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コンピュータには無理な仕事

さて、「機械に(仕事を)奪われる」云々とは随分と昔から言われてきたものです。まぁ「今時の若者は」の類いは古代エジプトの時代から存在したらしいですから、これに比べれば歴史は10分の1くらいではあります。もっとも、我々が生まれるよりもずっと以前から繰り返されてきた、カビの生えた文句であることは言うまでもないでしょう。そして現代は誰もが知っているとおり、人類が労働から解放された時代ではない、むしろ(本当か嘘かはさておき)労働力不足が絶えず叫ばれているわけです。

 率直に言って「機械に(仕事を)奪われる」あるいは「コンピュータに取って代わられる」の類いは鼻で笑っておけば良い印象ではあります。ただ良い機会ですので、どういう仕事なら「代わられうる」のか、どういう仕事なら「代わられない」のか、少し考えてみましょう。たとえば近年、世界最強の呼び声が高い棋士にコンピュータが囲碁の勝負で勝ったりですとか、医師が見つけられないでいた治療法をAIが先行して発見したり等々、近年は人口知能の発達が著しくもあります。では、人工知能は何になら代わることが可能なのでしょう?

 最先端のコンピュータであれば、囲碁や将棋は人間に勝る、部分的にではあれ医師よりも優れているのかも知れません。しかし、二本足で歩くことに関しては、何千万円以上するロボットですらその辺のガキや老人に及びません。コップを持ったり、階段を上ったり、ご飯をよそったり等々、この辺は人間の方に分があります。機械は計算すること――すなわち(模擬的に)考えることは得意ですが、己の身体を動かすことは、率直に言って「まだまだ」のようです。

 そもそもコンピュータの演算能力は今後の向上が見込まれる、高度な計算能力を持った人工知能のコストが下がっていくことも期待できる一方で、物理的な機構に関してはどうでしょうか? かつては数億円では済まなかったスーパーコンピュータと同等の演算能力ですら、10年後、20年後には携帯端末で誰もが所有するものになったいたりするものです。しかし物理的に駆動する機械の値段は、そんな劇的な変化はありません。多少は安くなっても、1000分の1になったりはしません。

 ここから推測されるのは、「知的労働」は機械(人工知能)に代わられる可能性があり、その反面「肉体労働」は機械による代替が難しい、と言うことですね。

 次は前段で出てきたコストの問題を、もう少し考えてみましょう。例えばこのブログでも以前に、「コストの問題で」介護現場に機械の導入が進んでいないという事例を紹介しました。私の職場も然り、システム化は可能だけれども、ベンダーに費用を払ってシステムを構築するより非正規社員に作業させた方が低コストなため、(まぁEXCELとACCESSは使いますが)人間の手作業で処理している仕事は多いです。製造業でも「機械でも出来るが、人の方が安い」ために、期間工なり派遣社員なりにやらせている仕事は多いことでしょう。

 結局のところ日本のように規制の緩い社会では、生産性が上がらず売り上げを伸ばせない事業者でも、「人を安く長く働かせる」ことで利益を確保できたりするわけです。人件費の高い国では、とにもかくにも生産性を高めるしか企業が生き延びる道はありません。ならば機械化、合理化は不可避です。しかし日本では「非正規で安く雇う」「サービス残業で長く働かせる」ことがソリューションになってしまいます。人を安く長く働かせれば会社の利益は出るのですから、無理に機械化する必要はありません。なにしろ機械は、高いですから!

 その辺から推測するに、「賃金の高い仕事」ならば機械に置き換えることに「事業者側のメリットがある」一方で、「低賃金長時間労働」に関しては、機械への置き換えに「事業者側のメリットがない」と言えます。

 もう一つ付け加えますと「機械は出来ることが決まっている」辺りは意識されるべきでしょう。たった一つの文法の間違いですら、プログラムは止まってしまいますし、1000円札しか使えない自販機に5000円札を入れても反応しません。機械は冷酷に人間へ「NO!」と言ってくれます。機械相手に凄んだどころで、どうにもなりません。翻って人間の仕事はどうでしょうか。依頼元(顧客、上長、取引先等々)に「ダメです」「出来ません」とキッパリ断れる仕事(立場)もあれば、無理難題にも付き合わねばならない仕事(立場)も多いように思います。

 上司の曖昧きわまりなく必要な情報の欠けた指示にも、「気を利かせて」相手の意図したとおりに仕事を進めるのがコミュニケーション能力の高い日本の社員というものです。「○○に関しては指示を受けていません」「そんなことは言われていません」みたいな対応は、日本の職場では許されません。これを人工知能が代替するのは、随分とハードルが高いことでしょう。指示を出す側に不備があっても、それを補って対応しなければならない、それどころか指示を待てば非難される、これが日本のビジネスマンなのです。

 とどのつまり依頼元(顧客、上長、取引先等々)に「ダメです」と言える、指示に不備があるなら対応しないで済ませられる、そうした「強い立場」であれば、人工知能による代替は可能ですが、そうも言っていられない「弱い立場」の人間を人工知能で置き換えるのは至って難しそうです。

 以上のことをを鑑みるに、「頭よりも体を動かす必要が多く」「賃金は安く」「立場の弱い」仕事をしている人であれば「機械に取って代わられる」可能性はきわめて低いと考えられます。むしろコンピュータに仕事を奪われる心配ではなく、自分の雇用主から不法な扱いを受けることを心配しなければいけないわけではありますが!

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