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【TPPの行方シリーズ64】 日本の政策に介入を許すTPP(パート1) -正文でなく、議会も介入、為替操作で難癖- 16.11.07

 ずっとあちこちで言い続けてきたが、重大な問題の一つは、政策立案面で日本を相当歪める条約であるということである。農業、食の安全とか医療とかいう個別の政策の問題ではなく、そもそも日本の行政・政治を捻じ曲げることになるということを最後に指摘したい。

<日本語が正文になっていない>
 まず、本当にダメな協定で日本はやられっぱなしだということが如実に表れているのは、日本語が正文になっていないということである。

 TPPはGDPの85%以上を占める国が批准しないと発効しない。だから、65%のアメリカ、17%の日本、それにカナダかオーストラリアが承認しなかったら発効しない。そして12カ国の半分の6カ国の承認。通常の発効要件は加盟国数だが、GDPの85%といった要件は珍しいことである。国数でで半分としても、大国が入っていなければTPPの実効性が得られないからであり、極めて現実的な発効の要件である。

 最近ではパリ協定も、55カ国とCO2の総排出量の55%以上を占める国が批准した時に発効されると決められている。キリバスとかモルジブといった小国が多数加盟しても、CO2排出大国が加盟しなかったら実効性が得られないからである。この55%以上という要件は、パリ協定の議論の中で日本が唯一具体的な提案をした項目である。その発想の原点はTPPのGDPの85%によったものではないかと思っている。

<GDP 85% とCO2排出量 55% という発効要件>
 ところが正文のことになると全く違ってしまう(表「GDPと正文」)。

 英語圏のGDPが73.5%で1位、2番目が日本で16.4%、3番目がスペイン語圏(メキシコ・チリ・ペルー)で6.2%、フランス語はカナダのケベック州(同国の半分もないのだけれど、半分と仮定しても)3.2%で4位である。

 ところが2位の日本の16.4%をほったらかしにして、英語とスペイン語とフランス語が正文となっている。ここに混乱が生じる。訳の間違いもあり、18ヶ所も間違いが見つかったということで問題にされている。今後解釈に問題が生じた時に日本文では勝負にならず、英語によらなくてはならなくなる。屈辱的なことである。

 細かくは議論していないが、サイドレターと称される日本とアメリカで結んだ二国間の約束事も、多分英語が正文で日本語は正文になっていないのではないかと思う。これをいうと、もともと法的拘束力はないという言い訳が予想される。日中漁業交渉とか日露漁業交渉で協定ができた場合は、両方の言語が正文になっているが、TPPがらみのものは英語だけが正文で日本語のものは仮訳となっている。国の体面上も問題だが、実務的にはもっと問題である。

<課題だらけのTPP仮訳>
 今国会において、外務省から協定の3ヶ所の誤訳と18ヶ所に及ぶ説明書の間違いを詫びてきた。議院運営委員会で釈明が行われ、膨大な資料の印刷し直しはなしで了とした。しかし、正文でないことによる問題はやはり多少あるようである。

 TPPについてアメリカから的確なアドバイスをいただいているトーマス・カトウ弁護士から、TPP協定文の誤訳ついていろいろ指導をいただいた。今回その一部もそのまま紹介する。

 まず、日本語訳文は正文でないため、あくまで仮訳であり、単なる資料にすぐないというのが外務省の見解である。つまり、解釈で揉めたりしたら条約上は結局は英文に戻らねばならないということだ。具体的な例として、投資の第9章で ① shall(しなければならない)は義務規定なのに「する」とされている箇所が多くある。 ② For greater certainty(念のために)が訳されていない箇所が多くある。 ③ その他95ヶ所の誤訳あり、と指摘している。

 3番目の明らかな誤訳に、permit(○許可する・×認める)、enforcing(○執行し・×強制し)、denying party(○否認する側の締約国・×当該締約国)、endorsed(○推薦した・×承認した)等を挙げている。

<イギリスもアメリカもグローバリゼーションに疲れてきた>
 正文は、形式的な問題とも言えるが、実際に問題となるのは、日本が政策をキチンと自ら決められなくなってしまうのではないかという心配である。

