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カジノ合法化の論点:我が国で「民間賭博」が生まれるか?

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さて、先のエントリではこの9日にも始まると言われているIR推進法案(通称:カジノ法案)の審議ポイントをまとめ、そのうちの最大の論点の一つが俗に「民設民営」型と呼ばれる現在のカジノ法案の示す賭博合法方式にあるということを説明しました。この点は我が国の未来の賭博統制を考えるにあたっては非常に重要なポイントとなりますので、本日はさらに深くこの点に関して説明してゆきたいと思います。

1. 日本の公営競技は、すでに「公営ではない」

我が国では、既に競馬、競艇、競輪、オートレースの4事業が、「合法的な賭博」として認められています。これらは一般的に「公営競技」と総称されていますが、その実態はすでに「必ずしも公営ではない」ということを皆さんはご存知でしょうか。実は、我が国で採用されている公営競技制度では、すでに民間事業者の一部事業参入を認めており、公から事業受託をするという形式で、公営競技場の開発や運営に対して民間事業者が大きく関与している例が沢山存在しています。

賭博の実施にまつわる法律的権限は、厳密には「施行」「開発所有」「運営」の3つに分類されます。「施行」とは、法律上「一義的」に付与される賭博事業の実施権限。これまでの我が国における賭博行政の中では、この施行権は公的主体のみが保持できるものとして運用が行われてきており、これこそがまさに我が国の賭博が「公営賭博」呼称される所以でもあります。

一方、実は現在の我が国における賭博行政ではこの施行と分離するものとして、「開発所有」と「運営」という2つの権限を設定しています。開発所有とは、文字通り公営賭博競技の開催を行う施設そのものを開発所有する権限。一方の「運営」とは、その当該施設内で行われる様々な賭博事業、もしくはその一部を運営する権限であります。そして先述の通り、実は既に我が国の公営賭博の世界では、この施設の開発所有と運営に関しては既に大元の施行権を保有する好敵手体から事業受託をするという形式で民間事業者による参入が認められているのが実態です。

例えば、埼玉県の競輪場である西武園競輪は、その開業当初から西武鉄道グループが施設の保有をしていますし、大阪市の住之江競艇場は南海鉄道グループの住之江興業が施設全体の保有を行なっているほか、「自治体からの受託」という形で公営競技場の運営全般を取り仕切っています。但し、繰り返しになりますが、これらは全て大元の施行権を「公」がコントロールしているという前提の事業。なぜなら我が国の刑法はその第185条において賭博を原則的に禁じており、公が公たる目的をもってそれを執り行う事業として別法にそれが定められる時のみ、例外的に賭博が合法のものとして存在できるというのが我が国における原則的な刑法解釈であったからです。

一方、前出の通り、今月9日にも審議が始まると言われているカジノ法案が前提とするカジノの導入方式は、これまでの公営賭博の世界で行われてきた様々な法的検討とは全く異なり民間企業に民業としての賭博事業の実施権限を付与するものとなっています。これは、一般的に「民設民営」と呼ばれる賭博事業の導入奉仕式であり、これらを比較できる形で表にまとめるのなら、以下のようなものとなります。
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 2. アナタの言う「本邦初」は、「先人が誰もやらなかった」だけ

私自身はカジノ合法化の推進派でありながら、この点に関してだけは非常に慎重な立場を貫いているわけですが、本カジノ法案を上程したIR議連はこの「民設民営」型のカジノ導入のあり方を「本邦初の革新的な案である」として強く推奨しています。

ただ、実は我が国において「民設民営」型の賭博導入が提案されたのは、今回が初めてであはりません。実はこの種の提案は、2001年から始まった小泉政権による「聖域なき構造改革」の中でも散々論議され尽くした案件でもあります。

皆様もご存知のとおり、小泉政権は「官から民へ」を旗印として、すべての行政分野に文字通り「聖域なく」切り込んだ政権です。その象徴として最も知られているのがそれまで公共性の高い事業として維持されていた郵政の民営化ですが、それと同様の民営化に向けた政治的圧力は当時の公営競技の世界にも強力にかけられていました。

当時の小泉政権では、竹中平蔵氏が行革担当大臣となり、競馬、競輪、競艇、オートレースと、それぞれの公営賭博を所管する官庁に検討会議を設けさせ、その実施にあたって法的、制度的、そして市場競争的な観点から、実現性を検証させました。ただ、この時の検討においても、市場競争力強化のための民間ノウハウと資金力の取り込みは必要とされながらも、現在の刑法解釈の元で賭博事業を完全民営化することは難しいとの結論が出され、その結果、生まれたのが先述の「公設民営」を旨とする公営賭博制度です。2003年には最も民営化に対して柔軟な立場に居た経産省が自転車競技法を改正、それを追う形で2004年に競馬法、2007年にモーターボート競走法と小型自動車競走法の改正が行われました。

民営事業化を前提とする法改正に最も時間の掛かったモーターボート競走法と小型自動車競走法の改正が2007年ですから、多くの官僚にとっては賭博事業の民営化検討は「ついこの間、総括が終わったばかり」の案件であって、今回のIR議連による民営賭博の合法化提案は「ウソでしょ!?またやんの??」状態なのが実態。事実、私、某公営競技を掌握する部局の担当官にレクした時に「それこの前、総括が終わったばっかの案件じゃん…」とまさに直球のコメントを投げかけられたことがあります。そもそも、IR議連の推す民営賭博案には反対のスタンスの私としては、「そうですよね…心中お察しします」と、苦笑いをする以外ありませんでした。

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