記事

第370回(2016年10月27日)

1/2

政治経済レポート:OKマガジン(Vol.370)2016.10.27

電通新人社員の違法残業に起因する自殺がクローズアップされ、改めて日本企業、日本社会の構造的問題が浮き彫りになっています。自覚症状のある企業は是正が急務です。しかし、これは「氷山の一角」。ひとつの重大な労災等の背景には約300倍の潜在的危機があることを示した「ハインリッヒの法則」。潜在的危機を自覚することが肝要です。


1.日本包囲網

「氷山の一角」の氷山自身も、地球温暖化で解凍、消滅の危機。氷山だけでなく、多くの動植物も乱獲等による絶滅の危機に直面しています。

今月初めに話題になった「ワシントン条約」。正式名は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する国際条約」。

1973年の採択以来、条約の締結国会議が断続的に開催され、保護対象動植物の選定や、具体的な保護ルールを決めています。

象牙目当ての密猟によって絶滅危機にあるアフリカ象。1989年、締結国会議は象牙の国際取引を禁止。反対した南部アフリカ4ヵ国(ナミビア、ジンバブエ、南アフリカ、ボツワナ)の象牙取引は例外的に認められています。

象牙取引が犯罪集団やテロ組織の資金源になっているとの指摘もあり、その後も、国際取引のみならず、国内取引禁止の国際世論が拡大。

先月末からヨハネスブルク(南アフリカ)で開催されていた締結国会議では、象牙の国内取引禁止を求める決議を採択。

当初は日本や南アフリカ等が反対。対象を「密猟または違法取引の原因となるような国内市場」に限定する修正を加えて採択されました。

採択後、日本政府代表は「日本の国内市場の閉鎖を求める内容にはなっていない」と発言し、日本は対象外との認識を表明。

日本は、国内に禁止前の輸入在庫があること、取引時の届出や登録を義務付けていること等を理由に「違法品は排除されている」との主張です。

日本では、江戸時代以降、象牙は印鑑、三味線のバチ、装飾品等の材料として利用されてきました。市場規模は約20億円と言われています。

「違法品はない」との政府の主張とは異なり、先日も無登録の象牙を売買した業者が摘発されました。売買の舞台になったのはネットオークションサイト「ヤフオク」。

国際動物保護団体がヤフオクでの象牙売買の実態調査結果を公表。それによれば、年間落札額は7億円超。ヤフオク全体の落札件数が頭打ちとなる中、象牙落札件数は10年前の7倍増。象牙の量は象約7千頭分に相当するそうです。

同調査によれば、最近ヤフオクに出品された象牙のうち、半分以上が届出や登録の履歴が未開示。同団体はヤフオクに象牙売買の中止を要求。一方、ヤフオク側は「違法な取引は一切ない」と弁明しているそうです。

決議を採択した締結国会議に先立ち、9月に各国政府や環境保護団体が加盟する国際自然保護連合が象牙の国内取引禁止を求める勧告を採択。

日本とナミビアが反対したものの、南部アフリカ4ヵ国の一角、ボツワナに加え、米国やEU(欧州連合)、主要消費国である中国も賛成。「日本包囲網」が敷かれていたようです。

どうも日本は国際会議における情報収集に遅れをとっている感じがします。今後も、ウナギやマグロ等、日本にとって難題が続きます。

「食」に関わる種については賛否相半ばでしょうが、少なくとも「食」に関わらない種については日本も積極的に賛成していくべきだと思います。個人的には、「食」に関わる種であっても、漁獲制限等の資源保護には協調的に臨むべきと考えます。

それにしても人間という種は地球にとって破壊的な種です。愚かで傲慢と自覚すべきでしょう。保護すべき動物で生業を立てている人々の事業や生活をどうするか等、検討すべき課題をクリアしつつ、動植物と共生する種でありたいものです。

2.2つの低さ

「氷山の一角」と言えば、今月は地球温暖化対策に関するパリ協定も話題になりました。このパリ協定は、1994年に発効した国連気候変動枠組条約(別名「地球温暖化防止条約」)の昨年末の締結国会議での合意です。

COP(コップ)は締結国会議の愛称。「Conference of the Parties」の頭文字。他条約の締結国会議も同様ですが、なぜかこの条約の固有名詞のようになっています。

