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なぜ経理はどうでもいいような細かいことを聞いてくるのか

人事コンサルタント 楠木新=文

「経理規定」を理解していない社員は多い

「ホテルの会食の出席者は何人だったのですか?」
「お客さんに持っていった菓子折の単価はいくらですか?」
「このタクシー代は、取引先への訪問ですか?接待後の送迎ですか?」

このような確認を経理担当者から受けた人は少なくないだろう。

「どうして根掘り葉掘り聞いてくるのだ、経理部は自分のことを信用していないのではないか」と思った人もいるかもしれない。そういうこともあってか、「経理部の連中は頭が固くて融通がきかない」と批判している社員もいる。

たしかに経理担当者が疑っているケースもないわけではない。しかし多くの場合は、飲食した人数や手土産の単価、またはタクシーの用途によって勘定科目が変わり、交際費の判断が違ってくることがあるからだ。経理部としては、確認しないと仕事を先に進めることができないのである。

一方で経理担当者は「社内で経理規定やルールを公開しているのに、理解していない社員があまりにも多い」と語る。規定を知らないがゆえに、社員たちは精算の手続きに余分な労力をかけたり、必要のないところに気を使いすぎているという。

円滑に仕事を進めるためにも経理規定を理解しておくことが求められる。

経理はどのように経費チェックをしているか

ただ、経理規定は文言だけを読んでいると無味乾燥なものに思えてくる。ここでは実際に経理担当者がどのように経費をチェックしているのかについて述べてみたい。

ある会社の経理部で「ミスター領収書」という異名を持つベテラン社員がいた。彼の一日は、厚さ10センチを越える冊子を書庫から自らのデスクに運ぶことから始まる。ほぼ一日中書類とにらめっこする毎日だ。彼はとにかく半端ではないスピードで書類をめくる。一枚一枚が宙に舞う感じで、その速さたるや近くで見ていた新入社員は本当に中身を見ているのかと疑ったほどだ。

しかし突然彼の手が止まる。ある箇所をじっと見つめて、さっと付箋を張りつけて何かを書きつける。終われば、またすぐにリズムよく書類をめくりはじめる。こなす仕事量も多く、現場の担当者に対する指示や照会内容も簡潔でわかりやすいという。

彼はなぜそれほど早く書類に目を通すことができるのか、なぜ突然手が止まるのであろうか?

ベテラン経理担当者の頭のなかには問題のない定型パターンが蓄積されている。「その枠組みのなかにさえあれば、どんどん読み進めることができる」と語る。ポイントだけを見れば判断できるのである。

一方で、その枠組みから外れるか、グレーゾーンにある事例に遭遇すると手が止まる。

会計上や税務上の誤りと判断すれば、伝票を作成した担当者に照会や指示をする。疑わしい経費の支出を繰り返している社員がいると、彼の視線は、書類からその背景にいる当該社員に移る。そういう「課題」のある社員をリストアップして重点的にチェックしている会社もあった。この辺りについては次回以降の連載のなかで述べていきたい。

この経理担当者がいう枠組みは、結果的には経理規定や社内ルールに集約されているのである。

経費チェックには3つの目的がある

経理担当者が提出された領収書にもとづいて問い合わせをすると、「領収書の宛名は『上様』だって問題ないだろう。税務署でも受け付けられるはずだ」とか、「店の印鑑がなくても税務上認められると聞いたことがある」などと答える社員がいる。たしかに税務署では、「上様」という宛名の領収書でも無効にはならない。また「領収書」と書いていないものでも、実質的に金額を受け取った事実がわかれば認められることはある。

しかし税務署が認めるかどうかではなく、あくまでも経理部が受け入れるかどうかがポイントだ。彼らは確定申告の説明をしている書籍やサイトを読んで、税務署の対応と経理部への対応を混同しているのだ。

社内規定で「現金を精算する時の領収書には、必ず『〇〇株式会社』と社名を入れてもらうこと」と定めてあれば、飲食店のレジで社名を書いてもらうのが面倒だからといって省略はできない。

経理担当者が経費をチェックする目的は、税務署への対応だけにとどまらない。正確でタイムリーな会計処理を行って、間違いのない決算書(貸借対照表、損益計算書など)を作成するためにも確認している。本文の冒頭にあったように細かい確認をするのはそのためである。

また会社の経費は社員にとって他人のお金なので、業務との関連性や公私混同的な取り扱いがないかといったコンプライアンス面からもチェックしている。

万が一、金銭面で不正が起こると、組織が受けるダメージは大きい。決算の信頼性や税務関係にも影響が及びかねない。使い込み、経費の水増しなどがあれば、関係した社員が刑法上の詐欺罪や横領罪などに問われることにもなってしまう。経理規定やルールは、社員が罪に陥ることを予防する機能も担っている。

そういう意味では、経理部は、正確な決算書類を作成するという適正な会計処理面、税額を申告・納税して税務調査にも備える税務対応面、適正な支出を確保するコンプライアンス面という3つの目的から経費支出をチェックしている。この点も頭に入れて経理規定を一度読み込んでいただきたい。

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