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社長から「副業したら?」と言われてショックだった──会社一筋の執行役員が副業を始めた話

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「副業とか、してみない?」「僕が、ですか……?」

サイボウズ青野
松村さん、ひとつ提案があるんだけど。

サイボウズ松村
なんでしょう?

サイボウズ青野
考えたんだけどね……。

サイボウズ松村
はい。

サイボウズ青野
副業とか、してみない?

サイボウズ松村
え……? 僕が、ですか……?

サイボウズの執行役員である松村克彦が、51歳にして、社長の青野慶久から「副業」の提案を受けました。なぜ執行役員が、この年齢にして副業を?松村はどんな仕事を始めるのか、そして副業をすすめた社長 青野の狙いは……。

二人の思惑が交錯する「副業物語」が今年の1月、ひっそりと幕を開けたのです。そこにはどんなストーリーがあったのでしょうか。お二人を別々に取材をして、当時の心境を伺ってみました。

「『会社に必要ない』と言われた気がした」。松村さんの心境

fukugyou_matsumura_aono_01.jpg 松村 克彦(まつむら かつひこ)。1964年生まれ 52歳 1991年 東京工業大学総合理工学研究科修了 バブル採用最終年に日本興業銀行 (現みずほ銀行)に入行 2007年 サイボウズ入社。 内部監査部門を経て、2010年から社長室長として、行政連携や地域でのクラウド活用を推進中。

カツセマサヒコ
松村さんは、執行役員というポジションで現在51歳。本来ならこのまま定年までサイボウズにいるつもりだったのではないかと思いました。副業の提案を受けたとき、正直、嫌だったんじゃないですか……?

サイボウズ松村
「嫌」というよりは、「ショック」という感覚でした。サイボウズに勤めていることが自然だったし、それが今後もずっと続くと思っていましたので。

カツセマサヒコ
社長からの突然の「副業」の提案。すんなり受け入れられたのでしょうか?

サイボウズ松村
青野から提案をもらう以前から、「副業は会社に必要な制度だよね」とか、「50代の労働力が固定化しているよね」という話はしていましたし、一般論では理解していたんです。でも、まさか自分がしろと言われると思っていなかったし、いざ「松村さん、副業どう?」と言われると、さすがに「うーん、もしかしたら、俺、会社に必要ないって思われてる……?」と感じてしまいましたね……。

カツセマサヒコ
そのショックから、どのように立ち直って、受け入れていったのでしょうか?

サイボウズ松村
副業の提案を受けたのが2016年の1月で、そこから2カ月くらいは、自分の仕事が認められてないじゃないかという想像と、いや会社としてもチャレンジすべき分野なんだという、心と頭の葛藤を整理する時間が必要でした。 あくまでも業務命令ではなく「提案」だったので、「いやいや、僕はサイボウズ一筋なんで」と断る選択肢もあったんです。でも、提案にはきっと意味があると思ったし、せっかくだから、じっくり整理してみようと思いました。

そのときの青野さんの心境は……

カツセマサヒコ
松村さん、副業の提案がショックで、2カ月ほど悩んでいたのだそうです。

サイボウズ青野
え! そんなに悩んでたんだ!?(笑)

カツセマサヒコ
青野さんは、なぜ松村さんに副業を勧めたのでしょう?

サイボウズ青野
彼の性格や行動を見ていて、次のステップには副業がいいんじゃないかと思ったんです。僕は社長なので、直接の部下である役員メンバーがどうしたら成長するかいつも考えているんですけど、僕の部下って、ヤンチャな人が多いんですよね(笑)。ヤンチャな人は、好き勝手できる「場」を渡しておけば勝手に成長するんですけど、でも、松村の場合はバックグラウンドがちょっと違ったんです。

カツセマサヒコ
松村さんは、銀行から転職されてサイボウズに入社したんですよね。

サイボウズ青野
そう。彼はいわゆるエリートで、メガバンク出身の銀行マン。まさに『半沢直樹』的な人生を歩んできた人です。サラリーマン気質が強いぶん、僕の言うことは必ず守るし、火事場の力もとても強くて、問題が起こっても絶対に逃げずに向きあえる。ほかの執行役員とは違った特性を持っていました。だからこそ、ほかのメンバーとは違うステップを提供しなきゃいけなかったんです。

DSC03421-Edit.jpg 青野 慶久(あおの よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。2011年から事業のクラウド化を進め、有料契約社は000社を超える。総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。

カツセマサヒコ
それで松村さんに「副業」というステップを提案されたんですか?

サイボウズ青野
こういうタイプの人間には、僕からある程度具体的な提案をして、成長を促す必要があると思いました。でも、それが「副業」という選択肢になるまで、2年近くかかりましたね。

カツセマサヒコ
2年も考えられたんですか!