 「国際化疲れ」(global fatigue)というのがあって、あまりにもグローバリゼーション、グローバリぜーションと言ってきた事に対して世界が疲れ始めている。そのことが噴出したのがイギリスのEUからの離脱であると安倍総理に指摘した。それからアメリカ国民も疲れてきていて、TPPとかいうものよりも自分たちのことを考えてくれという声が大きくなり、その民意を汲んだサンダース上院議員は初めから大企業に都合のいいルールばかりだとTPPには大反対である。サンダースのあまりの勢いに対抗するべく、TPPを始めたクリントン自身が「今のTPPは私の目指したTPPではない」として、「雇用も増えない、賃金も上がらない、安全保障のメリットない」として反対しだした。

 トランプはハナっから「こんなダメ協定は誰が受け入れるか」と徹底的に反対している。つまり、アメリカ国民もイギリスもグローバリゼーションに疲れきり飽きがきたのである。それを日本は遅れて今頃喜んで「TPPだ、TPPだ」と騒いでいるのは、世界の潮流から大きく外れていることになる。

 安倍総理が「EUはブリュッセルに本部があって、いろいろ決めているから、イギリスがそれを嫌がったが、TPPは単なる協定だ」と言い訳をした。しかし、TPPはそんなになまっちょろい協定ではない。

<アメリカ議会がTPPの内容をチェック>
 1番目には外堀に属することだが議会が注文を付けてくることである。再交渉に応じないというけれど、その前にアメリカ議会はCERTIFICATION(証明)により、各国をチェックしてくる。(表「アメリカ国内法におけるサーティフィケーション規定の具体的内容」)

 TPA(貿易促進権限法)106条にimplementation of trade agreement と、タイトルは通商協定の実施となっているが、そのG項に「大統領は協定の締約国について協定の効力が生ずる30日前までに、協定の規定のうち協定の効力発生の日に効力が生ずるものについて、当該締約国が遵守のために必要な措置をとったと判断した旨を議会に対し書面で通知する」とある。よくわからない文章であるが、要は日本なり加盟国がTPPを守るという確証が得られなければ批准の意味はなく批准させないというのである。

<為替操作という難癖>(表「アメリカの為替操作国指定問題」)
 そして、2番目にもう一つ新しく入ってきたTPPの枠外の横槍が為替操作(currency manipulation)の問題である。これはかつて中国が不当に元を安くし、輸出攻勢をかけていることに関して盛んに言われたことである。日本の場合は市場に任せてあり、そんなことはほとんど言われたことがなかった。ところがTPPに絡み、あるいは日本の過度な円安に対してアメリカの議会からTPA法案の審議の過程で、日本を意識して導入を求める意見が続出した。

 私が直接経験したのは、閣僚会合でオーストラリアのシドニーに行ったところ、レビン下院議員が来ており、意見交換をしたが、専ら為替操作のことについてまくしたてていた。ミシガン州、デトロイトを抱える自動車工業地帯の下院議員である。

<2016年の為替報告書>
 最近この法律ができあがった。要件は3つ。 1.対米黒字が年間200億ドルを超える 2.年間の経常黒字が対GDP比3%を超える 3.年間ネットの外貨買いがGDP比2%を超えることが継続的に続いていくときに介入していく。

 この3要件を満たした国には是正に向けた政策実施を強く促すため、積極的な関与政策を開始するということである。典型的な例が報復関税である。そして3つの要件のうち、任意保険を満たす国が監視リストに名を連ねることになっている。

 2016年の為替報告書によると、3要件を満たす国はなく、日本は2つ要件を満たし、監視リスト入りしている。対米黒字が676億ドル、対GDP比経常黒字が3.7%とそれぞれ200億ドルと3%を超えている。ただ、純為替介入はゼロであり、これは全く要件を満たしていないので、今のところ為替操作にはなっていないが、こういう難癖をつけられる可能性がある。もっともアメリカからみれば一時78円くらいであった為替レートが118円と40円も上がるということは、関税を40%下げたことと同じで、アメリカがこうしたことを言い出すことはいたしかたないかもしれない。

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