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TTPだけじゃない、危機に瀕するTTIP交渉 - 岡崎研究所

 米国国際ビジネス評議会のロビンソン会長とナイルズ元会長が、9月20日付のウォールストリート・ジャーナル紙で、危機に瀕するTTIP交渉の真の問題は真剣味に欠けるEUの態度にあると述べています。要旨は次の通りです。

もはや不可能

 TTIPは最早不可能と思われても仕方がない。EU離脱を決めた英国の国民投票、米大統領選挙戦での保護主義的言動、欧州の指導者らによる強硬な反対等、TTIPは、その成功に必要な真剣な支持を欠いている。

 TTIPの商業的、外交的論拠は圧倒的である。それは年間1兆ドルを超える相互の貿易にそれぞれの市場を更に開放する。既に世界最大の直接投資の関係がある両者の間で、ルールに基づく投資を強化する。非関税障壁を減らして、サービス貿易の市場アクセスを改善する。この努力は米国とEU双方の経済の推進力となるもので、双方の財界は一致してこの野心的な試みを支持している。

 しかし、4年に及ぶ交渉の進展は緩慢である。TTIPは米国では逆風に遭遇している。二人の大統領候補が半世紀に及ぶ超党派の貿易政策に背を向け、反貿易、孤立主義、保護主義の勢力に迎合している。しかし、TTIPに対する最大の挑戦は欧州の指導者の露骨な反貿易と反米の偏見にある。

 過去2年程の間、欧州議会は一貫して米国の政策と立場を見くびり、有害な「レッド・ライン」を表明して来た。例えば、TTIPによってEUの政策や規則は一つたりとも変更されない、あるいは米国はEUの規則を丸ごと採用すべきだという発言がそれである。特に失望させられるのは、米国の頑迷さを理由にTTIPの交渉を停止すべしとするここ数週間のオーストリア、フランス、ドイツの一連の政治的発言である。これらの苦情に根拠はない。実際には、米国は工業製品、農産物の関税撤廃及びサービス貿易と政府調達における障害の除去に非常に前向きであり、EUは遥かに多くの分野を交渉の対象外として来た。

 欧州委員会のマルムストロム委員(通商担当)はTTIPを擁護して来たが、欧州の指導者の全般的な反応には失望させられる。メルケル首相はTTIPを強く擁護し一貫性と勇気を示して来たが、多くの指導者は沈黙している。

 TTIPに到達するには困難な決定と妥協を必要とする。米国の財界は、包括的で高度のTTIPを達成するよう政府に働きかけている。例えば、TTIPから金融サービスの規制を除くという米国政府の主張に一貫して反対している。

 問題の本質は、EUは本当に交渉に真剣なのかということである。欧州の指導者は国内の批判をかわすためにTTIPを利用しているに過ぎないのか。もし、加盟国経済の相互連携を強化したいのならば、TTIP支持にまわるべきである。そして、欧州委員会は年末までに複数回の交渉ラウンドを予定すべきである。
出 典:Peter Robinson & Thomas Niles ‘Transatlantic Trade Talks Lack European Leadership’ (Wall Street Journal, September 20, 2016)
http://www.wsj.com/articles/transatlantic-trade-talks-lack-european-leadership-1474398324 

 9月23日、EUの通商担当相の非公式会合が開かれ、TTIP交渉が議題となりました。オバマ政権の期間中に交渉が完了することはなく、来年には交渉は一時停止することになろうとの見方で一致したと伝えられています。すなわち、オバマ政権の期間中の合意を見送るということです。マルムストロム委員はオバマ政権の間に完了しなければ、交渉は自然に停止のやむなきに至ることを認めています。この会議でドイツはEUの交渉マンデートの改定を求め、フランス、オーストリアは交渉の中断を提案したと伝えられます。

 メルケル独首相はTTIP支持を維持していますが、ガブリエル副首相は「交渉は事実上失敗している、米国の要求に屈するべきではない」と述べています。オランド仏大統領は「交渉は泥沼に入り込んでいる」と述べています。

熱意の欠如

 上記論説は、国際的に活動する米財界の立場から書かれた一方的な論評です。交渉の実態は詳らかにされていないので、どの程度公正な論評であるかは判断しかねます。しかし、上述のような欧州指導者の発言は、TTIPに対する熱意の欠如を如実に示すものです。EUの真剣さを疑われても仕方ありません。現下の情勢にあっては、EUにとってTTIPは優先事項にはなり得ないということでしょう。米国の巨大な多国籍企業に対する恐怖感、グローバル化の動きに対する敵愾心、欧州の生活様式が脅かされるという反感等、各方面に反対論が強い様です。9月17日にはドイツ各地でTTIP反対のデモが行われました。

 10月20、21日のEU首脳会議は議題に貿易を掲げていますので、TTIPの扱いに何らかの決定がなされるかも知れません。いずれにしても、オバマ政権の期間中に交渉が結実しない場合、これまでに合意された成果を保全し得るのか、米国の新政権と交渉が再開され得るのかという問題が生じます。もし、EUがその交渉マンデートを改めるということになれば、全てはご破算となります。

 TTIPは無理ですが、EUはカナダとの自由貿易協定(CETA)は締結に持ち込む意向のようです。交渉は決着しており、欧州委員会は署名と批准を提案しています。10月のEU首脳会議で承認を得て、署名が行われます。その後、欧州議会の承認を求めることとなりますが、批准のためには更に38の議会の承認(28の加盟国の議会だけでなく、幾つかの加盟国では憲法により地方議会の承認も必要とされています)も必要で、これには5年を要するともいわれます。従って、EUは批准を待たず、協定の全部または一部の暫定適用を計画しています。

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