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グローバル化が迎えた新たなステージ

日本経済は1980年代まで貿易を支えに成長し、企業は直接投資による海外進出も活発化させてきた。しかし、その後アジアなどの新興国諸国の台頭と先進国市場の成熟化に伴いビジネスのグローバル化は新たなステージを迎えているという。金沢工業大学虎ノ門大学院で「グローバルビジネス」の講義を担当し、世界的コンサルティングファーム、キャップジェミニで自らそれを実践している山田英二氏に、その変化について聞いた。

グローバル化とは交易と分業の広がり

フランスの経済学者、トマ・ピケティの『21世紀の資本』が話題になった。資本収益率は経済成長率を上回る(r>g)とし、資産を持てる者はますます富み、持たざる者はより貧しくなるというのが同書の論旨だ。確かに先進国国内の所得格差は拡大しているが、もっと俯瞰的に世界を見ると、別の構図が浮かび上がってくる。かつての開発途上国が新興国として台頭し、先進国との経済格差は急速に狭まっている。彼らの成長は先進国の資本や技術の流入と新たな分業体制によるもの。すなわち、グローバル化の産物だ。

そもそもグローバル化とは、交易と分業が地球規模で拡大することで、人類の進歩の歴史と重なっている。また、役割分担も状況と共に変化している。例えば、かつて途上国の役割は、先進国への原材料や安価な労働力の供給だった。やがて、先進国に代わり組立加工を担う国も現れ、今日では急速な経済発展により新たな市場(しかも巨大な潜在市場)を形成しつつある。

日本の企業は、こうした新興国企業と真っ向から競争するのではなく、彼らの安価な生産能力を活用しつつ新たな技術や製品の開発(いわゆるイノベーション)やマーケティングの役割を担うことが期待されている。また、成長著しい新興国の市場がもたらす新たな事業機会に積極的に取り組むことが喫緊の課題だ。

手が届く高さの果実を採りつくした後に──

20世紀のグローバル化では、モノが売れる市場を発見すれば良かった。日本企業も1980年代までは、工業製品をもっぱら欧米諸国に売っていた。しかも既存の製品を改良し、より安価に輸出することで成功を収めた。そこには安定した需要と比較的オープンな流通経路が整備されていて、モノ作りに集中すれば良かった。いわば、手の届くところにある果実をどんどん採っていたのだ。

しかし、それらを採りつくすと、もっと高いところにある果実まで木を登る必要がある。経済成長の担い手は先進国から新興国に移っている。いまや日本のような社会インフラを持たず、生活水準の異なる地域にビジネス機会を求める時代になった。そこにはこれまでのような市場(顕在化した需要、賢い消費者、オープンな流通経路など)はなく、現地の生活に合ったビジネス(商品と売り方)を作らなければならない。つまりグローバル化は、市場を「発見」する段階から、現地に合った新たなビジネスを「開発」する段階(=ビジネスの土着化)へ移ったのだ。

これからの海外進出で重要な土着化。それは、ビジネスモデル全体を現地の生活に根づかせること。

先進国の常識を捨て 新たな事業として取り組む

ビジネスの土着化には、既存製品の海外営業や現地生産とはアプローチがまったく異なる。まったく新しい事業を始めるくらいの意気込みで、長期的展望を持ち、慎重かつ粘り強く取り組む必要がある。海外進出に失敗し短期間で撤退する企業の多くは、新興国市場も既存事業の延長としてとらえ、営業部門主導で海外販路を開拓するケースだ。そもそも製品スペックの根本的見直しや地域を巻き込んだ販路開拓に取り組むことなど想定しておらず、当初の販売計画が未達になると、市場は存在しない(または時期尚早)と判断し、早々に撤退してしまう。

いまやヤクルト社の経常利益の7割を担い成長を続ける同社海外事業も、当初は販社主導だった。フィリピンに進出した当時(1978年)、現地に月極という商習慣はなく、代金が回収できず撤退の危機に直面した。そこで本社から平山博勝氏(元専務国際事業本部長)が現地に乗り込み、販売方法を現金化し、ヤクルトレディに資金管理教育を徹底する一方、学校や医療機関とタイアップして製品の有効性を効果的に宣伝するなど、ビジネスモデルを徹底的に土着化させることで事業を再建した。まさにこれからの海外事業とは、経営者がそれだけの覚悟を持ち、総力を挙げて挑む体制が重要だ。

また、グローバル化は製造業に限らず、サービス業にとっても重要なテーマといえる。例えば銀行をはじめ日本の金融業界には、多くの優れたサービスがある。それらを土着化させ、現地の経済成長を取り込む機会はある。従来、日本の金融機関が現地企業に積極的に融資することはなかった。しかし、そのリスクを管理する方法が開発できれば、高い場所の果実に手が届くだろう。

さらに、日本のサービス産業にはエンターテイメント(芸能やスポーツ)、そしてホスピタリティ、フードなど、誇れる分野がたくさんある。それらの世界的な展開も大いに期待したい。

百聞は一見にしかず百見は一住にしかず

グローバル化が市場の発見から開発へシフトすると、新興国で市場ができ上がった後に参入を試みても、多くの場合手遅れになる。最初に市場を開発した企業のブランドや製品が、市場に浸透しているからだ。残念ながら、日系家電メーカーはアジア市場で韓国や中国のメーカーに遅れをとった。市場の開発段階から、すでに競争は始まっているのだ。

近年はマイケル・ポーターが提唱する「共通価値の創造(CSV)」のように、先進国企業がビジネスを通じ途上国の社会的課題を解決することで、自社の市場を確保するケースも見られる。

CSVであれ土着化であれ、現地プロジェクトを成功に導くリーダーの育成には、やはり生活者としての現地体験が必須だ。ブリヂストンの津谷正明会長から「百聞は一見にしかず。百見は一住にしかず」という話をうかがって、なるほどと思った。

私の勤める外資系のコンサルティング会社でも、日々外国人の同僚とさまざまな問題で議論をしている。たとえ相手の主張が自分の常識に反していても、相手なりの合理性があると考え、その洞察に努めている。

市場の開発を担う方々にとっても、自分の尺度にとらわれず、現地の視点で相手を受容する姿勢が不可欠だと思う。

山田英二(やまだ・えいじ)
K.I.T.虎ノ門大学院(金沢工業大学大学院) 教授
キャップジェミニ株式会社 エグゼクティブ ディレクター

米国ハーバード大学経営大学院(MBA)修了。新日本製鐵、ボストンコンサルティンググループ、ソロス・プライベート・ファンズ、三菱UFJリサーチ&コンサルティングなどを経て現職。教壇では社会人を対象にグローバルビジネスなどを担当。著書に『新しいグローバルビジネスの教科書』などがある。

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