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自衛隊に駆けつけ警護できる戦闘能力はない その1 情報編 - 清谷信一

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©清谷信一
清谷信一(軍事ジャーナリスト)

昨年の安保法制改正にともない、自衛隊がPKO活動などで他国の部隊や民間人などが襲撃を受けた際に、これを武力を持って救援する、いわゆる「駆けつけ警護」が可能になった。安倍首相は、自衛隊は軍隊と同じであり、法律さえ変えれば「駆けつけ警護」といった「かんたんな任務」はこなせて当たり前と思っているのだろう。だがいくら法律が変わっても自衛隊にその能力はない。自衛隊は軍隊として実戦ができない組織だ。自衛隊の現状のまま「駆けつけ警護」をやらせれば他所の国の軍隊の何倍もの死傷者を出すことが予想される。

手足がもげ、一生義手義足、車椅子で生活する、あるいは視力を失って白い杖をついて一生を終わる隊員が続出する可能性がある。政治と行政の無策で戦死者、重度の身体障害者を量産するだけに終わるだろう。それらは政治家と防衛省が真摯に「軍隊」として戦う体制を構築すれば防げる被害だ。政治家、特に与党の政治家たちには脳天気にも自衛隊=軍隊という誤った認識しか持っていない。単に国益とか、国際貢献とか口当たりのよい言葉に酔って実戦を安易に考えているのではないか。

筆者は駆けつけ警護自体を否定するものではない。国益を鑑みて、PKOやPKFに部隊を出すことは奇異なことではない。また軍事作戦において犠牲がでることは当然であるとも考える。だがそれは自衛隊が軍隊と同等の能力と当事者意識を持ち、政府と防衛省が、現場の部隊が遭遇するであろう危険に対して最大限に対策を取らせてはじめて行うべきだ。自衛隊の現実の戦闘をあたかも映画かゲーム程度の認識で、安っぽい国家意識や愛国心から安易に自衛隊を戦闘に投入し、隊員を犬死にさせるべきではない。

率直に申し上げて、自衛隊と軍隊はナリが似ているだけで、全く異なる組織だ。それは自衛隊が全く実戦を想定していない、パレード用の軍隊でしかないからだ。故吉田茂はかつて、「自衛隊は戦力なき軍隊である」と述べたが、自衛隊の実態はその言葉そのものである。警察予備隊発足当時からソ連崩壊に至るまで、自衛隊が期待されたのは西側の一員としての一定規模の「軍隊らしき」組織として存在することだった。商売の見せ金のようなもので、実際に戦争をすることは期待されてこなかった。つまり、なんとなく「軍隊らしい」存在として西側世界の軍事力のカサを上げる存在であればよく、実戦を行うことを全く想定してこなかった。

演習をそつなくこなすことや、災害救助こそが自衛隊の任務であり、自衛隊に実戦を想定した用意も訓練もしてこなかった。演習では敵弾は飛んでこないし、敵弾によって命や手足を失うことはない。このため自衛隊は営々と戦闘機や戦車など軍隊らしく見える「見栄えのいい道具」を買うことだけを目的とし、その運用や実戦での使用を考えてこなかった。率直に申し上げれば自衛隊は「軍隊のフリをしていれば良い組織」なのだ。

かつて、防衛庁の天皇と呼ばれた内局官僚で、後に評論家に転じた故海原治氏は、この点を厳しく指摘してきた。海原は30年、40年も前に自衛隊は実戦を全く想定してない組織であると指摘していたが、その実態は全く変わっていない。

戦死者、戦傷者が出ることを全く想定していないので、ピカピカの戦闘機や戦車は過分に欲しがるが、兵站や基地の防御、戦傷治療、通信、情報といった「裏方」にはカネをケチってきてまともなシステムを構築してこなかった。そもそもそういうものが必要だという認識がない。

多くの国民が誤解しているが良くも悪くも自衛隊は軍隊ではない。元気のいい保守派の政治家や、「論客」の皆さんが信じている「精強たる自衛隊」はイリュージョンでしかない。そのような誤解が蔓延している一因は記者クラブという制度にある。記者クラブ会員の記者は軍事に明るい専門の記者ではなく、比較的若手がローテーションで当てられているだけだ。このため先端の軍事術は勿論、軍事に関する世界情勢は勿論、専門的な知見が無い。だから防衛予算について、具体的な質問ができないし、するつもりもない。

