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大統領はクリスチャン〜米国大統領選と宗教:ヒューマン・バラク・オバマ第6回

アメリカ大統領選と宗教は切っても切れない関係にある。

アメリカは国教を定めていないが実質的にはキリスト教国であり、大統領はクリスチャンでなければならない。これも法で定められているわけではないが、オバマ大統領も含め、歴代44人の大統領は全員がクリスチャンだ。(*)しかもジョン・F・ケネディが唯一のカトリックであり、他はすべてプロテスタント。今回、もしバーニー・サンダースが勝っていれば史上初のユダヤ教徒の大統領の誕生となったが、実現しなかった。

サンダースがヒラリー・クリントンに破れたのは宗教が理由ではなく、前々回の大統領選でヒラリーがバラク・オバマに負けたのも性別が直接の理由ではない。しかし黒人差別、女性への偏見が根強く残る国でありながら結果的にまずは黒人が大統領になり、次いで今、史上初の女性大統領の誕生の可能性が濃厚となり、それでもキリスト教徒以外の大統領の誕生は見送られることとなった。

ちなみにサンダースが立候補を表明した際、グーグルでは盛んに「サンダースはユダヤ系なのか?」が検索され、「サンダースの年齢は?」を上回ったと言う。若々しさも重要な要素であるアメリカ大統領選だが、サンダースのいかにも高齢な外観より、ユダヤ教徒であるか否かが有権者の関心を引いたのだ。

■中絶と同性婚

大統領選のたびに論争となるのが中絶と同性婚の是非だ。どちらも敬虔なキリスト教徒は大反対する。同性婚については、ついに米国最高裁が全米規模で認める裁定を下して結着したと思われたが、すると「宗教の自由法」が持ち出された。たとえば店主が自分の信仰に基づき、同性愛者とのビジネスを拒否できるといった法律だ。あるベーカリーが同性婚の披露宴用のケーキのオーダーを拒否した件が報じられ、論争となった。昨年、インディアナ州でこの法案に署名したのは現在、共和党の副大統領候補となっているマイク・ペンス州知事だ。

アメリカにはキリスト教系のメディアもあり、各候補の政策をクリスチャンの視点から詳しく報じる。クリスチャンではあっても信仰心の篤さ、政策との兼ね合いはそれぞれ異なるため、こうしたメディアはそこを追求する。

もっともやっかいなのは無信仰者、無神論者だ。現在のアメリカで無神論者を名乗ると大統領には到底なれず、信仰の強い地域では一般人としての生活もし辛くなる。無信仰者も同様だ。今回、リバタリアンとして立候補しているゲイリー・ジョンソン元ニューメキシコ州知事はディベートで信仰について聞かれ、しどろもどろになった。クリスチャン家庭の出身だがほとんど信仰心は無く、しかしそれを明言するわけにもいかず、答え方に窮したのだった。

*リンカーンなど初期の数人の大統領の信仰心を疑問視する歴史家もいるが、少なくとも対外的には全員がクリスチャンだった

■宗教と人種

アメリカでは宗教は純然たる信仰だけの問題ではない。国の歴史上、宗教と人種・民族・出身国が強くリンクする。ゆえにオバマ大統領は自身の信仰について、非常な苦労を強いられてきた。

よく知られている件として、オバマ大統領の父親がケニア人であったことからアンチ・オバマ派が「オバマはケニア生まれでは?」「ならばイスラム教徒では?」と騒ぎ、ドナルド・トランプが「出生証明書を公開しろ」と叫び続けた問題がある。

この件には複数の偏見と疑念が重なっていた。まずは「ケニア人」「アフリカ人」「黒人」を大統領にするわけにはいかないという人種偏見。次に911テロ後に広がったイスラム教への恐怖。このふたつがない交ぜになり、さらにはイスラム教徒=アラブ人と思い込むアンチ・オバマ派も出た。2008年、共和党大統領候補ジョン・マケインの選挙集会中、ある支持者がマケインに向って「オバマはアラブ人でしょ?」と問いかけ、マケインが返答に四苦八苦したシーンは当時、大きく報じられた。

この問題はつい先日、トランプがようやく「オバマ大統領はアメリカ生まれ」と認めるまで延々8年間も続いたが、同時にオバマ大統領が信者として所属していたキリスト教会の件でも揉めたのは皮肉としか言いようがない。

