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【TPPの行方シリーズ61】パリ協定を放置する大失態- TPPを急ぐ理由はなし - 16.10.26

今日10月26日(水)、私は何回目かの宮崎入りをしている(2011年は口蹄疫現地対策本部長として2ヶ月間東国原知事と同じ庁舎で仕事をした)。さっぱり審議が進まないTPP特委の、やっと折り合いがついた地方公聴会である。この間の森山与党筆頭とのやりとりを記したら、紙数がいくらあっても足りないので省くが、大島議長裁定による審議再開の第一歩である。明日27日(木)には、午前に与党が強行した農業と食の安全の2つのテーマの野党分の参考人質疑と午後TV入りの総括的集中審議が行われる。
 こうした中で、遅ればせながら、1週間前の私の質疑の概要報告の続きをさせていただく。

<パリ協定の発効時期を見誤る>
 パリ協定は昨年11月オランド大統領の強烈なリーダーシップ、それに加え習近平とオバマ大統領の3人の頑張りにより、不充分ながら世界の地球温暖化に対するルールが出来上がった。各国が自主的に目標をつくり、それに向けてCO2を削減していく。そして2100年までに2度上昇をしないようにしていくというものであり、強制力をもったものではない。各国が削減目標を策定、5年ごとに目標を提出し、自国の取り組み状況を定期的に報告、レビューするというものである。アメリカに至っては、企業のバックアップを受けた議員達が反対するということで、権利・義務の伴わない行政協定として国会の承認を得なくて済むようにしていた。発効を急ぐためである。
京都議定書は1997年京都で開かれたCOP3で採択されたが、2005年に発効するまでに7年もかかっている。その間に2001年に先進国のみに削減目標を義務付けることに不満を持つアメリカが離脱し、中途半端なものになってしまった。したがってパリ協定の発効力も、どんなに早くても2018年以降だとたかをくくっていた。

<米・中の共通の利害、CO2削減>
 ところがどこかで歯車がいい方向に回りだした。オバマ大統領はTPPを第2期政権の目玉の遺産としたいとしていたが、TPPがままならないと見て、パリ協定を遺産にしたいと考え始めたのであろう。エコ大統領としてパリ協定の批准を急ぎ始めた。
 そこに、経済大国への途だけを真っ直ぐ進み、環境については何の対応もしないと批判されている中国の習近平主席が一枚絡むことになった。中国はPM2.5の被害が酷く、北京ではマスクをしていかざるをえなくなっている。環境問題は中国にとっても大問題になってきているのである。
 中国は最近言い始めた「責任ある大国」の証拠に、経済成長だけを求めているのではなく、環境問題にも配慮するという姿勢を世界にアピールする必要があった。
 ところが、米・中が手を握るのは、南シナ海問題があり、なかなか難しい。そうした中、CO2削減ならば手を握れるということで、折り合ったのではないかとの見方もある。

<気候変動防止に取り組むオバマ大統領がNAFTA(TPP)のISDSに攻撃される羽目>
 TPPのISDS絡みで別途解説しようと思うが、オバマ大統領はカナダのガス会社が設置するパイプラインは、気候変動防止の世界的取り組みに反するとして拒否した。これに対して怒ったカナダの天然ガスパイプライン会社が、NAFTAの下のISDSを根拠に1兆8000億円(150億ドル)の損害賠償請求を起こしている。オバマの環境政策がISDSから攻撃されるという皮肉な結果を生んでいる。つまりオバマの目指した二つの遺産(レガシー・パリ協定とTPP)の衝突である。
この結果アメリカではNAFTAと同じくISDSのあるTPPは、アメリカの法律制度の根幹を揺るがすとして問題視する裁判官や法学部の教授等が増えている。消費者、労働者等の一般国民に加えて、今度は法曹関係者等有識者もTPPに反対し始めたのだ。オバマ大統領のハーバード・ロースクールの指導教官(Laurence Tribe)がこの先頭に立っているという。

<世界中はまじめにCO2削減に向かう>
 こうした中で9月3日、2大CO2排出国の米(17.9%))中(20.1%)はそろって批准を達成した。それにもかかわらず、9月20日の所信では、パり協定への発言は全くなかった。様子を見ていた世界第4位のCO2排出国インド(4.1%)も10月2日急遽加盟した。EUは加盟国28ヶ国全員で手続きをするまで批准しないことになっていたが、地球環境問題でリーダーシップを発揮してきた自負があり、EU抜きで発効されてはたまらないという思惑が働いたのであろう。10月5日急遽方針を変更して、国内手続きを待たずに加盟することになり、とうとう2つの発効要件である、世界の55ヶ国、世界の全CO2排出量の55%、の二つをクリアーしてしまい、昨年12月の成立以来10ヶ月余の11月4日に発効することになった。主要国の中で日本(3.8% 第5位)のみ取り残されたのである。このため11月8日からモロッコのマラケシュで開催されるCOP22締約国会議の発言権が与えられないことになってしまった。
 ふわっと決まっただけで、細かいことは後回しになったパリ協定のルール作りに加われないと、今後の産業政策、環境政策に支障をきたしてしまう。TPPへの参加はルールつくりへの参加だと主張していた安倍政権が、今後の環境政策を牛耳るルール作りをほったらかしにしているのである。まさに大きな矛盾である。
 その一方でアメリカの承認の見込みが立たず、ここ数年発効の見通しの立たないTPPを急ぐというトンチンカンンなことをしているのが、我が日本なのだ。

<日本だけがいまだに経済成長優先>
 日本はかつて公害先進国といわれ、世界が環境問題をクリアして生き残れるかどうかは、日本が立ち直れるかどうかにかかっているといわれ、地球の危機を知らす「カナリヤ列島」と呼ばれたこともある。中国のPM2.5も日本のかつての光化学スモッグを思い出す。4大公害病もつい昨日のことである。だからそういう反省に立ってCOP3京都会議を主催して、京都議定書を作り上げるのに尽力した。
 ところが、その後はさっぱりで、世界の環境団体からは蔑まれとおしである。ドイツの環境団体ジャーマン・ウォッチは、日本の環境政策は世界58カ国のうち下から4番目と折紙(?)をつけられている。要は動きが鈍く何もしていないのである。その一方で中国以上に「今だけ、金だけ、自分(自国)だけ」のTPPに邁進中であり、挙句の果てに今どきGDP500兆円から600兆円に拡大するなどとのたまわっている。日本は今や中国になり代わって無責任な経済大国のレッテルを貼られ、かつてのエコノミック・アニマルの称号に逆戻りである。

<TPPをやめ、パリ協定を早く批准すべし>
 安倍首相は、07年のサミットでは、2050年までの世界のCO2排出削減を提案し、今年5月の伊勢志摩サミットではパリ協定の年内発効に取り組むと宣言している。しかし、実行が伴っていない(ただ、これに対しては答弁年内発効はできると言い訳した)。
 TPPがらみで言えば、安倍総理は日本がTPPの承認をすればアメリカの承認にも弾みがつく、と口癖のように言っているが、京都議定書の離脱の例にみられるとおり、アメリカは日本などへのかっぱで全く気にしない。自分勝手に振舞うだけの国である。
 AIIB(アジアインフラ投資銀行)の件では、アメリカの強い意向で日本とアメリカだけが入らなかった。ところが、パリ協定では、米・中にさっさと手を握らされているのである。日本外交は相変わらずアメリカに振り回されどおしであり、TPPが成立してしまったら、もっといいように小突き回されるのがオチである。
 TPPはやめ、パリ協定を急ぐのが本筋であり、国益にかなうのは明白である。

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