発効翌年の1995年から毎年開催。1997年の京都でのCOP3では、2000年以降のルールとして法的拘束力のある数値目標を定める京都議定書を採択。しかし、京都議定書は米国が批准せず、カナダも脱退。残念な顛末となりました。

昨年末にパリで開催されたCOP21。2020年以降の温室効果ガス削減目標を定め、世界全体で産業革命前に比べて気温上昇を2度未満(極力1.5度以内)に抑える内容に合意。

今世紀後半に温室効果ガス排出量を実質ゼロにするのが目標です。発効には、批准国55ヵ国、かつ批准国の温室効果ガス排出量合計が世界の55%以上になることが条件です。

米国大統領選挙の共和党候補トランプ氏は早くからパリ協定に反対。これに対し、ホーキング博士等を含む世界の科学者400人がトランプ氏を非難する公開書簡に署名。

公開書簡は「トランプ氏が当選してパリグジット(パリ協定離脱)を現実化すれば、地球環境と米国の信頼にとって厳しい結果がもたらされる」と警告していました。

9月3日、意外にも、排出量世界1位の中国(シェア約20%)と2位米国(同約18%)が同時批准を発表。

米国は退任するオバマ大統領のレガシー(遺産)として批准。さらに、トランプ氏がパリ協定反対を明言しているため、トランプ氏当選を阻止し、京都議定書での迷走(クリントン政権で締結、ブッシュ政権で批准見送り)再現の回避に向けて早めの対応に出ました。

中国は自国に課される削減目標が「2030年頃に排出量増加頭打ち」と甘い内容のうえ、南シナ海問題等で対立する米中の数少ない「協調カード」。両国の思惑は一致しました。

9月21日時点で批准60か国、合計排出量約48%に到達。排出量4位のインドの動向に注目が集まっていましたが、インドも10月2日に批准。

英国離脱への対応もあって出遅れたEU(欧州連合)。米中印の動きに焦り、加盟国の国内手続優先の原則を棚上げし、10月5日、異例の一括批准。面目を保ちました。

10月5日時点で批准74か国、合計排出量約59%に到達。発効条件をクリアし、国連はパリ協定の11月4日発効を宣言。

発効決定により、11月7日からマラケシュ(モロッコ)で開催されるCOP22で具体的な実務会議がスタート。2020年までに先進国が1000億ドルの対策資金を投入することから、温暖化対策ビジネスの争奪戦も始まります。

さて、排出量5位の日本。今国会での承認を目指し、現在審議中。完全に世界の動きに取り残されました。

各国の動向を見誤った原因は「2つの低さ」。アンテナの低さ(情報収集活動の失敗)と政府の関心の低さ。米国の両大統領候補が反対を表明しているため、急ぐ必要のないTPP承認になぜか血眼になり、パリ協定を失念。優先順位付けが間違っています。

COP22で開催される実務会議には、未批准の日本もオブザーバー参加できるものの、議決権も発言権もありません。日本に不利な議論が進展しても、異議を表明できません。

21世紀の国際社会の覇権構造は「G0(覇権国家なし)」とも「G2(米中)」とも言われる一方、「G4(米中印露)」と予測する向きもあります。

「G4」の米中印に無視された日本。EUも米中印に追随。「G4」時代の日本の遊泳術の拙さと難しさを垣間見せた展開です。残る頼りはロシアでしょうか。

あわせて読みたい

「フィリピン」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    よしのり氏「バイキング」を叩け

    小林よしのり

  2. 2

    JTBを筆頭に死にゆく旅行代理店

    木曽崇

  3. 3

    都民ファが都議賞与UP阻止に反対

    上田令子(東京都議会議員江戸川区選出)

  4. 4

    NHK契約義務なら相応の番組作れ

    中田宏

  5. 5

    日本では皆が狙える年収1000万円

    永江一石

  6. 6

    宮司殺傷 遺書を2300箇所に送付

    文春オンライン

  7. 7

    中国人カキ殻100t投棄 どう対策

    高橋亮平

  8. 8

    皇后陛下に退位後も仕えたいの声

    NEWSポストセブン

  9. 9

    聴取拒否する貴乃花の行動は異様

    鈴木宗男

  10. 10

    藤吉久美子 50代ドラマPと不倫か

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。