しかも彼らが独占する記者会見では大臣や幕僚長が困るような具体的な予算に関わるような質問はしない。筆者から見ると馴れ合いにしか見えない。つまり素人が当局と馴れ合っている状態だ。そしてその情報源は内局や幕僚監部からのご説明であり、彼らの説明が本当かどうかも検証する能力がない。また諸外国の実態を取材もしていないで海外の軍隊と自衛隊を比較することもできないので「大本営発表」を鵜呑みにする。

そのマスメディアが自衛隊精強の虚像を垂れ流し続けてきた。このため多くの国民が自衛隊は精強だと誤解している。だがその実態は大規模な戦争はもちろん、駆けつけ警護ですら満足に行える実態はない。敢えて誤解を恐れずにいえば自衛隊ができるのは戦争ごっこであり、実戦ではない。

「駆けつけ警護」という実際の交戦の場では情報収集と分析、火力、防御力、衛生などの要素が必要であるが、いずれにしても陸自のレベルは、NATO諸国はもちろん、途上国よりも劣っている。この点を多くの日本人は理解していない。

今回はまず自衛隊の情報体勢を取り上げてみよう。まず駆けつけ警護が必要なのか、必要であるならばどのような状況であるのかをできるだけ正確に把握する必要がある。軍隊ではこれをISR( Intelligence, Surveillance and Reconnaissance:情報・監視・偵察)と呼ぶが、この能力が自衛隊は極めて低い。まず情報機関がないために、現地情報、特にヒューミント(HUMINT:Human intelligence 諜報活動)情報が入ってこない。また人的なネットワークが現地に存在しない。またアフリカや中東に関わりが深い、英国やフランスとの連携も不十分だ。

最近増員された防衛駐在官にしてもその地域のエキスパートというわけでも情報の専門家でもなく、派遣に際して十分な訓練もされていない。しかも情報活動に必要な予算も極めて少ない。これは外交の一元化という名の元、本来防衛省が担当する情報収集を防衛省が放棄していることも大きい。陸自に至っては、歩兵、砲兵、工兵、機甲などと並んで諸外国では当然存在する情報科という兵科が6年ほど前まで存在すらしなかった。それだけ情報を軽視してきた組織ということだ。

更に現地で情報を収集するためにUAV( Unmanned Aerial Vehicle : 無人機)などのアセットが必要だが、これが欠如している。対して近年は途上国ですら、各部隊サイズの偵察用UAVを保有している。日立が開発し、陸自が採用した手投げ式の携行型UAV、JUCX-S1は高度計に不備があり、飛ばした半数が帰ってこない体たらくだ。しかもこれすら筆者が知る限り現地に持ち込まれていない。

陸自にはより大型のヘリ型遠隔操作観測システム、その発展型である無人偵察機システムが存在するが信頼性が低く、先の東日本大震災では一度も使用されなかった。その後国会で防衛省は、無人偵察機システムは導入後1年で習熟期間が足りなかったと抗弁したが、今年発生した熊本地震でも使用されなかった。しかも支援用の地上システムが6両ほどの車輌からなる大掛かりなものであり、PKO用には向かない。そしてその後調達は中止された。これら以外のUAVを陸自は保有していない。つまり陸自のUAVは極めて少ない上に、その信頼性も極めて低い。これは中国やパキスタン以下である。とても先進国の軍隊を自称できるレベルではない。

イラクのサマーワに部隊を派遣した際に、陸自はヤマハの民生用の小型のヘリ型UAV、RMAXを改良したUAVを導入した。これは信頼性も高く、大活躍したのだが、その後は使用されなくなっている。陸自全体の装備としてはともかく、「実戦」で有用であることが認められた装備をPKO用として継続して使用することが何故できないのか。

©清谷信一
またそれ以外にも国内には優れたUAVを開発している、フジインバック、ヒロボー、その他多くのメーカーが存在し、防衛省の装備調達庁が開発するUAVよりも遥かに安価で性能と信頼性が高い製品を供給している。だが、防衛省は既存の防衛企業でないためか、これらの企業から無人機を調達して使用するという発想が欠如している。あるいはこれらの企業には天下りできないからではないかと疑われても仕方あるまい。

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