP反対の声が大きくなるばかりである。これが2人の大統領にも反対と言わしめていることを忘れてはならない。

<まじめな日本の役人への委縮効果>
 そして日本への悪影響は甚大である。ずっとアメリカと付き合ってきた日本の役人は、当然アメリカの考え方を伺って、日本の政策決定がしにくくなってしまう。
 この件の具体的な例として、10月28日のTPP特別委員会で私は高額・薬価問題で既に質問している。日本には特例拡大再算定、つまり薬の年間売上高が1,000億円を越えた薬は、それだけ売れていて儲けているのだから、翌年は薬価を安くしろというルールがある。日本の従順な企業ならそれを守るが、2015年に売上高ナンバー1は、アメリカのサイエンス・ギリアド社のハーボニーが占めた(表「2015年医薬品売上高ベスト10」)。1粒8万円、12週間飲み続けるとC型肝炎ウイルスが完全に消えるという効果絶大な薬である。高価と問題になったインターフェロンに代わる特効薬なのだ。日本に200万人いるといわれるC型肝炎ウイルス保持者にとっては救いの神になっている。その結果2015年第一位の売り上げを記録し、1,000億円を越えたので8万円から5万6千円に下げさせられている。

<特例拡大再算定制度はISDの標的第1号か>
 もしもTPPが発効していたら、ギリアド社は黙ってはいまい。何故かと言うと、私の知る限りではギリアド社は2度新聞に一面全面を使った広告を出している。広告費も馬鹿にならない。ギリアド社からすれば営業努力によって売上を伸ばして1,000億円を越えたのにもかかわらず、儲けているだろうからといって政府が勝手に価格を下げろと命じるのは許し難いことになる。世界では社会保障(医療保険)にも直接関わるので、薬価の決定には国が関与している。しかし、アメリカは民間企業が決めている。TPPは何でもアメリカのルールに従えというのが基本原則だから、当然それに合わせるようにしろとISDではつっかかってくることになる。

<巨額の献金とすさまじいロビー活動でTPPを後押しする製薬業界>
 アメリカのロビー活動の中で、現在最も盛んにロビー活動しているのは製薬業界である。そして、TPPを最も真剣になって推進してきたのも製薬業界である。アメリカではハッチ上院財政委員長への巨額の献金が取沙汰されている。そのためにハッチ上院議員が強硬に生物製剤のデータ保護期間12年から8年への短縮に不満を述べているといわれている。
 私はブルネイ以来、甘利TPP担当大臣が交渉する閣僚会議に民主党代表として何度も行ったが、いつでもどこでも日本からは農業関係者、アメリカからは医薬品関係者が大挙して押しかけていた。医薬品関係者はシンポジウムまで開くという熱の入れようである。

<日本にも手を伸ばす薬品業界のロビー活動>
 医薬品業界は日本にもロビイストを常駐させている。ああ、あの人かと大半の国会議員は顔が思い浮かぶのではないかと思うが、日本人と同じように背が低く、すぐ我々国会議員の名前を憶え気軽に名前で呼んでくる。アメリカの製薬会社のトップが来日すると、議員会館のすぐ近くのキャピタル東急で盛大な歓迎レセプションが開かれる。国会議員に案内が行く。
 私は忙しいし、それほど関係が深くないのでめったに行かなかったが、閣僚会議に行って名刺を交換した関係で招待状が来るようになって、一度だけ行ったことがある。それほど大手の製薬会社ではなかったが、関係国会議員から元アメリカ大使、外務省・厚生労働省関係者等が大挙して出席していることにビックリ仰天した。アメリカは何事にも戦略的である、日本にもロビー活動の手を伸ばしてきている。

<これでは独立国家とはいえなくなる>
 アメリカは日本の政策に対して、まずTPPに入る前にあれこれ注文をつけ、二国間交渉で入場料をものにしている。例えていえば、BSE牛肉の要件緩和、自動車交渉での大妥協(2.5%の関税は15年間維持、トラックは25%にまま30年目に撤廃)等である。そして、2番目にTPP交渉でさんざんアメリカのルールを押し付ける。3番目は、TPP委員会を通じて常に日本の政策の変更を求める。そして最後の4番目はISDである。後から文句をつけるばかりで、国から損害賠償金をせしめよういうあくどさである。
 このように、日本が独立国家とはいえなくなるTPPに入るのは私は絶対に反対である。

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