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インセンティブ報酬に関する素朴な疑問-「アメとムチ」の発想を超えて

「英国のEU離脱には議会の承認が必要」とするロンドン高等法院の判決が出されたそうで、北アイルランド高等法院の判断では先日「不要」とされていましたので、最終的には最高裁判所の判決を仰ぐことになるようです。私は英国法制については詳しくありませんが、国民投票から離脱通知に至るまでの法制度が極めてあいまいな点(国内法、EU法とも)はオックスフォード大学教授の講演等でも問題になっていましたので(たとえばこちらの解説を参照)、高度に政治的な判断においても裁判所の判断は尊重されるのでしょうね。私も不勉強なので偉そうに言えるものではありませんが、これまであまり日本のマスメディアでは、こういったシナリオは想定していなかったのではないかと。

さて(ここからが本題ですが)先週月曜日(10月24日)の日経法務面では、「株式報酬高め、役員挑戦促す」といったタイトルの役員報酬制度改革の特集記事が掲載されていました。ガバナンス・コードにおいても、取締役に対して中長期的な企業価値向上に目を向けることが要請されていますし、報酬でインセンティブ付けを行うべき、とされています(たとえばコード原則4-2、同補充原則4-2①等)。いわゆる「アメとムチ」の発想を基にしたガバナンス改革の一環です。

そもそもの疑問ですが、ニンジンを目の前にぶら下げられて走ることの動機付けとなるのは「短期の業績向上のため」というのはわかるのですが、ニンジン(報酬)というものは、はたして中長期の企業価値を向上させることの動機付けにはなるのでしょうか?(そもそもそのようなインセンティブ付けになることは実証されているのでしょうか?ちなみに、私個人の考えとしては、短期の業績向上であっても、日本企業の経営者が短期の業績向上を目指すインセンティブは別のところにあり、報酬はあまり動機付けにはならないと考えています)中長期の企業価値向上は、マクロ経済の動向を含め、多分に「運」に左右されるところがありますし、もし「運」の部分を排除するために、同業他社との株価変動比率を用いるとしても、それは短期の業績連動の基準とあまり変わらないことになるように思えます。

また、新興企業のように、ワンマン経営者の手腕で伸びてきた会社ならわかりますが、そうでない伝統的な上場会社の場合、出世競争には勝ち抜いてきたものの、これまで会社の存亡の危機を乗り越えた経験がない社長さんが、業績連動報酬を導入することでほんとにリスクにチャレンジすることになるのでしょうか?リスクに立ち向かうのではなく、上手にリスクを回避してきたからこそ社長さんになられたのではないかと。また、創業者やワンマン経営者の方においては、報酬のために経営しているのではなく、むしろリスクにチャレンジすること自体がこのうえなく楽しいからこそ事業をされているのであり、もらってうれしいものがあるとすれば、それは報酬ではなく、次の投資につなげる内部留保ではないでしょうか。

そう考えますと、どうも日本の企業においてはインセンティブ報酬というものが根付くようには思えないのです。ところで上記の日経記事を読んで理解しましたが、世界で語られている役員報酬改革というのは決して「アメとムチ」という米国流のインセンティブ報酬の考え方だけではないということのようですね。むしろ業績が上がれば従業員の利益に優先的に回して、その分は株主に我慢してもらうための説明責任を尽くす、ということも「報酬改革のストーリー」として考える必要がありそうです(しかし、そうなると企業の中長期的な価値向上を図るのは会社と株主との二人三脚で、ということになりますね)。でもホントにそれで機関投資家の方々は納得されるのでしょうか?

なお、上記記事で紹介されていた武田薬品工業さんでは、社外取締役や監査役さんも、金銭交付ではありませんが、3年間の業績・株価によって退任時に株式で報酬を取得できるような業績連動型報酬体系を採用されるそうです。しかし監査役さんが不正の兆候を発見した場合に、手を挙げて問題が表面化した場合には株価は一時的に下がるでしょうから報酬は下がり、何も言わずに放置していた場合にはたくさん報酬がもらえる、ということになるのも何か違和感が残ります。一昨年、第三者委員会の調査によって不正が明るみに出た医師主導型臨床実験に関する不正関与事例のように、後日不正が発覚した場合には企業価値が大きく毀損されることもあるわけでして、早めに手を挙げた監査役さんは(損害を最小限度に抑えたものとして)多大な貢献をすることになりますが、それは一切報酬には反映されないのでしょうか?うーーーん、素朴な疑問は尽きません。。。

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