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ヒラリーの連邦準備制度人事改革公約は、とんでもない愚かな提案 大統領が変わることで、われわれが実際に心配しないといけない事とは?

アメリカでは大統領が全てを単独に実行できるわけではありません。

大統領府は行政、つまり法律に従って政治を実行することを担当しています。

法律を新しく作る、あるいは廃止、改変するのは議会の仕事で、下院と上院から構成されています。議会は立法府と呼ばれます。

最後に法律をちゃんと守っているか? を判断する仕事が最高裁になります。最高裁は司法を担当しているわけです。

だからいかに大統領の権限が大きいとはいえ、議会や最高裁との間で、チェック・アンド・バランスの関係になっているので、勝手な事は出来ないのです。

「私が大統領になったら、こうします」という公約は、抱負を語っているのであって、実際には議会や最高裁の協力が無ければ、公約は実現しません。

だから今回の大統領選で両候補が公約した大部分のことは、実現しないでしょう。

しかし、その中にあって、ルール上、実現しやすいこともあります。

今日の話題は、その実現しやすいことで、当座、我々が心配しなければいけないことは何か? ということに的を絞って書きます。

それは:

1) 最高裁判事の任命
2) 連邦準備制度の人事改革

です。この二つは、選挙後直ぐに、そして確実に影響が出る問題です。

【最高裁判事の任命】

まず最高裁判事は「大統領が人選し、それを上院が承認する」という手続きを経ます。最高裁判事は全部で9名で、現在1名が欠員です。残りの8名のうち4名は民主党大統領によって、4名は共和党大統領によって指名されました。つまり五分五分です。

最高裁判事の仕事は生涯任期です。つまり一度指名されたら、死ぬまで勤め続けるわけです。そうしている理由は、判決がその時の世論のムードや、判事の再任への思惑など、に左右されないようにとの配慮からそうなっているのです。

今年2月に、共和党のレーガン大統領が指名したスカリア判事が他界しました。それでオバマ大統領はメリック・ガーランド氏を指名しました。しかし現在の上院は共和党が過半数を占めているので「大統領選挙が終わるまで、承認作業は棚上げする」としています。

つまり民主党のクリントン候補が大統領になった場合、もう選挙は終わったのだから、承認作業をいつまでも棚上げにすることは出来ないので、ガーランド氏でOKかどうか、上院は決めなければいけないということです。

大統領選挙と同時に上院・下院選挙も行われており、特に上院選挙は微妙で、ひょっとすると民主党が逆転し過半数を獲得する可能性があると言われています。その場合、ガーランド氏が承認される可能性がぐっと高まるのです。

人工中絶問題、LGBT(性的マイノリティー)の人権問題、移民の問題などは、事あるごとに法廷でチャレンジを受ける問題であり、その度ごとに法の解釈や最高裁の判断が試されます。だから最高裁のカラーが共和党色を帯びるか、民主党色を帯びるかで、社会が保守的になるか、それともリベラルになるか? かなり決まってくるのです。

【連邦準備制度の人事改革】

次に連邦準備制度(FRS=Federal Reserve System)の人事改革問題ですが、まず共和党のドナルド・トランプ候補は「現在のジャネット・イエレン議長の仕事ぶりにはガッカリだ。だから自分が大統領になったら、彼女は再指名しない」と言っています。

FRBメンバーは、大統領が指名し、上院が承認するきまりになっています。イエレン議長の任期は2018年までなので、もしトランプが大統領になれば不確実性が発生するわけです。

次にクリントン候補が大統領になった場合、イエレン議長は安泰だと思います。しかしヒラリーは「投資銀行出身者は連邦準備制度理事会や地区連銀総裁を務める事は出来ないというルールを導入する」と公約しています。

現在、投資銀行出身者は5名であり、その中にはダドリーNY連銀総裁やフィッシャーFRB副議長も含まれています。

ヒラリーはたぶん「今後の任命にあたっては……」という意味でこの発言をしたまでで、わざわざダドリーやフィッシャーを解任するとは思えませんが、「投資銀行経験者はシャットアウトする」というのは有権者におもねる、人気取りのためのコメントであり、およそ実際の中央銀行の運営に際してベストな判断とは思えません。

まず現在の国際金融は、どんどん複雑さを増しており、金融システムの「配管部分」がどうなっているかを熟知している実務経験者が居ないということは、とんでもない判断ミスを招来するリスクがあります。

次に過去の名物FRB議長と呼ばれる人たちは、ウォール街出身者が多いという点も見逃せません。

たとえば、たぶん世間一般で最も尊敬される歴代のFRB議長、ポール・ボルカーはチェース銀行のエコノミストでした。

またボルカーが「過去最高のFRB議長」として仰ぐウイリアム・マーチンJr.は、地場証券、AGエドワーズの場立ちから身を起こした人で、FRBが財務省や大統領からの影響を退け、独立性を保つために戦い続けた人です。

1930年代の大恐慌が起きた一因として、ベンジャミン・ストロングNY連銀総裁が、1929年の大暴落の直前に他界したことを指摘する向きが多いです。ストロングは量的緩和政策(QE)の効果を最初に提唱した人であり、強烈なリーダーシップを持っていました。彼はバンカース・トラストの頭取でした。

これに対して「学会の大物」と呼ばれた非ウォール街出身者は、象牙の塔ではカッコイイことを言っているけれど、実際にFRB議長をやらせたら、ダメな人が多かったです。その代表格はコロンビア大学のアーサー・バーンズでしょう。

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(出典:ウィキペディア)

バーンズはグリーンスパンの師匠であり、景気サイクルの最高権威でした。しかしFRBにおけるバーンズの采配は常にインフレに対して寛容で、それが長期に渡るインフレ圧力の蓄積を許しました。おぞましい1970年代への道筋は、バーンズ時代の誤った采配によってつけられたのです。

さて、地区連銀は地方経済の実情をよくわかった人が勤めることが理想だと思うので、必ずしもウォール街出身者である必要は無いけれど、ニューヨーク連銀は「ウォール街のお目付け役」であり、金融危機に際しては「故障したとき、何処を直せば良いか?」を熟知した人が勤めるべきだと思います。

クリントンの言う「部外者の方が利益相反が無くて良い」という潔癖主義的な主張は、有権者の耳にはこころよいかも知れないけれど、1930年代の混乱期に湧き上がった(こういう時こそ、ベンジャミン・ストロングが生きていて欲しかった!)という声、その教訓を完全に忘れていると思います。

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