サイボウズ青野
僕自身の発想も貧困だったんでしょうね。「副業」というアイデアが出るまで、松村さんに次のステップを用意してあげられず、ずっと悩んでましたね。

カツセマサヒコ
悩んだ末に出てきた答えが、どうして「副業」だったのでしょう?

サイボウズ青野
彼は「社長室」という部署にいるのですが、この部署の取り組みである「社外と接点をもつ活動」を、かなり精力的に楽しそうにやっていたんです。それを見て、「ああ、この人はもっと社外に出ていいんだ」と確信しました。そこで、いつまでもサイボウズの社員じゃなくて、もう外に出るつもりでやれよって、背中を押してみることにしたんです。

松村さんが悩んだ末に見つけた「やりたいこと」

カツセマサヒコ
副業の提案から2カ月間悩み続けて、そこからどのような心境の変化があったのでしょうか?

サイボウズ松村
ある日、「これ、もしかしたらチャンスなんじゃないかな?」と思ったんです。それまでは、「自分が社会に対してやりたいこと」=サイボウズの企業理念である「チームワークあふれる社会をつくる」だったので、他に何も思いつかなかったんです。けど、副業について考えているうちに「本当にそれ以外ないのか? 自分でやりたいことって、他にもあるんじゃないのか?」と思えるようになって。

カツセマサヒコ
自分がやりたいことを、もう一度見つめ直すきっかけになったんですね。

サイボウズ松村
そうです。そこから、「自分探しの旅」を始めたんですよ。51歳にして(笑)。

カツセマサヒコ
自分探しって、具体的にどのようなことをされたんですか?

サイボウズ松村
「『やるべきこと』『やりたいこと』『できること』の3つが満たされると、人は充実した状態になる」という弊社のモチベーション創造メソッドがあるのですが、これに則って、自分が何をやったら楽しいのか、どういう世界を実現したいのか、改めて書き出しながら、整理していったんです。

カツセマサヒコ
整理した結果、どのような答えが出たのでしょう?

サイボウズ松村
僕がやりたいことは、高齢者や障害者、いじめ被害者や貧困家庭など、社会的弱者とされる人たちが生きやすい社会をつくること。「学ぶ機会」ではなく「自らの幸せを追及する社会」、すなわち「インクルージョンな社会を実現すること」だと思ったんです。これを、自分の手が届く範囲からつくろうと思いました。

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カツセマサヒコ
なぜその領域にチャレンジしようと思ったんですか?

サイボウズ松村
最初は、自分のこれまでの経歴を考えて、「コンサル事業をやろうかな」とざっくり考えていました。でも問題は、その対象をどこに向けるか。いろいろ悩みながらたくさんの市場を見ていたとき、障害者など社会的弱者の支援に興味が沸いたんです。

カツセマサヒコ
そこから「インクルージョンな社会の実現」につながるんですね。

サイボウズ松村
障害者支援に直接的に携わりたいというよりは、インクルージョンな社会をつくるために、障害者支援業界を変えたいと思ったんです。大学を出て就職しても、福祉業界は薄給です。そこで働いている人たちが普通に結婚して家を建てて暮らせるようになってほしいし、高いサービスを提供して障害者とそのご家族たちも幸せに暮らせるようになってほしい。

カツセマサヒコ
それはサイボウズではできない領域だったんですか?

サイボウズ松村
サイボウズの根幹となる商売はソフトウェアの販売なので、ご購入いただくまでですが、例えば障害者支援をしている地方の団体となると、IT化以前に経営や体制の問題を抱えていたり、ITの利用イメージがなかったり、サイボウズの主領域とはズレてくるんです。そこに副業として関われたら、という狙いがありました。

「外に目が向くようになった」。青野さんが語る副業を始めてからの松村さん

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カツセマサヒコ
青野さんから見て、副業に向けて動き出した松村さんはどのように映りましたか?

サイボウズ青野
いろいろと活動を始めてみて、難しさにも気付いたみたいでした。サイボウズの仕事がありつつ、副業もお金にしないといけないのに、時間はあまり割けない。大変なことですし、半端な覚悟じゃできないですよねえ……見ているのは簡単なんですけど(笑)。

カツセマサヒコ
客観的に見て、松村さんは副業を始めてどのような点が変わったと思いますか?

サイボウズ青野
外に目が向くようになりましたね。これまでは僕の言ったことを理解して、忠実に動こうとするところがあったのですが、「俺を向くな。外を向いてニーズを拾ってこい」という意図が伝わったのか、少しずつですけどきちんと行動に見られるようになりました。

カツセマサヒコ
副業のことで、何か相談を受けたことはありましたか?

サイボウズ青野
いや、あんまりないですね。僕、相談に関しては、役に立たないので(笑)。経過報告は聞いていたんですけど、僕も答えがわからなくて。松村さんがどんな副業をするのか、それがどのように次につながるのか……答えは松村さんの中にしかないですから。

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