オバマ大統領はクリスチャンであり、地元シカゴにあるトリニティ・ユナイテッド教会のメンバーだった。夫妻の結婚式と二人の娘の洗礼式は同教会のジェレマイア・ライト牧師が執り行っている。

このライト牧師の教会での過去の説教の内容が、2008年の大統領選キャンペーン中にメディアによって取り上げられた。同教会はいわゆる黒人教会であり、ライト牧師の説教には白人への強い非難が含まれていた。また、オバマ大統領(当時は上院議員)と民主党候補の座を争っていたヒラリー・クリントンを黒人ではないが故に黒人の苦しみは分からないと、これも強く批判していた。ライト牧師の言葉があまりに過激であったためオバマ大統領への批判も高まり、最終的にオバマ一家は同教会から脱会することとなった。

この件もまた、宗教そのものではなく、人種問題が取り沙汰されたのだった。

そして昨年、オバマ大統領は毎年恒例の「全米祈りの朝食」と呼ばれる会での演説で、共和党議員や保守派からの強い批判を浴びた。この会は米国議会とキリスト教団体の主宰により全米と世界各国から3,500人もの宗教関係者、政財界のトップ、知識層などが招かれるもので、2015年はダライラマも招待されていた。

キリスト教を基本とする場だけにオバマ大統領の演説も「神にすべての称賛を」から始まり、「この会は私自身の信仰の道を振り返ることができる場でもあります」など、キリスト教信者としての言葉に満ちていた。

しかし演説半ばでISISに触れ、このような残酷な行為は他国や他宗教でのみ起こるのではなく、十字軍の遠征や宗教裁判が神の名において行われ、米国では奴隷制や人種差別がやはり神の名の下に行われたと語った。

言うまでもなく、ISISと十字軍を比較したことに対して猛烈な反発が起こった。ジム・ギルモア元ヴァージニア州知事(共和党)は「アメリカの全クリスチャンを傷付けた。オバマ大統領はアメリカの価値観を信じていない」と怒りを露にした。こうした反応をオバマ大統領は当然、予測していた。演説の後半には「アメリカは世界で最も宗教心の強い国である」「信仰と政府の区分の必要性」「宗教的マイノリティを攻撃してはならない」などと語っている。自身もキリスト教徒でありながら(キリスト教徒であるからこそ)、アメリカのキリスト教信仰の在り方、および政府との関わりを自己批判したのだった。

この宗教的視野の広さは生い立ちによって育まれたものと思われる。オバマ大統領の父親はケニア人でイスラム教徒であったが、それほど信仰熱心ではなかったようだ。しかし母の再婚相手はインドネシア人で、少年オバマは4年間をアジア最大のイスラム教国で過ごしている。ここでイスラム教への知識と理解を得たはずだ。これは現在のアメリカのリーダーとして貴重な資質と言える。「全米祈りの朝食」での演説にあったように、イスラム教過激派によるテロが頻発する時代ゆえに、イスラム教徒全般に偏見を抱き、忌避し、差別を続ければ事態は悪化こそすれ、決して良くはならない。ちなみにオバマ大統領は一連のテロ犯を「"イスラム教"過激派」と呼ぶことすら拒否し、これも批判されている。

いずれにせよ、アメリカを理解するにはアメリカにおけるキリスト教の在り方と影響力を知ることが必須となる。

■白人・男性・キリスト教徒

アメリカの上院議員は各州2名、全米50州でちょうど100人。オバマ大統領も含め、上院議員が大統領へ立候補するケースも多い。以下は現在の上院議員の宗教分布。プロテスタント、カトリック、モルモン教を合わせると88%がキリスト教徒。人種、性別のデータと併せると、やはり「白人・男性・キリスト教徒」が圧倒的多数派となる。

プロテスタント:55人
カトリック:26人
モルモン教:7人
ユダヤ教:9人
仏教:1人
無し:2人
ーーーーーーーーーーー
計100人

白人:95人
ヒスパニック:3人
黒人:2人
アジア系:1人
ーーーーーーーーーーー
計100人

男性:80人
女性:20人
ーーーーーーーーーーー
計100人

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